上 下
113 / 298
ベルトラン帝国潜入

20.魔獣討伐

しおりを挟む
 翌朝、目覚めると既に多くの冒険者が準備を開始していた。

 寝ぼけ眼でスープと堅パン、フルーツというシンプルな朝食を受け取り、討伐の準備を進める。

 朝食を食べながら辺りを見ていると冒険者の中に討伐に出かけるそぶりを見せていない者が一定数いることに気付いた。

 ある冒険者は携帯した椅子に座って談笑し、別の冒険者は剣や鎧を磨いている。


「なあ、なんで出かける支度をしてない人がいるんだ?」

 俺は近くで片づけをしていた鉱山の職員に聞いてみた。


「ああ、討伐と言っても厳密に全員参加ではないんですよ。冒険者は軍隊ではないですからね。そりゃ功績のあった冒険者の方が報酬は高いですけど、終わり際だけ参加しようと思ってる人もいますね」

 なるほど、敢えて危険な道を選ばずに最後の美味しいところだけ持っていこうというのか。

「中には討伐に参加したという実績だけが欲しくて登録してる人もいますよ」

 ふーん、冒険者と言っても色々なんだな。


 とりあえず俺たちは朝食を終えて討伐の第一陣に加わることにした。

 人数は百人ほどだろうか、半数以上がまだ来ていないとはいえこれでもちょっとした勢力だ。

 討伐隊は鉱山の作業路を使って山腹を登っていった。



「よお兄ちゃん、あんた昨日ヘルマと何か話してたよな?」

 歩いていると横にいた狐頭の獣人が気さくに話しかけてきた。


「俺の名前はキツネってんだ。よろしくな」

「俺はテ…じゃなくてリュエシェ・タウソン、言いにくかったらリューとでも呼んでくれ。この二人は俺の仲間のフラムとキリだ」

「くぅ~、こんな美女二人を連れてるなんて羨ましいね!よっ色男!」

 キツネの口調は気さくというよりも馴れ馴れしくすらある。


「ところで話を戻すけどよ、ヘルマから何を言われたんだ?」

「何って、別に大したことは。フィルド王国の人間が何をしに来たと聞かれただけだよ」

「あんたフィルド王国から来たのか?だったらよ、フィルド王国で町一つ丸ごと消えたって噂を知らねえか?」


 ぎくり。


 ボーハルトのことは一応秘密になっているはずなのだが、やはり人の口には戸が立てられないということか。


「いや、そんな話は聞いたことないな。しばらく冒険者を休んでたから世間の噂に疎くってね」

 とりあえず知らないふりをしておこう。


「そうなのか、町の人間が一晩で消えたとか領主が化け物になって屋敷に行った人間が帰ってこないとか聞いたんだけど、よく考えたらそんなことあるわけねえか」

「そ、それよりもさ、今回の魔獣討伐について何か知ってたら教えてくれないか?なにせ昨日ベルトラン帝国に着いたばかりでよくわかってないんだよ」

「おいおい、事前の情報収集は冒険者の基本だぜ?あんた初心者か?」

 キツネが呆れたようにため息をついた。


「面目ない」

「しょうがねえなあ、冒険者にとって情報ってのは重要な財産であり商品なんだけど今回は出会った縁ってことでサービスしてやるよ」

 そう言ってキツネが顔を近づけてきた。


「いいか、今回の魔獣はただの魔獣じゃねえ。この世界でもっとも討伐難易度が高いと言われている鉱殻竜らしいんだ」

「鉱、殻竜?」

「それも知らねえのかよ!鉱殻竜ってのは竜の変種でよ、鉱物を食って自分の鱗にしちまう竜のことよ。そのせいでえらく防御力が高えんだ」


 そんな竜がいるのか。でもそれなら俺の土属性の力で何とかなるかもしれないな。

「鉱物で出来た鱗のせいで武器は歯が立たねえうえに竜だから魔法属性も桁違いなのよ。だからこうやって大規模討伐隊を組んで飽和攻撃をするしかねえってわけだ」

「そんなに難易度高いならなんで軍隊が出てこないんだ?」

「そこまでは知らねえよ」

 キツネが鼻を鳴らした。

「でもたかが鉱山の魔獣討伐に軍隊なんか出してられねえ、そっちでなんとかしろって肚なんじゃねえのか?ベルトランの帝王は冷酷無比って話だからな」

「なるほどね」

「でもあのヘルマが出てきたんだからちょっとは力を貸そうって気になったのかもな。そのおかげで俺たちの報酬は激減だろうけどな。あ~あ」

「そういやその報酬のことだけどさ、どうやって功績のある冒険者を調べるんだ?」

「そりゃ決まってるだろ。あそこにいる鉱山の連中だよ」

 そう言ってキツネは前方を歩いている制服を着た集団を指差した。


「でかい討伐には必ず観測官がいるんだよ。連中が功績のある冒険者を判断するって訳だ。今回はヘルマに持ってかれるんだろうけどな」

 なるほど、資金が投入される大規模討伐になるとそういった人間も必要になるんだな。

 俺たちはとりとめのない話をしながら乾燥して粉っぽい鉱山の道を登っていった。

 キツネは世界中を旅してきた冒険者でフィルド王国にも何度か行ったことがあるらしい。


「この世界に俺のコネが通用しない場所はねえよ。何かあったら俺様に相談するんだな」

 そううそぶいて胸を張っている。


「お、あそこが討伐の舞台になるみてえだぜ」

 キツネの言葉に前方を見ると坂を上りきったところでみんな足を止めていた。


「いよいよ獲物の登場だぜ」

 勇み足のキツネに遅れまいと坂を上っていった俺たちはその光景を見て絶句した。


 鉱殻竜が、そこにいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

異世界に転生した俺は農業指導員だった知識と魔法を使い弱小貴族から気が付けば大陸1の農業王国を興していた。

黒ハット
ファンタジー
 前世では日本で農業指導員として暮らしていたが国際協力員として後進国で農業の指導をしている時に、反政府の武装組織に拳銃で撃たれて35歳で殺されたが、魔法のある異世界に転生し、15歳の時に記憶がよみがえり、前世の農業指導員の知識と魔法を使い弱小貴族から成りあがり、乱世の世を戦い抜き大陸1の農業王国を興す。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

公国の後継者として有望視されていたが無能者と烙印を押され、追放されたが、とんでもない隠れスキルで成り上がっていく。公国に戻る?いやだね!

秋田ノ介
ファンタジー
 主人公のロスティは公国家の次男として生まれ、品行方正、学問や剣術が優秀で、非の打ち所がなく、後継者となることを有望視されていた。  『スキル無し』……それによりロスティは無能者としての烙印を押され、後継者どころか公国から追放されることとなった。ロスティはなんとかなけなしの金でスキルを買うのだが、ゴミスキルと呼ばれるものだった。何の役にも立たないスキルだったが、ロスティのとんでもない隠れスキルでゴミスキルが成長し、レアスキル級に大化けしてしまう。  ロスティは次々とスキルを替えては成長させ、より凄いスキルを手にしていき、徐々に成り上がっていく。一方、ロスティを追放した公国は衰退を始めた。成り上がったロスティを呼び戻そうとするが……絶対にお断りだ!!!! 小説家になろうにも掲載しています。  

処理中です...