9ツノ世界と儀式

長谷川 ゆう

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母親の世界

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      バレは母親の世界に行く。
父親の世界から列車で2時間ほど揺られたら母親の世界の駅に到着する。


     列車は、藁葺き屋根から出てきたバレを含む10人の子供達しか乗らず、五両ある列車の1両ごとに2人いるくらいだ。

 
     バレは20歳になっていた。
バレの目の前には、目の青い金色の髪の毛をした男の子がぼんやり外を眺めていた。

    「あんたも藁葺き屋根の子供?」
男の子が突然話したので、バレは驚きあわててうなずく。

    
     「宙の国の義務だからって、良い家族に会えるとは限らないよ。俺はグランド、よろしく」
男の子は、冷めた青い瞳でちらっとバレをいちべつした。

      「私はバレ、父親はギルバー・ルータ」
父親の事も自分の事もよく分からず、バレはそれだけしか言えなかった。

     
     グランドは、窓を見ながら何も話さない。
バレは気まずくなり、リュックに入っていた水筒の水を飲んだ。

    「あんたの名前、たぶんギルバー・バレだよ。俺のおやじが言ってた、この国では父親の名字を子供は引き継ぐんだって」


     初めて会ったグランドにこの世界の事を教えてもらう事が恥ずかしくなったバレはうつむいた。

   
      「俺のおやじも、仕事に失敗して藁葺き屋根暮らしだから、お互いたいした事ないよ」
顔をあげると、グランドは悲しそうな青い瞳で、バレを見て少し笑っていた。


      車内放送で、あと5分で母親の世界の駅に着くと流れた。駅員から貰った手持ちの10パレは列車賃に消えてしまう。バレは不安になった。


      「俺達、もう20歳の成人だから、母親の世界には、仕事する場所もあるらしいし稼げるよ。何かあったら俺を探しなよ、母親がどんな奴でも稼ぐつもりだし」

      グランドは、優しい子だ。でもすでにこの世界に絶望し始めている。バレはそう思った。

    バレは手に持ったままの地図に目を落とすと、母親の世界を見た。

   「母親の世界の住人10億人、母親の名前、ギルバー・サマー。ルノ州在住」
     バレは地図しかこの世界には頼れるものがないかのように、ぎゅっと地図を握りしめた。

    
     駅員に10パレを払うと、駅前でグランドと別れた。ルノ州は、母親の世界の駅から3キロ先にあった。

     駅の目の前には藁葺き屋根の家が10件近く、父親の世界と同じようにあった。

       藁葺き屋根を通りすぎると、ルノ州へ続く整備された白い道が1本ずっと続いている。

      リュックを背負いなおし、バレは地図を片手に歩きだした別れたグランドの姿はすでに見えない。

     母親の世界は6つの州に別れ、バレの母親が住むルノ州は6つの中でも真ん中あたりだ。

    空はまた明るくなり、太陽の光でキラキラと青く輝いていた。バレはこの世界に産まれ、この空を見れただけでも良かっと思った。


    「よく来たわね」
バレの母親、ギルバー・サマーは40代、バレと同じ茶色の長い髪をおだんごにして後ろでまとめ色白で細身の人だった。

      「初めまして、ギルバー・バレです」
ギルバーと名乗ると一瞬、母親は眉間にシワを寄せたが笑顔を作り笑った。

     その瞳は、笑っていなくてバレは父親とは違う居心地の悪さを覚えた。

    バレの母親、サマーの家は白で統一された2階建ての1軒家だった。

     1階のリビングで、サマーはバレに紅茶とマドレーヌを用意してくれてる。バレは白いテーブルに落ち着かず、あたりをキョロキョロ見回した。

    
     壁も、時計も、台所も、床も、どのドアも白い。まるで汚れた物をすべて拒絶しているようだ。

      バレは自分の白かったワンピースを見た。いつの間にか、あちこち汚れスカートのたけは半分まで短くなっていた。

     「新しいワンピースも、お金も用意してあるから大丈夫よ。あの人、お酒におぼれてあなたにお金でもたかったんじゃない?」


     母親が言う「あの人」は父親を表し、背中を向けながらバレに話しかけてきたサマーは、何でもお見通しのようだった。

   
      母親が出してくれた紅茶はさっぱりしていて、マドレーヌはしっとりとして甘かった。リュックに入っていたパンをちびちび食べていたバレにとって、ごちそうだ。

     バレがパクパクとマドレーヌ食べて完食した姿をサマーは、テーブルを間にして楽しそうに見ていた。

    恥ずかしくなったバレは、紅茶を飲むと黙りこんだ。

   「バレが宙の国に産まれたと知った後、この世界で家族はそれぞれの世界に行く義務があるの。あの人と・・・あなたのお父さんと離れて、あなたがおばあちゃん似だと分かって、ほっとしたわ」

    サマーはバレに微笑むと、1つの白いドアの部屋から綺麗なブルーのワンピース1枚と百パレのお金を持ってきた。

     「こんなにもらえません!2ヶ月分のお金はあります。働く場所もこの世界にはあるし」
バレはがおろおろしていると、母親は押し付けるように、バレにブルーのワンピースと百パレのお金をバレにわたした。


   「私が出来るのは、このくらいの事だから。次の祖父の世界までの列車賃は50パレはするわ。持っていきなさい」

   母親の茶色の瞳は、バレと出会った時より寂しそうで、頼りげない瞳だった。

      気がつくと、バレは25歳になっていた。



     
          
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