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第6話 義母と会話
しおりを挟む「奈良が良いわよ!女の子だし、名前は!」
ラナを産み、産院に来た義母が初孫の名前を決めた時、幸子は絶句した。
確かに夫と義父母は、奈良出身で夫は東京で大学を出てそのまま就職、義父母は奈良に住んでいる。
「ねえ!お義父さん!」
夫と同じく事なかれ主義の義父は、ああ、と一言だけ言ってラナを見ていた。
夫が出張中の時に、一人での出産は心細く苦しかったが4人部屋のお母さん達の仲良くなり、幸子は気持ちは落ち着いていた。
何とか出産し、母子ともに健康な方で退院も決まった2日まえに義父母がきた。
「まあ!可愛い女の子やね!健にそっくりやわ!」
もともと相性が幸子は義母と合わなく、苦手だった。無神経で声が大きい。
「そうですね。健さんに似ました・・・名前は今、考えています」
出産での疲れと睡眠不足がたたり、幸子は口をすべらせてしまい、しまったと思った。
義母は、何にでも首を突っ込みたかるのだ。
出産後、夫の健は必要な物を買ってきて娘の顔を見ては「君に似たのか、僕に似たのか」と一言を言っては帰るだけだ。
産後の経過は良かったが、ホルモンの変化にも体の変化も辛かったが、幸子は持ち前の気丈さで、産科でも、うっとうしい義母の前でも振る舞った、
まだ目も開いていない、小さなベッドに寝かされている娘。
自分の父親は、幸子が10代の時に病でなくなっている。それをきっかけに躁鬱病、双極性障害になってから幸子が結婚し、家を出るまでは地獄だった。
気分の良い時は、ペラペラ話し外出が多くなり買い物が増え借金が200万近くになった。
幸子の給料と貯金で、生活を切り詰めて何とか返済を終えた頃には、双極性障害の特徴であるうつ状態から、またそう状態になっている。
近所でのトラブルの元も、大抵は母親のそう状態の時で、幸子は疲れきっていた。
そんな母親は、結婚も出産も祝ってくれなかった。むしろ、「私はどうなるの?」と自分の話ばかりをしていた。
「女の子か」
日だまりの中、すやすや眠る自分の娘を見て自分が、自分の母親と同じになるのではと言う恐怖がある。
幸子が、異常に人や世間を気にするのは躁鬱病の母親のしでかした事が発端だ。
「なら、学校で苛められるわ」
独り言を呟く。
しかし、義母には自分の母親の借金返済でほとんど貯金のなかった幸子に住む家の初期費用、産科の個別の部屋まで用意してもらった。
遠くに住む友人から、病院に花が送られてきた。見た事ない紫色の鮮やかな花がありスマホで調べると「ラナンキュラス」と言う花だ。
ラナンキュラスの紫の花言葉は「幸福」幸子は、疲れきった頭と体でこれだと思った。
生きるのは、辛い。でも幸福にもなれる。私がこの子を授かったように。
この花の頭文字をとろう。
「ラナ・・・」ふと言葉が出てきた。
名前にすら興味のない夫より先に義母にはLINEをした。
「奈良だとストレートすぎるので、海外でも通用する、ラナはどうですか?」
了解の返信は、2、3分できた。
幸子は、やっとほっとして、ベッドから立ち上がり娘を抱いた。産まれた時より少し体重も増えた。
「ラナ、一生に生きていていこうね」
静まりかえった個室の部屋で、幸子の小さな声と、産まれたばかりのラナの小さな寝息が響いていた。
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