老人病院

長谷川 ゆう

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第4話 社会不適合者

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   みんな、稼ぐ事と自分を守ることで必死だ。


  そんな世界に、安田みかこは冷めた目で見ていた。そんなみんな、必死こいて好かれたいのか?サイレントマジョリティーのどうでもいい奴らに。

 二千三百年、日本、仕事をして家庭を築き子孫を残す事が良しとされる世界で人は必死すぎる。

   自分だけを守るのに必死な同級生とバイト先の人達とは、それなりに話を合わすが、みかこの気持ちは凍えつく。他に大切な物はないのかと、腹まで立つ。

  そんな事を面接会場の老人病院「ゼイタク」まで歩きながら、みかこは雲ひとつない空を見上げながら思った。

  みかこの横では、相変わらず全面曇りガラスの無人の自家用車やタクシー、バスが走っている。曇りガラス越しに、徒歩で移動する珍しいみかこを見る人の視線が突き刺さる。

  多数の人間と違うのは、まるで何かの罰のように。

   みかこが老人病院「ゼイタク」に脳内のマイクロチップからネットにアクセスし、自分の履歴書を送ってから2日後に面接会場の地図が送られてきた。

  安田みかこ様、老人病院「ゼイタク」運営者亀田です。履歴書拝見致しました。面接会場にてお待ちしております。

  簡素な味気ない文体だった。

 中卒でも正社員として働ける二千三百年の日本は、若者が爆発的に増えて、職業も選び放題なため、企業は求人募集に必死で、媚まで売る時代に、味気ない。


  まるで来てくれるなと言わんばかりの面接の文体に、みかこは選んだ職場を失敗したかと思ったほどだ。

   そんな事をうだうだ考えてみかこのアパートから、老人病院「ゼイタク」までは徒歩20分でついた。

  この時代に徒歩20分も歩くのは、奇想天外ですらある。5分も歩くぐらいなら、3万から5万で買える無人で走る自家用車を買うのが大多数だ。

  歩いているのは遊びたい盛りの小さな子供達くらい。その小さな子供のための人口で作られた自然を再現したテーマパークは、市や町に最高20個はある。

  「自然チャイルド育成テーマパーク」と呼ばれている。

    子供だけ乗せられた車やバスやタクシーごと入場すれば親が事前に脳内のマイクロチップから子供の名前、住所、性格、希望入場時間、希望退出時間を送れば、その履歴を元に子供達は、自宅から自動で送られ、時間になるとテーマパークの人間によって、また乗ってきた移動手段で自宅に送り届けらる。

  入場料金は、もちろん親の脳内のネット上のマイクロチップのクレカから引き落とされ、数時間いようが半日いようが相場は約50円程だ。

  情操教育に必死な親は「自然チャイルド育成テーマパーク」に子供を長居させるが、教育熱心な親は数時間で子供を帰宅させる。

  産まれた時から、全て管理され自分の頭で考えずに育ち、大人になる事に疑問すら持たない事に、みかこは反吐が出る。

  「自然チャイルド育成テーマパーク」には、人口で作られた道、公園、空、山、川、海、全てがそろって、なおかつ子供達が怪我をしないように、テーマパークの運営の人間と監視カメラが目を光らせていた。

   1度、共働きの両親に五才の時に預けられたが、亡き祖父母と本物の外を散歩で歩いていたみかこは、その人工的な作り込まれた完璧な自然とそこで何の疑いもなく遊ぶ子供達を見て、言い知れない恐怖に飲み込まれ、泣き出してしまい30分で自宅に返された。


   帰宅したみかこの脳内のマイクロチップには、母親からメールが届き「なんで、泣いたの?おかあさん、はじをかいたわ」と父親からは「みかこ、しゃかいになれないと、おとなになってからやっていけないぞ」
とほぼ、批判的な言葉が送りつけられた。

  みかこは、自分が人と同じ事を出来ない不安と両親から労りどころか社会不適合者のように扱われたことで、恐怖と不安に陥り、火がついたように泣き叫んだ。

  祖母が気がつき、泣きじゃくるみかこを膝に乗せあやしながら、ポツリと言った。

  「自然は、いびつで不安定なの。みかこちゃんが見る本物の空は青かったでしょ? クレヨンのグレーの色だったり、雨がふったり、風が吹いたりするでしょ?みかこちゃんの心だって、いびつな自然のように不安になったり、笑ったり、それでいいのよ」
   それだけ祖母が言うと、五才のみかこは慣れない「自然チャイルド育成テーマパーク」と両親からのメールに、どっと疲れていたさやかは、祖母の膝の上で安心して、眠りに落ちた。

  そんな昔の事を考えながら歩いていたら、老人病院「ゼイタク」に着いていた。

  

  

   

   

  

  
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