メアーズレッグの執行人

大空飛男

文字の大きさ
上 下
18 / 19
シナリオは動き出す

4-7

しおりを挟む

ジョージの侵入したオペラハウスの出入り口。もうすでに、ここまでたどり着けた。
「この先が出口だ。だが、油断するなよ。まだ信徒がいる可能性はある」
信徒の指揮系統はもはやめちゃくちゃだ。少なくとも過半数を失い。今頃てんやわんやしているころだろう。
すると、道中ミイナが短い悲鳴を上げる。それは、先ほど跨いだビジネススーツに身を包んだ男を見てだった。
「ヴェ、ヴェイグさん…そんな」
「知り合いか?」
「…私の、秘書の人で」
「運が無かったんだよ。それだけだ」
ジョージはそう言い残し、興味が失せたように先へと進む。ミイナもそれに追従した。
扉を出ると、夜間という理由もあるが薄暗い植樹園にでる。
「ミイナ。先にあそこに行け。追撃が無いか見たのち、ここを出るぞ」
そういうと、ジョージは扉の前に張り付いた。ミイナも「わかりました」と頷き、言われた通りにする。
ミイナがそこで隠れたことを確認すると、ジョージは携帯電話を取り出しある電話番号にかける。
それは、檀上に立っていた祭司への社用携帯だ。彼の表の顔である『貧困者たちによる集会』の物である。
数回コールしたのち、応答した。
『何かね!今取り込み中なんだ!また後でかけなおしてくれ!』
「血塗られた舌のボスか?」
『な、何者だ貴様!』
ただでさえせわしない声から、さらに声音を変え、威圧した様に祭司は返答をする。
「何者でもない。だが、忠告を言いたい。もう引け。PIPDが来るぞ。それに、化け物を退治できたのか?早めに決断しなければ、死ぬぞ」
しばらく黙ったのち、観念した様に祭司は答える。
『ぐ、そうするほかあるまい。どのみち演説は上手くいった。お前は侵入者の一人だろう?何がしたかったのかしらんが、VIPを誘拐したのち、姿をくらませる』
「はん。所詮は金だな。本当は『くそったれな神』に遣えるつもりもなければ、利用する気もないんだろう?演説を聞いている限り、神の名前を借りて金儲けをたくらむ、哀れな連中にしか思えなかった。違うか?」
祭司は自嘲気味に笑い、答えた。
『ああ。そういうビジネスだよ。ただ、実際に血塗られた舌教団は実在するがね。私は上からの命令を受けるが、あくまでも信徒を増やす為に活動しろと言われただ。そこに少しのアクセントを加えた。この街で、それは当たり前だろう?』
「そうだな。だが…」
ジョージは一間隔開けて、強めな口調で言う。
「お前らのやった事実は、死に値する。今回は別件が優先でな、見逃してやる。だがいつか貴様らを望み通り神のもとに送ってやる。俺は、そういう仕事をしているんだよ」
『は、はは…肝に銘じておこうか…』
そう言い残し、祭司は電話を切ったようだ。ここからどう動くのか、現状ジョージの知ったことではなかった。
――さて、早い所、脱出した方がいい。PIPDにここで絡んでいたとバレたら色々面倒だ。
ジョージは扉から離れると、ミイナに指示した場所まで向かった。
ミイナは足音に気が付いたのか、ジョージを見るなり安堵した表情を見せる。だが、すぐに表情を曇らせた。
「またか。脱出できたんだ。それでいいだろう」
面倒くさそうにジョージは言うが、ミイナは苦い笑みを見せてきた。
「違うんです。ヴェイグさんが…私の所為で…」
知り合いの死は、彼女にとって堪えただろう。年端もいかない少女にとってはあまりにも過酷な現実だ。
だが、ジョージはそれが癇に障った。
「お前な…さっきもそうだが、自分がどうとか言うが、お前が生死を決める神だとでも言いたいのか?思い違いも甚だしいな」
すると、ミイナはぼそぼそとつぶやくように言う。
「あなたには…わかりません。私には、そういう力があるので…」
「力だと?じゃあなんだ。お前は自分がバケモンだと言いたいのか?」
その問いに、ミイナは口を噤んだ。
どのみち、ここで言い合いをしていても意味がない。ジョージはもう行くぞと、声を掛けようとする。このミイナと言うガキと、これ以上話したくもなかった。さっさと保護をして、ハングドマンに引き渡す。それで、この馬鹿けた依頼とはおさらばだ。
ジョージたちは木陰からその場を離れ、いよいよ裏口へと向かおうとした。
だが、この依頼の山場は、まだ終わりではなかった。
甲高く響いたのは、ガラスが割れた音。ジョージは反射的に、二階を見た。
「なっ!」
思わず立ち上がると、その光景がまるでスローモーションのように見えた。
人間だ。白髪の女性が牧師服の男に飛び蹴りを入れ、宙に浮いている。
やがて、牧師服の男と共に、白髪の女性が降りてくる。割れたガラスが煌びやかに輝き、まるで演出のように彼女の登場を際立てていた。
先に、牧師服の男が地面に落ちた。鈍く背中を強打した音が聞こえる。
そして、それに追撃を掛けるように、ロングスカートを捲し上げながらシルバーに輝く足先が、祭司の腹部へと思い切り叩き込まれる。
祭司は確実に絶命しただろう。体を『くの字』に曲げたのち、こと切れたのが分かる。
「…見つけた」
ふわりとスカートが揺れたのち、重力にあらがうことなく下がっていく。そして、まっすぐジョージたちを見つめてきたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

処理中です...