外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道一人

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新しい生活

18.ベアリング屋になりたいわけじゃない

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「てりゃっ!」

 掛け声とともに頭の上に棒が降ってきた。

 頭を軽く傾けてそれをかわす。

 棒の主はキリだ。

「うりゃりゃりゃりゃりゃりゃあっ!」

 キリの放つ猛烈な突きをひらりひらりとかわして隙を見て足払いをかける。

 キリは上空に飛んでそれをかわし、落下と同時に打ち込んできたがその手を掴んで地面に投げ飛ばした。

 投げると同時にキリの持っていた棒を奪い取り、落下の衝撃で身動きの取れないキリの顔に突き付ける。

 これで一本だ。

「ちぇ、また負けた」

 キリが悔しそうな顔をする。

 最近は特訓と称してキリとこういう組み手をしている。

 キリは一日一回いつどんな時でも攻撃をしてきてよく、俺はそれを迎え撃つ。

 キリが俺から一本取れたら何でも一つ言うことを聞くことになっているのだ。

「攻撃の時に声をあげたら駄目だって。それに空中からの攻撃は身動きが取れないから諸刃の剣だぞ。それよりも一旦距離をとって確実に攻めた方が良いぞ」

「はーい」

 まだ一本取られたことはないとはいえ、流石オニ族なだけあってキリの上達速度は恐ろしく早い。

 いずれ一本取られる日が来るかもしれないな。

 俺にとってもちょうどいい訓練だ。


「さあご飯にしようぜ。ちょうどオクゾーさんに貰った焼きたてのパンもあることだし」
「はーい」

 スカートの泥を払い落としながらキリが立ち上がる。

 オニ族の体だとこの位の組手ではダメージ一つない。

 万が一怪我をしても俺が治せるけどね。

「ところで俺から一本取ったらキリは俺に何を言いつけるつもりなんだ?」

「へへ~、それは内緒だよ~」

 うーむ、意味ありげなその笑顔が怖いぞ。




    ◆




 翌日、目を覚ました俺を待っていたのは荷車を持って家の周りに押しかけてきた町の住人たちだった。

「テツヤさんがオクゾーの荷車を改造したんだって?」

「あの荷車凄えよな!是非俺のもお願いするよ!」

「もう年で荷車を引くのが大変でねえ。オクゾーのみたいにしてくれると私もありがたいんだけどねえ」

 百人くらい並んでるだろうか。

 荷車を持ってない人まで何事かと覗きにくる始末だ。

「ちょ、ちょっと待ってくれ!まずは落ち着いて列を作ってくれ。ちゃんと全員分やるから!」

 結局やってきた人たちの荷車を改造し終わったのは昼を過ぎた頃だった。

 改造自体は一台につき五分もかからないのだが、それでも百人分となると数時間はかかってしまう。

 流石に魔力を使いすぎて疲れたぞ。


「これは何の騒ぎだ?」

 やってきたアマーリアが今も家の周りで荷車を持ってたむろしている街の住人たちを見て驚いている。



「……なるほど、確かにこれは凄いものだな。軸受けの中に鉄球を仕込むことで摩擦力を低減させているのか。こんな発想があるとはな」

 居間でキリが淹れたお茶を飲みながらアマーリアが感心したように俺の作ったベアリングを確かめている。

 ちなみにこのお茶も荷車を改造したお茶屋からの差し入れで、一年分位の茶葉を貰っている。

「おかげでこっちは朝から働きづめだよ。明日も来るかと思うと流石にうんざりしてきたぞ」

 正直言うと遊び半分でオクゾーの荷車を改造したことを後悔し始めていた。

 このままじゃベアリング屋として国中に名声を轟かせ、日がな一日ベアリングを作り続ける日々を送ることになりかねない。

「どこかに俺の代わりにこれを作ってくれる人いないかな。構造自体は単純なんだけど」
「それだったら城下町のドワーフ街に行ってみてはどうだ?気難しい連中だが私が一緒に行けば話を聞いてくれるだろう。彼らの技術は確かだぞ」

「それは是非お願いするよ!」

 このベアリング作りを請け負ってくれるなら大歓迎だ。

 ということで俺とキリはアマーリアの案内で城下町のドワーフ街へとやってきた。

「しかし良いのか?このような技術をドワーフの連中に渡しても。この技術あれば一財産どころかこの国の産業を変えた革命者としての名声を得る事もできるのだぞ?」

「そうだよ!ご主人様は自分の能力を気にしなさすぎだ!オニ族だったら絶対に一家の秘伝として守り抜いてるよ!でないとすぐに広まってみんなが同じものを作り出すからさ」
「いい。俺はベアリング屋になりたいわけじゃないんだ。誰かが俺の代わりに作ってくれるんならそれでいい」


 そうこうしてるうちにドワーフ街に着いた。

 多種族融和が進んでいるミネラシアだけどそれでも同種族は固まって住みがちで、ゴルドにもそういう種族街が幾つもできている。

 ドワーフの集まるドワーフ街は職人や細工師が多いことで有名だ。


「とりあえず街の顔役に顔を繋いでおかないとな」

 アマーリアはそう言って俺たちをドワーフギルドの会館へと連れて行った。

 大きな仕事を依頼する時は顔役に話を付けておかないと後々こじれる原因になるんだそうだ。

 結局は人と人の繋がりで、この辺は日本とそんなに変わらない。


「おお、アマーリア殿、久しぶりじゃの。相変わらず美しい角だ」

 会館に入ると奥に座っていたドワーフが顔をほころばせて挨拶してきた。

「ゲーレン殿もお元気そうでなによりだ。今日は私の友人たちを紹介しようと思ってな。彼の名はテツヤ、そしてテツヤの助手をしているキリだ」

「どうも、テツヤです」

「ドワーフ街のギルド長をしておるゲーレンだ」

 俺たちは握手を交わして奥の応接間を案内された。

「それで、今日は何の用ですかな?わざわざご友人を紹介するために来たわけではないのでしょう?」

 お茶が出されたあとでゲーレンがさっそく切り出してきた。

「話が早くて助かるよ。ゲーレン殿に是非見てほしいものがあってね」

 アマーリアが懐から俺の作ったベアリングを取り出した。
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