外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道一人

文字の大きさ
55 / 298
第二部~頭角 旅立ち

5.リュースという女

しおりを挟む
「なになに~?どしたのどしたの?」

 リュースが無邪気に聞いてきたけど今の俺にその言葉は届いていなかった。

 何が起きたんだ?

 そう言えばなんで酔い醒ましをするはずだったのに何杯も酒を空けているんだ?

 辺りを見渡すと周りで騒いでいたはずの客がみなテーブルに突っ伏して眠り込んでいる。

 バーのマスターも同じだ。

 カウンターの奥に倒れ込んでいびきをかいている。

 これは明らかに普通じゃない。

 俺はリュースを睨みつけた。

 俺が不審に思っているのを知ってか知らずかリュースは相変わらずきょとんとしている。

「お前は何者だ」

 俺はリュースの着ているジャケットの胸ぐらを掴んだ。

 深く切り込まれたシャツの胸元から谷間はおろかその先のおへそまで見えているけどそれからはなんとか目を逸らした。

「何ってえ、何のこと?」

 リュースは相変わらず何もわからないという顔をしている。

「ふざけるな!何を企んでやがる!これもお前の仕業なんだろうが!」

 俺はリュースを掴んだまま反対側の手を振って店内を示した。




「う~ん、上手くいってたんだけどなあ。なんで解けちゃったんだろう?」


 しばらくしてからリュースが口を開いた。

 まるで先ほどまでの会話の続きをしているかのような口調だ。

「てめっ…」

 更に詰問しようとした俺だったが、その時リュースの右腕が視界から消えていることに気付いた。

 視界から消えてると言うか、肩の上へと伸ばしている。

 やばいっ!

 とっさに飛び退いた俺の頭があった位置にリュースの右腕が降ってきた。

 その手には先ほどまで影も形もなかった巨大なハンマーが握られている。

 建築現場で使う掛矢と呼ばれる木でできたハンマーよりもさらにでかい。

 ドゴンッという鈍い音がして分厚い樫の一枚板で作られたカウンターが裂けた。


「あれれ~?酔ってると思ったんだけどそうでもなかった?」

 す、少し前から体内のアルコール分を消化分解しておいて良かった!


「こ、こら!そんなことしたら死ぬだろ!つーかそのハンマーはどっから出したんだ!」

 俺はリュースから距離を置きながらテーブルの上にあった水差しを取ってその中の水をがぶがぶ飲んだ。

 とりあえず早く酔いを醒まさなくては!

「女の子には秘密のポケットがあるんだよ~」

 にこやかに笑いながらリュースがハンマーを振りかざして飛び込んできた。

「ポケットに入る大きさじゃねえだろ!」

 横っ飛びしてなんとかそのハンマーをかわす。

 水差しがおいてあった丸テーブルが轟音と共に砕け散った。

 こいつ、マジで俺を殺す気かよ!

 俺は即座にリュースの持っていたハンマーを破壊した。

 そしてあたりに散らばっていたナイフとフォークを針金に変えてリュースを拘束する。


「ああんっ」

 拘束されたリュースが甘い声をあげる。

 針金で締め付けられ凹凸が露わになった体が妙に艶めかしい。


「う、うるせえっ!お前の目的はなんだ!」


「なにってえ、テツヤのことをもっと知りたいだけだよお」

 縛られているというのにケロリとした顔をしている。

「ふざけんな!これもカドモインの差し金なのか!正直に言わないと痛い目を見るぞ!」

「カドモイン~?ひょっとしてテツヤってばその人に狙われてたりするのお?」

「!」

 リュースの言葉に俺は己のうかつさを悟った。

 この女は俺の言葉のあらゆる部分から情報を得ようとしている!


「あれあれえ?ひょっとして図星だったあ?」

 口を閉ざした俺をリュースが更に挑発してくる。

 これ以上この女の口車に乗るわけにはいかない。

「と、ともかく大人しくしていろ。すぐに衛兵を呼んでくるからな」

「ええ~、それは勘弁かなあ。あたしはテツヤとお話ししたいだけなのにい」


 リュースが軽く体を震わせたかと思うといきなりその姿が消えた。

「なにっ」

 驚いて辺りを振り返るとカウンターの奥にリュースが立っていた。

 何故か全裸で身にまとっているのはニーハイだけだ。

 どんな仕組みなのか股間と胸の部分だけぼやけている。

 これもリュースの幻術なのか?


「ば、馬鹿!なんて格好してるんだ!」

 俺は慌てて目を背けた。

 さっきまでリュースがいたところには拘束していた針金とそれに巻き取られた服が転がっている。

「え~、だってテツヤがあたしのことを縛るからこうしないと出られなかったからあ」


 リュースの言葉と同時に殺気が降ってくる。

 慌てて身を躱すと同時に俺がいた場所に何本もナイフが突き刺さる。

「うわっ」

 避ける俺を追撃するようにハンマー、金床、鋸などありとあらゆる雑多なものが俺に向かって飛んできた。

 こいつ、どっから出してるんだ?


 リュースの動きに集中しようとしても裸がちらついて目がそっちに向かってしまう。


「どうしたのお?なんか前かがみになってるけどお腹でも痛いの?」

 巨大な鎖を振り回しながらリュースが無邪気に聞いてきた。

 くそう、ある意味ランメルスと戦ってた時よりもやりにくいぞ!


「ぬああああああっ!!!!」


「あら?」

 俺は床板とカウンターの一枚板を引っぺがしてリュースの周りを囲んだ。

 巨大な木箱を作り上げて中にリュースを閉じ込める。

 そしてリュースがどこからか持ってきたハンマーやら鎖やらを鉄のプレートに変化させてその木箱を完全に封印した。

「ちょっとお!出られないんですけどお」

 リュースが中からどんどんと叩いているけど知ったこっちゃない。

「そこで大人しくしとけ!」

 俺はそう叫んで店を飛び出した。



    ◆



「ほう、つまりテツヤの話を総合するとこういうわけか。みんなで騒いだ後で一人店に出かけてリュースという女性と盛り上がっていたと」

「いや、違うだろ!俺はそのリュースって奴に襲われたんだぞ!」

 ほうほうの体でアマーリアを呼んできたわけだけど、俺の話を聞いたアマーリアの言葉がやけに冷たい気がするぞ。

「まあいいさ、話はそのリュースとやらに聞くことにしよう」

 俺たちは店の中央に鎮座している木箱へと近づいた。

 中ではまだガタガタと音がしている。

「気を付けろよ、なんか変な技を使うぞ」

 俺の言葉にアマーリアが頷き、剣を構えた。

「開くぞ!」

 俺は合図とともに木箱を開封した。



 が、リュースは影も形もなかった。

 そこには大きなゼンマイ仕掛けの猿のオモチャがよちよちと歩いているだけだった。

「ば、馬鹿な!確実に閉じ込めたはずなのに!」

 俺には何が起きたのかさっぱりわからなかった。

 リュースはどこに消えたんだ?


「なんだこれは?」

 アマーリアが木箱に落ちていた羊皮紙を拾い上げた。

 ”今日はここでお別れするね。次に裸になる時はベッドの中でだよ♥あなたのリュースより”

 羊皮紙にはキスマークと共にそう書かれていた。

 いかん、なんかアマーリアがただならぬオーラを発しているのが見えるぞ。

「これは少し詳しく話を聞く必要がありそうだね。そうだろう?テツヤ」


「だから、これは誤解だああああああ!!!」


 これが後々俺に関わってくる謎の女リュースとの初めての出会いだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

商人でいこう!

八神
ファンタジー
「ようこそ。異世界『バルガルド』へ」

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

処理中です...