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魔界へ
16.戦争の兆し
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「ベルトラン帝国がワールフィアに攻め込むだと?」
リンネ姫が驚いたように叫んだ。
「それは確かなのか?」
「まだわからない。でも実際にロッジァンに兵士が集まっていたし可能性は高いと思う」
「確かに、ロッジァンは目立って兵士の数が増えていました。通常では考えられない数です」
俺の言葉にアマーリアも同意した。
「ふむ……」
リンネ姫は悩ましそうに眉をひそめてソファに身を沈めた。
キツネと別れた翌日、俺たちは急いでロッジァンを発って真っ直ぐにゴルドに向かい、リンネ姫と話し合いをした。
「それは非常に不味いな」
リンネ姫が独り言のように呟いた。
「だろう?戦争になったらワールフィアに難民が激増しちまう。そうなったらこっちとしても相当な悩みになると思うんだ」
「それだけではない」
リンネ姫が首を横に振った。
「現在のフィルド王国とベルトラン帝国の力関係はかなり微妙だ。これ以上そのバランスが崩れると我が国にとってかなりの不利益となる可能性が高い。それに……」
リンネ姫が話を続けた。
「もし本格的に魔界と戦争になった場合、一応同盟国という体になっている以上ベルトラン帝国は我が国にも協力を要請してくるだろう。そうなったらミネラシア大戦の再来だ」
ミネラシア大戦、これは子供時代フィルド王国に住んでいた時に寝物語としてよく聞かされていた。
かつてここミネラシア大陸を二分する戦争があったという。
魔族とヒト族によるその戦いは十数年も続き、戦いのさなかに滅んでいった国も少なくないと聞く。
戦争はヒト族の勇者たちが大魔王を討伐してひとまずの終結を見たものの、ヒト族の被害も甚大で国家機構は崩壊し、その後何年も戦乱が続いたのだとか。
やがてその中から再び国が形成されていき、小国が併合または併呑されて大きくなっていき、やがて幾つかの国へとまとまっていった。
それが現在のフィルド王国でありベルトラン帝国だ。
そのミネラシア大戦がまた起こるというのか?
「戦争だけは避けねばならない」
硬い声でリンネ姫が言った。
「何か手はないか?」
リンネ姫が独り言のように呟いた。
「ないこともないんだけど…」
「本当か!」
「い、いや、ただの考えではあるんだけど…」
食いつくように身を乗り出すリンネ姫に引き気味になりながら俺は答えた。
「ただそのためにはワールフィアの協力も必要なんだ」
「ワールフィアか…」
「ああ、フィルド王国がベルトラン帝国に戦争を止めろと言っても聞きはしないだろ?だったらワールフィアに協力してもらうしかない」
「うむむ…」
リンネ姫が唸った。
「駄目かな?」
「いや、実を言うと私もワールフィアと国交を開くべきだと思っていたのだ。ベルトラン帝国の圧力は年々高まってきているからその牽制のためにもな」
リンネ姫はそう言って立ち上がった。
「これは好機と見るべきだろう。テツヤ、すまないがワールフィアに行って魔界と連絡を取ってもらえるか?無茶なのはわかっているが、今回だけは絶対に戦争を阻止しなければならないのだ」
「もちろんだって。言われなくても行くつもりだったしな」
「そう言ってもらえると助かる。何よりもこれは秘密裏に行わなければならない。特にベルトラン帝国にだけは絶対に知られてはならない」
その言葉に俺たちは顔を見合わせた。
リンネ姫がフィルド王国内で活動しているベルトラン帝国の密偵のことを言っているのは明白だ。
ヘルマに密偵の存在を匂わされた日、俺はすぐにリンネ姫にそのことを告げたのだけど驚いたことにリンネ姫はそのことを既に知っていた。
知っていて敢えて泳がせているのだとか。
「テツヤがシエイ鉱山に行くことになった時点で知られるのはわかっていたからな。人の口に合う鍵はないという言葉もあるし、どうやってもいずれは知られていただろうしな」
あのくらいの情報なら知られても構わないだろうと言ってリンネ姫は笑った。
