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魔界へ
18.フェリエ
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「フェリエが帰還者!?」
「ええ、ええ!そうなんです!私もとある世界に飛ばされて、その時にこの力を得たんです!」
フェリエが嬉しそうに叫んだ。
「まさか同じ帰還者に会えるなんて…しかもそれがテツヤさんだったなんて…これは運命でしょうか?」
「そうだったのか…フェリエが行った世界はどんな所だったんだ?」
「この世界とあまり変わりはなかったですね。でももっともっと平和で凄く穏やかなところでした。ですので帰ってきた時は不安で押しつぶされそうだったのですけど、ここの人たちによくしていただいて」
そう言ってフェリエは村人たちの方を振り返った。
そんな事情があったのか。見た目普通の人間のフェリエが魔族のみんなを助けるために必死になっていたのもわかるな。
「残念ながら私の力ではみんなを守ることができなくて…どうしようかと思っていたところをテツヤさんに救われたんです。本当に、なんて感謝していいのか…」
「いやいや、そこまで言われるようなことはしてないよ。褒められてばかりだとくすぐったくなっちゃうな」
俺は照れ隠しでスープを口に運んだ。
トマトの滋味が口いっぱいに広がる。
「しかしこの世界にもトマトがあったなんてな…」
「これは本当に美味しいな。こんな美味しいものが魔界にあったとは知らなかったぞ」
アマーリアも感心したようにスープを口に運んでいる。
「それは知らなくて当然ですね。なにせこれはフェリエがこっちに戻ってきてから作った作物ですから」
バーチが得意そうに言った。
「フェリエが作った?」
「いえ、作ったなんて大層なものじゃないですよ。元々この辺に自生していたものを品種改良して食べやすくしただけなんです」
「フェリエっていつくらいに戻ってきたんだ?」
「私が飛ばされたのが十歳の頃で戻ってきたのが十五歳なので…もうかれこれ五、六年前になりますね」
つまり五年くらいでこのトマトを作り上げたということか。
フェリエの力があればこの世界の農業は一変するんじゃないだろうか。
「そこまで大したことはできませんよ。ただ掛け合わせるとどうなるのか大体わかるというくらいで」
「いや、それでも大したもんだよ。このトマトだって絶対に引く手あまたになるぞ」
「それは確かにその通りだ。今すぐフィルド王国で育てたいくらいだしな」
ソラノの言葉にキリやフラムも頷く。
「それにしてももうすぐ冬だというのにトマトが育つなんてな。しかもこの辺は春みたいに温かいんだな」
「それは魔界は土中や空中の魔素が濃いからですね。魔素の放つ熱が大気や土を温めるのでヒト族の住む場所よりも温かいんです」
「そうなのか…だとすると野菜を育てるのには向いてるだろうな。…そうだ、トマトがあるならトマトソースも作ってたりしないか?」
「ええありますけど?」
「よし!だったらあれが作れるぞ!」
俺は村の人に小麦粉や酵母を分けてもらうと水でそれを練った。
「あとはこいつを発酵させるだけか」
「それでしたらどうぞ」
フェリエが俺が練った生地に向かって手を差し出すとあっという間に生地が膨らんだ。
「す、凄え…」
「ある程度なら酵母菌も操作できるんです」
攻撃力がないなんて言うけど、フェリエの力は応用したらとんでもない殺傷力になるんじゃないだろうか。
ともあれ、俺は膨らませた生地を平らにするとその上にトマトソース、チーズ、バジルを乗せた。
そして土を操作してピザ窯を作り上げる。
「フラム、こいつをちょっと温めてくれないか?」
フラムにお願いしてピザ窯を熱し、その中にピザの生地を放り込む。
一分ちょいでピザが焼き上がった。
「むむ!なんだこれは!」
「これは本当にパンなの?」
「パンにチーズ、バジルはよくある組み合わせだけど、そこにトマトを入れだけでこんなに美味しくなるのか!」
みんな初めて食べるピザに目を丸くしている。
「ふっふっふっ、これだけがトマトの力だと思ってもらってはいけないぞ。トマトソースの用途は無限にあるのだ」
「ワールフィアではこんな美味しいものが採れるのか」
ソラノが感心したようにため息をついた。
「ひょっとして、ベルトラン帝国はこういう作物が目当てなのかな?」
「ベルトラン帝国がどうしたのですか?」
俺の言葉にベルトラン帝国の名前が出てきたことでフェリエが心配そうに聞いてきた。
早すぎたか、と一瞬躊躇した俺だったけど気を取り直して説明することにした。
いずれ分かることだったら早い方が良いはずだ。
「実は……」
俺は村のみんなに事のいきさつを説明した。
「ベルトラン帝国がここに攻めてくる!?」
ベルトラン帝国によるワールフィア侵攻の可能性に宴の場が一気に騒然となった。
「まだ確実に決まったわけじゃない。でもその可能性は高いと思う」
俺の言葉にフェリエが頭を抱えた。
「せっかくテツヤさんのお陰で平和が戻ってきたと思ったのに!」
「俺たちはそのために来たんだ。ベルトラン帝国の侵攻は絶対に防がなくちゃいけない」
「でも、どうやって?」
「それなんだけど、この地を治めている王に会うことはできないかな?ワールフィアは部族国家で部族単位で王がいると聞いたんだけど」
俺の言葉に村の人たちが戸惑ったように顔を見合わせた。
「実は……」
