メアーズレッグの執行人

大空飛男

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シナリオは動き出す

3-2

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例えば、幸福とは何だろうと聞かれるとする。

幸福とは人生において、人々が最も求める事象だろう。

直結する幸福とは、例えば金銭面の事。自身の経験の事。人々の出会いやその関係。ともかく人は幸福だと感じる時、それは私欲が満たされている事を表すのだろう。

ここで、一人の人生を見てみよう。

普通に暮らし、普通に学校へ行く。普通に勉強して、普通に恋愛をして、15歳の少女なら、それが当り前で幸福な事かもしれない。

しかし、彼女は違った。物心ついた頃にはそんな普通を、持ち合わせていなかった。

彼女には不可思議な力が、生まれた時から備わっていたのだ。

それは、不幸を呼び寄せる力。自分自身にだけでなく、他人にも感染する邪悪な力だ。

彼女が最初に直面した不幸は、母親が出産してしばらくしたのちに死亡した事だった。その原因は、彼女を出産したことによる物であり、彼女が呼び込んだ最初の不幸。

それからいくつもの小さな不幸が続いたが、次に大きな不幸が訪れたのは彼女が五歳の時。年齢が上がるにつれて父親は暴言に暴力などと虐待を繰り返していたが、やがて育児放棄をした。そして、孤児院に押し付けるような形で、引き取られてしまった事だ。

孤児院時代の彼女は、まだ幸福だったかもしれない。ここでは熱心なボランティアや足長おじさんなど、様々な人々が彼女を救おうとした。だが、決して不幸を呼び込む力が失われはしなかった。

彼女が12歳になると、ついに孤児院は困窮の極みに立たされてしまう。すると孤児院の大人たちは、明日を生き抜くために、汚い考えを巡らせた。

それは生贄。子供を保護するのではなく、商品に変えてしまえばいい。このピースアイランドにおいて、人身売買など裏では日常茶飯事の事だ。今更誰が咎めようか、今更誰が取り締まろうか。

そして言うまでもなく、最初のやり玉として彼女は上がった。

彼女は持ち前の力とは裏腹に、磁器の様な滑らかで白い肌に黒に近いような藤色の髪色をした、容姿端麗の美少女であった。それが逆に、不幸へとつながってしまったのだ。

孤児院に現れた最初の男に、彼女の人生は買われてしまった。それも、たった30万ドル。彼女はそれだけの値段で、売られてしまう。

こうして彼女は、所有物となった。このピースアイランドで最も成功した男の元で、養子として、慰め者として、愛玩動物のような扱いを受けることとなった。

幸いだった点は、彼女を買った男であるユイマン・コールの立場だ。いまだにこのピースアイランドに事実上の権力者として君臨し続けていた。何事にも動じない肝の座り切った男であり、趣味と興味を両立しながらも世界的総合コンツェルンであるコールカンパニーを切り盛りしている。どういうわけか、彼女の不幸をはねのける力を持ち合わせているようだった。

その生活は煌びやかな物であり、無論彼女もその恩恵は受けている。だが、彼女はあくまでも愛玩動物。求められるのは、異常性癖の捌け口。もうそれが、三年も続いているのだ。
加えて最近になれば、彼女の不幸を呼び込む力を理解したのか、それを逆手に取った残酷で無慈悲な企業戦争による、秘密兵器の様な扱い。彼女はだから、幸運の女神と言われ持ち上げられた。

これが、彼女――ミイナ・コールが経験した15年間の人生だ。
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