先祖代々、視えている

長谷川 ゆう

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第3話 祖父の笑顔から

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  「ハロー、ハロー」
   戦中生まれの父方の祖父が、深夜までパソコンと向き合いながら職探しをしていたら英語で愉快に話しかけてきた。

   神田マナの小さな1人用のダイニングテーブルがある台所と6畳の和室1つと風呂とトイレの小さなアパートには、死んだ父方の先祖が毎日のようにやってくる。

  神田家は、先祖が視えると言い出した女性が座しきろうに閉じ込められ、その娘が失望の果てに行方が分からなくなってから、ますます先祖が視える力が強くなったと言われている。

  その謎が解けるのは、すでに亡くなった母親の祖父がマナだけが解けると言い残しこの世界を去った。

  しかし、派遣切りにあいそうなマナにとって貯金が尽きる1ヶ月後までには仕事をみつけなければならない。そちらが死活問題で優先なのだ。

  6畳の和室には、小さな丸テーブルとベッドと二人がけの小さなソファーしか置いていない。

  ちなみにテレビはない。必要なニュースや情報はパソコンかスマホから選びとれば充分だ。

 仕事がなくなれば、そのツールすら携帯代と家賃が払えず、途切れてあやしくなる。

  マナの頭の中は、混乱していた。

 「ハロー、ハロー」
  相変わらず、祖父が電気を切ってある暗い台所から話しかけてくる。

 「もう!うるさいなあ!何っ、おじいちゃん!」
 マナが振り返ると、台所には小柄な祖父が透明な姿で立っていた。

  正解に言うと、透明と言うよりは電気が切れる前に一瞬ショートするような虹色のような光を放っている。

  「ハロー・・・」
 マナが睨むと、祖父はとことこと歩き、ちょこんとマナの横に座るとパソコンの画面を指差した。

  そこには、「ハローワーク」の文字。
さっきから祖父が言いたかった事らしい。

  「行ったけど、28の派遣は厳しいって言われて追い返された。新卒でもないし・・・職歴もたかだか知れてるし」
  自分で言いながらむなしくなる。

  希望もない。
  心の中で毒ずく。友人達はほとんど結婚してすでに母親になっている人までいる。


  隣に座る祖父はニコニコ笑っている。
「何がおかしいの、おじいさん?」
 
  少し苛立ちながら祖父に八つ当たりのように話す。

  「じいちゃんが、マナの歳の時は闇市で働いた奴もいれば病気であっと言うまに死んだ奴もいる。じいちゃんも食べるとものがなくて、よく栄養失調で病気した」

  祖父は、優しくマナを見てにっこり笑う。

 「マナは、立派に育った。じいちゃんはそれだけで嬉しい」

  そう言うと祖父は、すうっと消えていった。

  マナは自分がお腹が空いていた事も忘れていた。確か冷蔵庫に野菜炒めにするくらいの材料はあったはずだ。

  パソコンをシャットダウンし、台所に向かいながらマナは独り呟いた。

  「そんな事いわれたら、何がなんでも生きていくしかないじゃない」

  マナは独りで小さな台所の電気をつけた。


 

 

   

  
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