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第6話 過去は
しおりを挟む日和見タイカ(ひよりみ タイカ)が、死者を見たのは7才の夏だった。
「おじいちゃんがいるよ?」
夏休みで、家にいたら目の前に去年死んだはずの父方の祖父がニコニコとして立っている。
父親と同じように長身だが、威圧感がない。
「どこにいるの?」
台所で昼ごはんを作っていた母親が、少し怯えた顔をしてタイカに聞いた。目の前を指すと、母親は辺りを見渡した後、タイカの頭をなでた。
「タイカは、おじいちゃんが好きだったもんね」
母親の言葉に、幼いながらも母親には祖父が見えないのだと分かる。
それから、毎日のようにタイカの前には死者が訪れては見えた。祖父をはじめ、友達の死んだ祖父母、親戚、家族。
そのたびに、タイカが口にするので、さすがに友達も家族もタイカを気味悪く思い始め、遊ぶ友達も夏休みの終わりにはいなくなってしまった。
夏休みの終わりの深夜、台所のダイニングテーブルで両親が小さな声でヒソヒソと話す声で目が覚めたタイカは、廊下で両親の話を聞いて不安に襲われる。
「タイカ、病気かしら?1度、脳外科にでも行ってみようと思うの。あなたのお義父さんが見えるって毎日、言うのよ」
母親が疲れきった声で父親に話していた。
病院?僕が、病気なの?本当なのに!
幼いタイカは、混乱した。
「そうだな、学校が始まる前に1度病院に連れていくか、タイカは親父になついてたけど、死んでからずいぶん経つし、心の方かな・・・」
父親まで、幼いタイカにとって奇妙な事を言い出すので、怖くなったタイカは廊下で、ポロポロ涙を流し始めた。
しかし、最初にタイカに困った事を持ち込んだ祖父が最後には解決してくれた。
声をおさえながら泣いている、タイカの目の前に、またニコニコした祖父があらわれた。
右手をヒラヒラさせ、こっちこっちとタイカを呼ぶ。
幼いタイカは、涙をぬぐい祖父の後をついていく。行き着いた場所は、家の中でも使われていない三畳の物置小屋のドアの中へ入って行った。
タイカは、恐る恐るドアを開けると祖父が立っており、小さな木箱を指差している。
タイカの両手より少し大きい。
開けてみると、小さな像のような置物が入っている。タイカがじっと見ていると、その像のつぶらな黒い瞳が、ちらりとタイカを見た。
「うわあ!」
思わず箱ごと、落としてしまったが祖父が拾いなさいと手をヒラヒラさせた。
恐る恐る、像の置物をつかみ、木箱に戻して、慌てながら、ふたをした。
「将来、タイカを守ってくれる獏(ばく)と言うお守りだよ、大切にしなさい。見えない者が視え、見えるものが視えない苦労もするだろうが、食いぶちには困らない」
それだけ言うと、祖父は2度とタイカの前にはあらわれなくなり、他の死者も裁ち会人(たいあいにん)の仕事をするまで見なくなった。
木箱には、亡くなった祖父の名前が小さく彫られていた。
過去はいつだってそうだ。
亡くなった人のように、昨日の事かと思えば、数十年も前に出会った懐かしさで会いに来る。
依頼がない日は、獏の置物を指先で撫でながら、日和見タイカは7歳の夏を思い出す。
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