ニート株式会社

長谷川 ゆう

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社内見学①

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  「ケンたん、就職おめでとう~」
 ルリが満面の笑みで2時限をサボり、2人で学食で質素な就職祝いをさせられた。

  
  ルリが就活祝いにおごってくれたのは、学食でも1番安いハンバーグ定食だ。


  「社長が叔母さんなんて聞いてねーぞ」
ハンバーグから漂う湯気ごしに俺はルリをにらんだ。


   「言うの忘れてた♪」
 さっそくハンバーグを食べだしたルリは、我関せずの顔だ。


   「合格したら、次は何するの?」
  さすが大手電化製品の社長の「パパ」をもつZ世代だ。

   
   いや、俺もZ世代だが・・・。

  「午後からは、卒論は書き終わってるし、社内見学に行く」
   ルリが口いっぱいにハンバーグを入れてモグモグ食べながら、にらんでくる。


   「何だよ、就職先の紹介、ありがとう・・・」
   これでも、ぼっちだった俺を4年間、友達としていてくれた奴だ。感謝くらいは、と思っていたら飲み込んだハンバーグのカケラを飛ばしながら、ルリがまくしたてる。


  「ケンたん、ずっる~い!私なんかまだ卒論どころか、卒業が出来る単位までギリギリ講義でなきゃなんだから~!」
    そっちかよ。思わずあきれる。

   ルリがハンバーグ定食をたいらげると、3時限目の講義の時間になった。

   「ケンたん、就活支援したから、卒論は貸しね~!」
    卒論の貸しって何だよ。広い食堂にルリの声の余韻とハンバーグ定食と俺だけが残された。


   ルリさんと初めて会った広いロビーに入ると、ルリさんがまた受付に座っていた。

  
    セミロングのブラウンの髪を今日は後ろで一つにまとめている。

  「ケンたん、社内見学にようこそ~♪むふふ」
  色白美人なのに話し方が、おっさんだ。そんな事を思える程の余裕が出来る就職、恐ろしい・・・。

   「1階は、ご覧のとおり受付とロビーね。ケンたん」
  突然はじまった社長率先の社内見学が始まり俺は動揺した。


  静かなロビーにある2つのエレベーターのうちの一つが「チンッ」と言うひかえめな音が響き、俺はぎょっとした。


   別に文明の力を利器を初めて見たわけではない。子供の頃からあった。あったが、その中から出てきた人間にあわあわ言ってしまった。

   「マリネン~♪仕事終わったから帰宅しても良い~?」
   20代後半だろうか、その女性は頭から足元まで白いロリータファッションでかけてきた。

     「あれれ?新卒さん?私はろろ、よろしく~♪」
   白いキレイなレースの手袋をした手で、俺はされるがままに手をぶんぶん振られた。


  「ろろちゃん、仕事早いね~♪タイムカード押したら帰ってよし!」
   マリネさんがニコニコしている。横のリクルートスーツを着た俺はぼんやりその光景を見ていた。



  「マリネン、大好き♪」
 そう言って颯爽とロビーから消えて行った。

  「あの子はね、あの格好で会社何社も落とされてうちにきたの」
 そりゃそうだろ。ロリータファッションなんて最近は原宿でも見ない。


   「でも、ろろちゃんはうちの会社では皆勤賞のうえに、プロミラリングにおいては日本では、日本トップ10の3位。お仕事出来るから助かっちゃう♪」
    マリネさんがニコニコしている横で、俺は失礼な大声をあげた。


  「あんなんがですかっ?」
 しまった!と思いマリネさんの顔を見ると姪のルリと同じケロッとした顔をしている。

   「日本は、実力で人をみないからね~♪ケンたん、次は2階からだよ~」
    マリネさんは何事もなかったかのようにエレベーターに向かっていく。


  俺は一体、どんな会社に内定をコネで、すっ飛ばし入社してしまったんだ・・・。

   蒸し暑い梅雨なのに、冷や汗をかきながら俺はマリネさんの後を追った。


  


 
 
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