メアーズレッグの執行人

大空飛男

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プロローグ

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来るべき第三次世界大戦は人類同士での争いではなく、人類と似て非になる生物である深きもの――魚人との生存戦争だった。
だれもが存在を目の当たりにしたその敵は、深蒼で美しい母なる海の暗中からじっくり時を重ね、満を持してその姿を現したのである。
魚人の技術力は少々遅れていた。彼らの武装は骨董品の様な物が多く、人々はそれを取るに足らない敵だと嘲笑った。
だが、すぐに後悔する。彼らは人類にはない物を数多く持っていたのだ。
人々が決して忘れる事の無い混沌の第二次世界大戦時にて、人々は主義に正義を持ち合わせ、それぞれの仇を打ち負かそうと躍起になった。求められたのは、勝利。故に多くの兵器を作り、多くの研究もした。
だがその結果が全て残っている訳では無い。ナチスドイツや大日本帝国の成果は特にだ。
ペーパープランのみで終えたもの、成果は出たが闇に葬ったもの、いつかの為に隠匿したものなど、数多く存在する。
これをロストテクノロジーと呼ぶ。
魚人はその技術を多くを保有していた。これが人類にとって最大にして厄介な有効手段となってしまったのだ。
例えば円盤型UFOのモデルにもなったハウニブー型の浮遊兵器。訳の分からない化学式の集合体から成る、人体実験から生まれた人造兵器。オカルトから導き出された魔法と呼ばれる等価交換の法則を無視したデタラメな技術。
これらに加え人類を滅亡を覚悟させた、海の神にしてかつてムー大陸が存在した頃、その世界を手中に収めていた邪神『パターンα』の復活。
まるでおとぎ話か、チープな陰謀論が形になったような、それ程にまで可笑しくも効果的な、強烈な爪痕をこの戦争は残した。
ところで、深きものと人類。その双方を集計した死亡率は、名だたる戦争が鼻で笑われるような数にまで及ぶ。
決定的な理由はその規模。人類すべてが遺恨や軋轢、宗教観を投げ出して、一致団結した「人類連合軍」と言う人類総戦力をスローガンとし、戦いに望んだからだ。あらゆる観点から人類は、目先に迫る危機の対処を行使せざるを得なかったのである。
さてこの戦争の結末は、人類の勝利で幕を閉じる。長い様で短い、わずか一年半の期間だった。事実上は1年の戦争であったが、様式美と皮肉にも言うのだろう。後の半年は国家の手柄争いによる、血みどろで無意味な狩りが行われた。
人類史には必ず、一つのターニングポイントがある。それは産業革命や技術革新が上がるだろう。この事実は間接的に必ずしも大きな戦争が勃発した事によるもので、歴史を辿れば、度々転換点となるのが戦争の傾向であり、人々は命を燃やすことで、利便性を求める皮肉さがある。
そしてまた、世界は一皮むけた。長らく停滞していた仮初の平和を打ち砕いて。
こうして世界は再び、望んだ平和になった。また形だけの、上部だけの、見せかけ。
だが変わりもした。例えるなら、世界を動かしていた歯車が生存戦争という衝撃で外れてしまい、その場しのぎで無茶苦茶に組み直され、耳障りな音を響かせ不器用に回り始めたようだった。
人々は確かに戦時中団結した。しかし結局の所は終戦後、各地で混乱に乗じた蜂起が後を立たず、やがて従来の治安は欠落し国境が曖昧となってしまった。
つまり、難民や不法入国者等が増え続け、多くの民族が入り混じり闇鍋の様に成り果てたのだ。
多くの国は政治などがもはや上手く機能せず、やがて民衆は身を守るために、家族を守るために、私欲の為に、闘争を恐れなくなってしまう。節度のない生活は表裏の社会との境界線に歪みを産みだし、やがて混ざり合いおかしくなる。
それだけならまだ良い。人類が直面した言い逃れのできない事実である、宇宙人やその類――UMAの存在や超自然現象を、まやかしとは思いにくもなる。
すなわち、それらを祭り上げる狂ったカルトも迫害されず、蔓延る様になる。
長い年月をかけて世界は大きな傷を癒していったが、過去の様な『奇妙なバランスを保った綺麗な世界』に戻ることはもう出来ない。
世界大きな傷は応急処置の適当な治療で済まして、継ぎはぎだらけで粗の目立つ、醜い傷跡の様になった。
第三次世界大戦は、それほど世界のあり方を壊した。パワーバランスを狂わせた。
君たちがこれから見るのは、この壊れた世界を生み出した終戦から約十年後の世界となる。

***
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