フェリエが申し訳なさそうに口を開いた。
「この辺一帯は王不在の地なんです」
「ええ、ええ!そうなんです!私もとある世界に飛ばされて、その時にこの力を得たんです!」
フェリエが嬉しそうに叫んだ。
「まさか同じ帰還者に会えるなんて…しかもそれがテツヤさんだったなんて…これは運命でしょうか?」
「そうだったのか…フェリエが行った世界はどんな所だったんだ?」
「この世界とあまり変わりはなかったですね。でももっともっと平和で凄く穏やかなところでした。ですので帰ってきた時は不安で押しつぶされそうだったのですけど、ここの人たちによくしていただいて」
そう言ってフェリエは村人たちの方を振り返った。
そんな事情があったのか。見た目普通の人間のフェリエが魔族のみんなを助けるために必死になっていたのもわかるな。
「残念ながら私の力ではみんなを守ることができなくて…どうしようかと思っていたところをテツヤさんに救われたんです。本当に、なんて感謝していいのか…」
「いやいや、そこまで言われるようなことはしてないよ。褒められてばかりだとくすぐったくなっちゃうな」
俺は照れ隠しでスープを口に運んだ。
トマトの滋味が口いっぱいに広がる。
「しかしこの世界にもトマトがあったなんてな…」
「これは本当に美味しいな。こんな美味しいものが魔界にあったとは知らなかったぞ」
アマーリアも感心したようにスープを口に運んでいる。
「それは知らなくて当然ですね。なにせこれはフェリエがこっちに戻ってきてから作った作物ですから」
バーチが得意そうに言った。
「フェリエが作った?」
「いえ、作ったなんて大層なものじゃないですよ。元々この辺に自生していたものを品種改良して食べやすくしただけなんです」
「フェリエっていつくらいに戻ってきたんだ?」
「私が飛ばされたのが十歳の頃で戻ってきたのが十五歳なので…もうかれこれ五、六年前になりますね」
つまり五年くらいでこのトマトを作り上げたということか。
フェリエの力があればこの世界の農業は一変するんじゃないだろうか。
「そこまで大したことはできませんよ。ただ掛け合わせるとどうなるのか大体わかるというくらいで」
「いや、それでも大したもんだよ。このトマトだって絶対に引く手あまたになるぞ」
「それは確かにその通りだ。今すぐフィルド王国で育てたいくらいだしな」
ソラノの言葉にキリやフラムも頷く。
「それにしてももうすぐ冬だというのにトマトが育つなんてな。しかもこの辺は春みたいに温かいんだな」
「それは魔界は土中や空中の魔素が濃いからですね。魔素の放つ熱が大気や土を温めるのでヒト族の住む場所よりも温かいんです」
「そうなのか…だとすると野菜を育てるのには向いてるだろうな。…そうだ、トマトがあるならトマトソースも作ってたりしないか?」
「ええありますけど?」
「よし!だったらあれが作れるぞ!」
俺は村の人に小麦粉や酵母を分けてもらうと水でそれを練った。
「あとはこいつを発酵させるだけか」
「それでしたらどうぞ」
フェリエが俺が練った生地に向かって手を差し出すとあっという間に生地が膨らんだ。
「す、凄え…」
「ある程度なら酵母菌も操作できるんです」
攻撃力がないなんて言うけど、フェリエの力は応用したらとんでもない殺傷力になるんじゃないだろうか。
ともあれ、俺は膨らませた生地を平らにするとその上にトマトソース、チーズ、バジルを乗せた。
そして土を操作してピザ窯を作り上げる。
「フラム、こいつをちょっと温めてくれないか?」
フラムにお願いしてピザ窯を熱し、その中にピザの生地を放り込む。
一分ちょいでピザが焼き上がった。
「むむ!なんだこれは!」
「これは本当にパンなの?」
「パンにチーズ、バジルはよくある組み合わせだけど、そこにトマトを入れだけでこんなに美味しくなるのか!」
みんな初めて食べるピザに目を丸くしている。
「ふっふっふっ、これだけがトマトの力だと思ってもらってはいけないぞ。トマトソースの用途は無限にあるのだ」
「ワールフィアではこんな美味しいものが採れるのか」
ソラノが感心したようにため息をついた。
「ひょっとして、ベルトラン帝国はこういう作物が目当てなのかな?」
「ベルトラン帝国がどうしたのですか?」
俺の言葉にベルトラン帝国の名前が出てきたことでフェリエが心配そうに聞いてきた。
早すぎたか、と一瞬躊躇した俺だったけど気を取り直して説明することにした。
いずれ分かることだったら早い方が良いはずだ。
「実は……」
俺は村のみんなに事のいきさつを説明した。
「ベルトラン帝国がここに攻めてくる!?」
ベルトラン帝国によるワールフィア侵攻の可能性に宴の場が一気に騒然となった。
「まだ確実に決まったわけじゃない。でもその可能性は高いと思う」
俺の言葉にフェリエが頭を抱えた。
「せっかくテツヤさんのお陰で平和が戻ってきたと思ったのに!」
「俺たちはそのために来たんだ。ベルトラン帝国の侵攻は絶対に防がなくちゃいけない」
「でも、どうやって?」
「それなんだけど、この地を治めている王に会うことはできないかな?ワールフィアは部族国家で部族単位で王がいると聞いたんだけど」
俺の言葉に村の人たちが戸惑ったように顔を見合わせた。
「実は……」
フェリエが申し訳なさそうに口を開いた。
「この辺一帯は王不在の地なんです」
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