9ツノ世界と儀式

長谷川 ゆう

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妹の世界

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    手にはシワが出来て、歩くのも宙の国を出た時の自分より遅くなった事を、バレは妹の世界へ行く列車に揺られながら、思った。


    相変わらず白い肌だが、シワのある手を見ると、少し違和感をバレは覚えた。

    あと、宙の国の義務を果たせば、バレは2ヶ月で命が尽きる。


    弟の世界を出てすぐに、バレはこの世から去る恐怖が勝っていたが、今では、湖の波のように静かに、「死」を受け入れている自分がいた。


     「死」も、宙の国でバレが10歳で目が覚め、産まれた「生」と同じく、当たり前な事で怖い事ではない。


     「死」が怖いのは、宙の国を出てから、いろんな世界を旅をして、家族や人々に出会い、いろんな事を知り、また、それが、目覚めた時のように、産まれた時のように、なくなってしまうからだ。


    かすんできた茶色の瞳で、バレは列車の外を眺めた。列車は、相変わらず五両しかなく、バレと同じく80代の老人が乗っている。


     「バレ、前に座ってもいいか?最後の旅だね」
    バレが、ゆっくり見上げると、金色の髪に白髪が混じり、目じりのシワが笑顔で、ますます増えたブランドが立っていた。


   「あれ、ブランド。お互いに年齢を重ねたわね」
  バレから話すと、ブランドは嬉しそうに笑ってバレの前に座った。初めて出会ったのが、7ヶ月前だ。

   弟の世界から妹の世界まで、列車で2時間ほどの旅だ。


   弟の世界から駅を出る時、バレは駅員に働く場所を地図で聞いたら、相変わらず無表情な駅員が言う。

   「義務以外は、この世界は自由だ。だかね、妹の世界にある職業は、どの世界とも同じ、駅員と運転手だけだ。妹の世界の駅員に、あんたの地図を見せたら、五百パレが宙の国から出る制度があるから、使いなさい」

      
   「妹、どんな子なのかしら」
  バレは、呟いた。自分の家族に出会い、いろんな人間がいた。いない人間もいた。

   バレが宙の国を出て、最後に会う家族だ。グランドは、素敵な妹だといいね、と言って微笑んだ。

     妹の世界の駅には、何人かの女の子達が、
自分の兄や姉を待っていた。

    グランドとは、ホームで分かれた。駅のホームでは、女の子達がワイワイと楽しそうに話していた。

  その中に、1人、色白で細身で茶色の髪と茶色の瞳の女の子が立っていた。

   「ギルバー・スプーン?」
   バレが声をかけると、体をびくっと震わせた後、バレの妹は、ほっとした顔をして花が咲くように鮮やかに、にかっと笑った。

    妹の世界、住人三千人、バレの妹はギルバー・スプーン、ポスト村在住。妹の世界は、21の村に分かれている。
 
    スプーンが住むポスト村は、村の中央で谷の村だった。家に行く前に、バレが地図を駅員に見せると、国から五百パレが出る制度とおりに、出された紙にサインすると、五百パレが駅員から、渡された。


     駅前には、弟の世界と同じように、売店があった。野菜やパンケーキの素とスプーンが着れそうな綺麗なネイビーのワンピースを一枚だけ買い、村へ向かった。

     「ありがとう」
   スプーンは、小さな声で、バレを見ながら言ってバレの手をつないだ。

    小さく、温かく、少し湿り気のある、まだ幼い手だった。宙の国を出た時のバレくらいの年齢だろうか?

    私も8ヶ月前に、産まれた時は、こんなに小さかったのだろうか?バレは、不思議な気持ちになった。


    バレのゆっくりな歩幅に、あわせてスプーンは歩く。とても優しい子なのだろう。

    ポスト村は、小さな村で、小さな小屋が離れて作られていた。スプーンの小屋は、村に入って2軒目の小屋だった。

   入ると、小さな台所と子供用の部屋、旅人用の大人の大きな部屋が一つずつあった。

   それぞれ、ベッド、テーブル、タンスが用意されていた。

   バレは、荷物をおろすと、まだ着ていない祖父と母親からもらったワンピースをと店で買ったネイビーのワンピースをスプーンにあげた。


   「こんなに、いいの?」
  腕に抱えきれない程のワンピースに、顔をうずめてスプーンは、はにかむように笑った。

   
    スプーンに、店に売っいた野菜で、野菜スープとトマトサラダとパンケーキを作ってあげると、スプーンはもぐもぐと無言で食べていたが、ニコニコしていた。


    スプーンの小屋は、綺麗に整理され掃除も行き届いていた。バレは、野菜スープとトマトサラダとパンケーキの作り方をスプーンに教えた。

    スプーンは、あまり話さない女の子だったが、何をするにも一生懸命で、笑うと花が咲くように鮮やかに笑い、年老いたバレを心配する優しい妹だった。

 
    三週間半、スプーンの家でバレは過ごした。スプーンが、自分が命が尽きる前に会う家族だと思うと、寂しさと、家族をめぐる旅を終えた安堵があった。

     妹の世界から、愛する人の世界に行く列車は3時間ある。スプーンが駅まで送ると言うのでバレは、その言葉に甘えた。


     帰りも、来た時と同じように、スプーンはバレの手をつないだ。

      夕日のオレンジが、ゆらゆらと空に満ちていて綺麗だった。

    夕日に照らされたスプーンの茶色の髪が、キラキラと光っていたので、思わずバレはスプーンの頭を優しくなでた。


     スプーンは、バレを突然抱き締しめた。
バレは、ずっとスプーンの頭を優しくなでた。


    スプーンは、バレのお腹に顔をうずめて、すすり泣いていた。静かな妹だか、優しい妹だ。

   もうすぐ、バレの命が尽きる事を知っていた。

      バレは、スプーンが泣き止むまで、ずっとスプーンの頭を優しくなでた。


     バレは、85歳になっていた。




   

    

   



    
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