老人病院

長谷川 ゆう

文字の大きさ
上 下
3 / 9

第3話 居場所

しおりを挟む


  二百年前の安田みかこの曾祖母の時代は、就職するのに書類審査があったらしい。

  二千三百年の日本では、生活以外の紙は高級品になり図書館の本でしかみない。

  今の日本では、産まれた時から脳に埋め込まれたマイクロチップの中に全ての学歴、職歴、病歴まで書かれた履歴書が入学やバイト、就職をするたびに自動的に更新される。

  入学や入社したい求人募集されている場所に、目を15秒閉じて、履歴書に目をとおし、アクセスした学校や会社にネットを通じて送るだけだ。

  ほぼ、9割で書類審査は受かる。落ちたとしても2つ目の場所が大抵拾ってくれる。

   書類審査に合格すると自動で、翌日にはネットにアクセスすると面接会場の地図が送られ、人間は面接だけ受ければよいシステムだ。

  安田みかこは、2日ほど都内の老人病院の求人を5社見たが、最初に見た老人病院、「ゼイタク」と同じように条件は同じなのにどの老人病院にも惹かれない。

  3日目の朝、老人病院「ゼイタク」の求人募集にマイクロチップから自分の履歴書を送った。

  安田みかこがバイトをして住んでいる3LDKと言っても正社員として働く同級生は、月給50万円以上はもらっているため、独り暮らしでも戸建てに住める。

   食事は、五百年前の江戸時代の文化の人がザルや樽で魚や豆腐を道を歩きながら売る、「振売り(ふりうり)」を逆に取り入れ、脳内のマイクロチップで登録してある食堂やデパートで注文を頼めば、自動的に無人の車が家の前まで配達さる。

    たとえ登録していなくても、家の前を通る無人の車が運ぶ魚類や肉類、野菜など調理出来る食材を止めれば、置いていってくれる。

  お金は全て、クレカかプリペイドカードから払う。百年前にはお札や硬貨は廃止され、本物を見たければ、国立博物館に行くしか見ることの出来ない代物だ。

  みかこも、祖父母が1度だけ国立博物館に連れていってくれた時にしか、強化ガラス越しにしか紙幣と硬貨を見たことはない。

  この時代に、人と会うのはせいぜい学校か職場か病院、家族か親戚にしか会わないので人と会うのすらまれだ。

   移動手段は、主に自動で動く個人で所有している自家用車か、無人のバス、無人タクシー、徒歩以外にない。

   二百年前に通勤手段として使われていた電車はなくなり、残された車両の上を埋めてその上を自家用車やバスやタクシーが走っている。

  車の免許は、成人して市や町に申請すればだれでもとれる。車は自家用車が主だが、仕事によってはレンタカーを借り登校や出社をした。

  みかこは、この時代には珍しく面接会場までは徒歩で行く。

  車やタクシーやバスは、個人情報流出を防ぐため、どの窓も人が乗ると自動的に曇りガラスへと変わる。

  みかこは幼い頃、亡き祖父母と手をつなぎ、よく散歩に出た。空はどこまでも高く、閉鎖的ではない。

   あの時の感情を味わいたくて、歩く。

  自家用車は、三万から五万で手に入る時代だが、みかこはあえて買わなかった。

  歩き、どこまでも手の届かない空を見上げ、亡き祖父母の記憶をたぐりよせる事だけが、みかこにとっての居場所だからだ。

    

  


   

   
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

健太と美咲

廣瀬純一
ファンタジー
小学生の健太と美咲の体が入れ替わる話

CoSMoS ∞ MaCHiNa ≠ ReBiRTH

L0K1
SF
機械仕掛けの宇宙は僕らの夢を見る――  西暦2000年―― Y2K問題が原因となり、そこから引き起こされたとされる遺伝子突然変異によって、異能超人が次々と誕生する。  その中で、元日を起点とし世界がタイムループしていることに気付いた一部の能力者たち。  その原因を探り、ループの阻止を試みる主人公一行。  幾度となく同じ時間を繰り返すたびに、一部の人間にだけ『メメント・デブリ』という記憶のゴミが蓄積されるようになっていき、その記憶のゴミを頼りに、彼らはループする世界を少しずつ変えていった……。  そうして、訪れた最終ループ。果たして、彼らの運命はいかに?  何不自由のない生活を送る高校生『鳳城 さとり』、幼馴染で彼が恋心を抱いている『卯月 愛唯』、もう一人の幼馴染で頼りになる親友の『黒金 銀太』、そして、謎の少女『海風 愛唯』。 オカルト好きな理系女子『水戸 雪音』や、まだ幼さが残るエキゾチック少女『天野 神子』とともに、世界の謎を解き明かしていく。  いずれ、『鳳城 さとり』は、謎の存在である『世界の理』と、謎の人物『鳴神』によって、自らに課せられた残酷な宿命を知ることになるだろう――

No One's Glory -もうひとりの物語-

はっくまん2XL
SF
異世界転生も転移もしない異世界物語……(. . `) よろしくお願い申し上げます 男は過眠症で日々の生活に空白を持っていた。 医師の診断では、睡眠無呼吸から来る睡眠障害とのことであったが、男には疑いがあった。 男は常に、同じ世界、同じ人物の夢を見ていたのだ。それも、非常に生々しく…… 手触り感すらあるその世界で、男は別人格として、「採掘師」という仕事を生業としていた。 採掘師とは、遺跡に眠るストレージから、マップや暗号鍵、設計図などの有用な情報を発掘し、マーケットに流す仕事である。 各地に点在する遺跡を巡り、時折マーケットのある都市、集落に訪れる生活の中で、時折感じる自身の中の他者の魂が幻でないと気づいた時、彼らの旅は混迷を増した…… 申し訳ございませんm(_ _)m 不定期投稿になります。 本業多忙のため、しばらく連載休止します。

入れ替われるイメクラ

廣瀬純一
SF
男女の体が入れ替わるイメクラの話

入れ替わった恋人

廣瀬純一
ファンタジー
大学生の恋人同士の入れ替わりの話

びるどあっぷ ふり〜と!

高鉢 健太
SF
オンライン海戦ゲームをやっていて自称神さまを名乗る老人に過去へと飛ばされてしまった。 どうやらふと頭に浮かんだとおりに戦前海軍の艦艇設計に関わることになってしまったらしい。 ライバルはあの譲らない有名人。そんな場所で満足いく艦艇ツリーを構築して現世へと戻ることが今の使命となった訳だが、歴史を弄ると予期せぬアクシデントも起こるもので、史実に存在しなかった事態が起こって歴史自体も大幅改変不可避の情勢。これ、本当に帰れるんだよね? ※すでになろうで完結済みの小説です。

冬馬君の夏

だかずお
大衆娯楽
あの冬馬君が帰ってきた。 今回は夏の日々のお話 愉快な人達とともに 色んな思い出と出会いに出発!! 祭りやら、キャンプ 旅行などに行く 夏の日々。 (この作品はシリーズで繋がっています。 ここからでも、すぐに話は分かりますが。 登場人物などを知りたい場合には過去作品から読むと分かり易いと思います。) 作品の順番 シリーズ1 「冬馬君の夏休み」 シリーズ2 「冬馬君の日常」 シリーズ3 「冬馬君の冬休み」 短編 「冬休みの思い出を振り返る冬馬君」 の順になっています。 冬馬家族と共に素敵な思い出をどうぞ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...