「それに我々もベルトランに密偵を送っているからお互い様だな。実を言うとベルトラン帝国で拡大派の声が大きくなってきているという報せは来ていたのだ」
リンネ姫が言葉を続けた。
「しかし今回の件はまだこちらには伝わってきていない。ということはかなり急に決まったのか、まだ検討段階なのかもしれない。だとしたら私たちにはまだ時間がある可能性が高いか」
リンネ姫は顎をつまみながらぶつぶつ呟いた。
これはリンネ姫が考えごとをしている時の癖だ。
「そう言えばテツヤにもベルトランからの監視が付くことになったようだぞ」
「はあ?俺に?監視がつく?」
何気なく漏らしたリンネ姫の言葉に俺は度肝を抜かれた。
「ああ、表向きはミシングという名の画家なのだがな、今度景色のいいトロブへ引っ越すと触れ回っているらしい。明らかにテツヤの監視のためだろうな」
俺にまで監視が付くのかよ。
「当然だろう。私だってそうしていただろうな。まあミシングの方はこちらで対処しておこう」
対処ってまさか……
「そのまさかよ」
にやりとリンネ姫が邪悪な笑みを浮かべた。けれどすぐにおかしそうに笑った。
「冗談だ。いきなり逮捕などせんよ。そんなことをしたら怪しまれるだけだからな。なあに、ちょっと風景画を依頼するだけさ。一か月ばかりかかる位のサイズをな」
そこまで言ってリンネ姫は真面目な顔に戻った。
「ミシングへの対応が済んだタイミングで即行動に移ってほしい」
「「「「「「了解」」」」」」
俺たちはそう言って立ち上がった。
すぐに戻って旅に備えないと。
部屋から出ようとしたその時、リンネ姫が俺を抱きしめてきた。
「リ、リンネ姫?」
「しばらくこのままでいてくれ」
俺の胸に顔をうずめながらリンネ姫が言った。
「テツヤ、必ず無事で帰ってくるのだぞ。失敗したっていい、戦争が起こっても構わない、絶対に帰ってくるのだ。約束だぞ」
そう言うリンネ姫の肩は小さく震えていた。
「リンネ姫…」
俺はリンネ姫を優しく抱き返した。
「約束するよ、無事に戻ってくると。それに戦争だって起させやしない。絶対にだ」
「約束だからな」
リンネ姫が俺を見上げた。
「ああ、もちろんだ!」
俺はその顔に笑顔で返事をした。
リンネ姫が驚いたように叫んだ。
「それは確かなのか?」
「まだわからない。でも実際にロッジァンに兵士が集まっていたし可能性は高いと思う」
「確かに、ロッジァンは目立って兵士の数が増えていました。通常では考えられない数です」
俺の言葉にアマーリアも同意した。
「ふむ……」
リンネ姫は悩ましそうに眉をひそめてソファに身を沈めた。
キツネと別れた翌日、俺たちは急いでロッジァンを発って真っ直ぐにゴルドに向かい、リンネ姫と話し合いをした。
「それは非常に不味いな」
リンネ姫が独り言のように呟いた。
「だろう?戦争になったらワールフィアに難民が激増しちまう。そうなったらこっちとしても相当な悩みになると思うんだ」
「それだけではない」
リンネ姫が首を横に振った。
「現在のフィルド王国とベルトラン帝国の力関係はかなり微妙だ。これ以上そのバランスが崩れると我が国にとってかなりの不利益となる可能性が高い。それに……」
リンネ姫が話を続けた。
「もし本格的に魔界と戦争になった場合、一応同盟国という体になっている以上ベルトラン帝国は我が国にも協力を要請してくるだろう。そうなったらミネラシア大戦の再来だ」
ミネラシア大戦、これは子供時代フィルド王国に住んでいた時に寝物語としてよく聞かされていた。
かつてここミネラシア大陸を二分する戦争があったという。
魔族とヒト族によるその戦いは十数年も続き、戦いのさなかに滅んでいった国も少なくないと聞く。
戦争はヒト族の勇者たちが大魔王を討伐してひとまずの終結を見たものの、ヒト族の被害も甚大で国家機構は崩壊し、その後何年も戦乱が続いたのだとか。
やがてその中から再び国が形成されていき、小国が併合または併呑されて大きくなっていき、やがて幾つかの国へとまとまっていった。
それが現在のフィルド王国でありベルトラン帝国だ。
そのミネラシア大戦がまた起こるというのか?
