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弟の世界
しおりを挟む「ねーちゃんだ!」
弟の世界につくと、バレは10歳の弟、ギルバー・ダーツに抱きつかれて、駅で尻餅をついてしまった。
バレは75歳になっていた。
弟のギルバー・ダーツは、バレの孫くらいの年齢だが、この世界は義務を果たす意外だ。
駅のホームで待っていた弟のギルバー・ダーツは、坊主の茶色の髪と丸いキラキラしたの瞳をした少年だった。
どことなく、祖母の1人、ギルバー・マナーに似ていた。
弟の世界住人五千人、弟ギルバー・ダーツ、カナリア市在住。
バレの弟は、駅のホームで独り、バレを待っていた。
バレが、列車から出てきた瞬間、バレに飛びついてきた。思い切り腰に抱きついてきて、バレはし尻餅をついてしまう。
「何で、私がパレをだと、思ったの?」
尻餅をついたバレの腰から腕を、背中まで回したまま、弟のダーツは、まんまるな瞳で、バレを見上げた
「おれ、知ってるんだ!ねーちゃんの音!大好きだから!」
にひひっとダーツは、笑うとまた、バレのおかに顔をうずめた。
隣で、見ていたはグランドが、微笑ましく笑った。
ストレートなダーツの表現に、いつもは無表情なバレの顔がゆるむ。
弟の世界は、3つ市で分けられていて、カナリア市は、世界の真ん中の市だった。
ブランドと駅前で、別れると、ダーツは、バレの右手を小さな汗ばんだ手で握ると、ぐいぐいバレを引っ張って歩く。
姉の世界の事もあり、バレは、初めて身近な「死」と向き合い、落ち込んでいたが、ダーツの生命力の力強さに、前へ前へと進んでいく。
丸い茶色の髪は、夕日に照らされ、まんまると太陽のように、つやつやと光っていた。
カナリア市は、駅前から10分もあるけばついた。小さなブラウンのアパートの1階の3軒屋ある、真ん中の家だった。
ダーツの右隣の限界の前に、ダーツと同じ年齢くらいの金色の髪の毛の男の子が立っていた。
「いいなあ、ダーツ、姉ちゃんに会えて、俺んとこ、まだ、来ないよ」
口をどがらせて、ダーツとバレを見た。
「にひひ」
笑いながら、ダーツはバレの手をつないだまま、バレを家に入れた。
どうやら、その世界ごとに旅する人間の滞在期間が違うため、到着もバラバラで不平等らしい。
アパートは、小さい台所と1つの子供の部屋と大人用の客間に、ぎっちりベッドが置いてあった。
大人1人が歩くのがやっとの部屋だ。
バレが、荷物をおろすと後ろから、また、にひひと笑い声がした。
振り向くと、ダーツが小さな両腕を後にまわして、もじもじしている。
数秒して、小さなお腹から、大音量の、ぐう~と言う威勢の良い音がした。
バレが、宙の国で産まれた時、弟と妹の国では、兄や姉が滞在期間は、世話をする事をすでに、知っていた。
「何か、食べ物を買いに行こうか?」
バレが言うと、ダーツは飛びはねて、喜んだ。
外に出ると、相変わらず金色の男の子が立っていた。確か、知らない家族でも、自分より年下の子供の世話をしても良いはずだ。
宙の国では、1ヶ月ごとの世界の旅の義務以外は、自由な制度になっている。
「あなたも、来る?夕食を一緒に」
確か、駅前には小さなお店があり、食材が手に入る。
その子は、少し口をとがらせて、もじもじしていたが、大きくバレにうなずくと、ダーツと手をつないだ。仲が良いらしい。
ダーツの友達は、タスと言う名前だった。
「俺、しお派!」
ダーツが、暗くなってきた星空に響くようにいった。
「俺、こしょう派!」
タスも、大声で主張する。
どうやら、弟の世界では、ジャガイモが有名で茹でて味付けをするだけで、おいしいと言う。
お店は、お客は1人もいなくて、70代くらいの老女が店番だった。
この人も、番人だろうか?駅員とは違い、宙の国の番人のように、頭から足まで黒い布をかぶっている。
バレの不安をよそに、ダーツがぐいぐいとバレのワンピースを引っ張る。
1袋のじゃがいもは、1パレだ。タスの分と2つずつ買っても、1ヶ月分60パレもしない。
塩と胡椒、トマトやパンケーキ用の素を買い、百パレだった。
帰る時、小さいのに、ダーツとタスが「俺が持つ!」と荷物の取り合いになって、困ったバレは、軽い野菜の袋を1つずつ持たせた。
帰って、ダーツの家で、3人分のじゃがいもを茹でて、祖母の世界で覚えたトマトサラダをバレは作った。
ホクホクの山盛りのじゃがいもと、トマトサラダを見た、ダーツとタスは歓声を上げた。
それぞれの皿に分け、ダーツは塩をかけ、タスは胡椒をかけ、バレはそのまま食べた。
「おいしい!」
思わず、バレは声を上げた。甘みがあり、味付けをしなくても、充分だ。
「弟の世界の名物なんだぜ!」
ダーツとタスは、自慢げに、にひひと笑った。
「うめえ!」
今度は、トマトサラダにダーツとタスが歓声をあげた。
それから3週間半、バレはダーツとタスに掃除の仕方、じゃがいものゆで方、トマトサラダの作り方を教えた。
タスの兄も姉もやって来ない。ブランドが言っていた「脱落者」なのかもしれないとバレは、思った。
兄か姉が来ると信じて、希望を持っているタスに、バレは言えなかった。
ダーツとタスに五百パレを渡し、バレは弟の世界を旅立つ事にした。手元には二百パレ程しか残らなかったが、妹の世界には、働く場所もあると聞いた。
ダーツもタスも、最初は寂しそうな顔をしたが、最後は、バレの茹でたじゃがいもとトマトサラダに笑って、駅まで見送ってくれた。
小さな、小さな手のひらが、いつまでも蝶のようにひらりひらと揺れていた。
バレは、宙の国を出てから、初めて「愛おしい」と言う感情を感じた。
バレは80歳になっていた。
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