9ツノ世界と儀式

長谷川 ゆう

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エピローグ ・自由の世界・

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    バレは宙の国で、9つ目の世界、愛する人の世界でブランドと共に、最期の1ヶ月の命が尽きる義務を放棄した罰を受け、頭から足まで黒い布を被り、腰が曲がる程の荷物を背中に抱えて、細い腕の骨が折れそうな地図のたばを持ち、産まれてきた子供達に、配っていた。


  バレは、愛する世界を出た時のまま、90歳のままだ。


   何週間、何ヵ月、何年が経過しただろうか。
本当に、もう1人の自分は、もう一度産まれてくるのだろうか?

  バレは、グランドにもう一度会いたい一心で、奪うように荷物と地図を持っていく子供達に、渡し続けた。

   「すみません、荷物と地図を下さい」
   バレが振り向くと、そこには、白いワンピースを着た、白い肌に茶色の髪の毛と瞳を持った、10歳の、産まれたばかりの、もう1人のバレがいた。

   「重たくないですか?少し持ちますか?」
 私が言った最初の言葉だ。バレは驚きつつ、荷物と地図を渡した。

  「優しい事は、悪いことじゃない。でも、この国では罰を受ける。早くお行き、私になる前に」
  宙の国の金色の門に、バレは目をやると、後ろからまた子供に呼ばれた。

   体のあちこちが、軋むように痛む、次の子供のもとへ行く前に、もう一度、もう1人の自分をバレは見た。

   のんびりと金色の宙の国を出る門に向かっている。

   突然、バレの目の前が、歪み、体がガタガタと力が入らなくなっていった。最後に見たのは、金色の門から出ていく、もう1人の自分だった。

   「バレ、バレ」
  遠くから、優しい懐かしい声が聞こえた。
目を開けると、倒れているバレに覆い被さるように、まぶしい青空を背に、金色の髪の毛の10歳のグランドが、バレを見下ろしていた。


  「グランド!」
バレが思わず、起き上がると、思い切りグランドとおでこをぶつけた。

  「ははっ」
  グランドが愉快に笑って、ずっと来ないバレを探していたと言う。

  バレは、最初に着ていた白いワンピースを着ていた。宙の国で産まれた時と同じ、10歳だった。

  「消えた、もう1人の自分はどうなったのかしら?」
  思わず、不安になった。グランドは、相変わらず、優しい微笑みをバレに向けた。

  「ここに、いるよ。もう一度生まれ変わるのは、宙の国で消えた僕達の体で、記憶は9つの世界を旅した時のまま残るそうなんだ」
    グランドは、バレを長く待ってくれていたらしい。その間、自由の世界で、バレの知らない事をいろいろ知ったそうだ。

   バレが周りを見回すと、今まで旅したどの世界よりも、大きく、お祭りのように人が行き交い、たくさんのお店が出ている。

  キョロキョロあたりを見回すバレの手をとると、グランドはバレを立ち上がらせた。

   「いろんな場所を、紹介するよ。バレ」
グランドが、バレと繋いだ手を引く。

   雑踏にまぎれながら、バレは思った。

   この世界を1人で旅して、やっと出会ったグランドの手を2度と離さないようにと。

     バレは、自分より少し大きなブランドの手を強く握り返した。


    



    
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