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第9話 真実
しおりを挟む「あら、いけない。お国の秘密を話すのは年よりの悪いクセね」
あやこさんは、穏やかな瞳で微笑んだ。
「先が短いせいかしら、今まで見てきた事や知った事を若い方には伝えたくなるの」
動揺しているみかこの膝に、あやこさんは、細く白いシワの美しい手をおいた。
「大丈夫よ、亀田さんがここの情報は守ってくれているから」
自分の手がわずかに震えている事にみかこは、気がついた。
「な、何のためですか?」
みかこは、思わず聞いていた。
「そうねえ、国によるわね、国民を管理したい国もあるば、未然に犯罪を防ぐための国もあれば、世界がみんな同じ事をしているからという国もあるわ、みかこさんが自分で見つけてごらんなさい」
思わず、みかこは首をかしげた。
「真実を」
あやこさんは、ポツリと呟いた。
「みかこさんが、見て経験した事しか、真実ではないわ。この世の理ね」
コノヨノコトワリ
「例え、私が話した事が真実でも、みかこさんが見て経験しなければ真実にはならないわ」
あやこさんは、おっとりと言う。
「あなたは、怯えていないもの。もしかしたら人に育てられたのかしら?」
あやこさんの柔らかな白髪が、夕日のオレンジ色に染まり始めている。
「あ、祖父母に」
あやこさんは、にっこり笑いうなずいた。
「今は親がいてもいないようなものだからね。私にも孫娘がいたんだけれど、私が今みたいな話をするから娘夫婦が、孫娘の将来を危惧して、絶縁されて、ここに来たの」
言葉がでずに、みかこはひたすらあやこさんの優しい瞳を見た。
この女性は、家族にまで絶縁されているのになぜ、こんなに穏やかでいられるのだろう?
ここでは、待つのは死のみなのに。
突然、亀田さんの声で館内放送が流れた。
「5時になりました。ヘルパーの皆様は事務所に集まり、退勤願います」
「あら、あなたと話しているとあっと言うまね」
あやこさんは、みかこの膝においた手を軽くポンポンとたたくと、そっと手を話した。
「また来てくれる?」
穏やかだったあやこさんの瞳に、一瞬、不安の色が混ざった。
「もちろんです」
何とか声を絞り出すと、みかこは静かにあやこさんの部屋を出た。
面接をしていた小さな事務所に行くと、亀田さんがタブレットを持って待っていた。
「お疲れ様。目を閉じてネットをオンにしてくれるかな?」
すっかり、ここでは仕事の情報が頭のチップから国に通達されるのをシャットアウトして、タブレットから違う情報を流していたのを忘れてた。
みかこが15秒目を閉じると、頭の中のチップからネット回線がオンになり、一気に情報が流れてくる。
一瞬、その情報量に吐き気がした。
目を開くと、亀田さんが何事もなかったようにタブレットを机の引き出しに、静かに閉まった。
「最初は、慣れなくて倒れてしまう人もいるんだけど、みかこさんは大丈夫そうだね。お疲れ様」
不思議な感覚のまま、ふわふわと亀田さんに頭を下げ「ゼイタク」を退勤した。
玄関の外には、夕日のオレンジ色が空いっぱいに広がっていた。
まるで、全ての真実を隠すように。
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