「戦争だけは避けねばならない」
硬い声でリンネ姫が言った。
「何か手はないか?」
リンネ姫が独り言のように呟いた。
「ないこともないんだけど…」
「本当か!」
「い、いや、ただの考えではあるんだけど…」
食いつくように身を乗り出すリンネ姫に引き気味になりながら俺は答えた。
「ただそのためにはワールフィアの協力も必要なんだ」
「ワールフィアか…」
「ああ、フィルド王国がベルトラン帝国に戦争を止めろと言っても聞きはしないだろ?だったらワールフィアに協力してもらうしかない」
「うむむ…」
リンネ姫が唸った。
「駄目かな?」
「いや、実を言うと私もワールフィアと国交を開くべきだと思っていたのだ。ベルトラン帝国の圧力は年々高まってきているからその牽制のためにもな」
リンネ姫はそう言って立ち上がった。
「これは好機と見るべきだろう。テツヤ、すまないがワールフィアに行って魔界と連絡を取ってもらえるか?無茶なのはわかっているが、今回だけは絶対に戦争を阻止しなければならないのだ」
「もちろんだって。言われなくても行くつもりだったしな」
「そう言ってもらえると助かる。何よりもこれは秘密裏に行わなければならない。特にベルトラン帝国にだけは絶対に知られてはならない」
その言葉に俺たちは顔を見合わせた。
リンネ姫がフィルド王国内で活動しているベルトラン帝国の密偵のことを言っているのは明白だ。
ヘルマに密偵の存在を匂わされた日、俺はすぐにリンネ姫にそのことを告げたのだけど驚いたことにリンネ姫はそのことを既に知っていた。
知っていて敢えて泳がせているのだとか。
「テツヤがシエイ鉱山に行くことになった時点で知られるのはわかっていたからな。人の口に合う鍵はないという言葉もあるし、どうやってもいずれは知られていただろうしな」
あのくらいの情報なら知られても構わないだろうと言ってリンネ姫は笑った。
「それに我々もベルトランに密偵を送っているからお互い様だな。実を言うとベルトラン帝国で拡大派の声が大きくなってきているという報せは来ていたのだ」
リンネ姫が言葉を続けた。
「しかし今回の件はまだこちらには伝わってきていない。ということはかなり急に決まったのか、まだ検討段階なのかもしれない。だとしたら私たちにはまだ時間がある可能性が高いか」
リンネ姫は顎をつまみながらぶつぶつ呟いた。
これはリンネ姫が考えごとをしている時の癖だ。
「そう言えばテツヤにもベルトランからの監視が付くことになったようだぞ」
「はあ?俺に?監視がつく?」
何気なく漏らしたリンネ姫の言葉に俺は度肝を抜かれた。
「ああ、表向きはミシングという名の画家なのだがな、今度景色のいいトロブへ引っ越すと触れ回っているらしい。明らかにテツヤの監視のためだろうな」
俺にまで監視が付くのかよ。
「当然だろう。私だってそうしていただろうな。まあミシングの方はこちらで対処しておこう」
対処ってまさか……
「そのまさかよ」
にやりとリンネ姫が邪悪な笑みを浮かべた。けれどすぐにおかしそうに笑った。
「冗談だ。いきなり逮捕などせんよ。そんなことをしたら怪しまれるだけだからな。なあに、ちょっと風景画を依頼するだけさ。一か月ばかりかかる位のサイズをな」
そこまで言ってリンネ姫は真面目な顔に戻った。
「ミシングへの対応が済んだタイミングで即行動に移ってほしい」
「「「「「「了解」」」」」」
俺たちはそう言って立ち上がった。
すぐに戻って旅に備えないと。
部屋から出ようとしたその時、リンネ姫が俺を抱きしめてきた。
「リ、リンネ姫?」
「しばらくこのままでいてくれ」
俺の胸に顔をうずめながらリンネ姫が言った。
「テツヤ、必ず無事で帰ってくるのだぞ。失敗したっていい、戦争が起こっても構わない、絶対に帰ってくるのだ。約束だぞ」
そう言うリンネ姫の肩は小さく震えていた。
「リンネ姫…」
俺はリンネ姫を優しく抱き返した。
「約束するよ、無事に戻ってくると。それに戦争だって起させやしない。絶対にだ」
「約束だからな」
リンネ姫が俺を見上げた。
「ああ、もちろんだ!」
俺はその顔に笑顔で返事をした。
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