7 / 8
第7話 引きこもり
しおりを挟む姉が憎い。
畠中泉は、暗い六畳の自分の部屋で布団をかぶり実家に顔を出してきたアキを泣きながら呪っていた。
大学時代から人間関係がうまくいかなくなり、21歳から25歳までの今まで実家に引きこもっている。
母親からは頭がいかれた娘扱いをされ、クリニックではうつ病の病名と山ほどの薬を渡され、4歳上の姉のアキは結婚して娘までいる。
昔から人間関係が上手かった姉のアキは、自分と違い世間体も社会との折り合いも良く両親にとっても自慢の娘だ。
それに比べて大学を中退して、家から出られなくなった自分は人生のドン底だった。
同級生は、ほとんどが就職するか結婚して自分の人生を歩んでいる。それに比べて私はどうだ。
大学にも行けず、就職も出来ず、結婚も出来ず、親の金と国の障害者の支援に頼って生きている。
未来すら、鏡が砕け足元に散らばった破片になり歩くのさえ足が痛み血がにじみそうだ。
姉の家族が来てから、母親に無理矢理またクリニックに連れていかされ薬が増え、担当医からはゆっくり治療していきましょうとあてにならないアドバイスをもらってから2週間、泉は部屋からほとんど出なかった。
世にいう引きこもりだ。
病名があるぶん、まだ病人として国から認定されているだけで私には何もない。
何度も何度も命を絶つ事を考え、未遂も起こした事はあるが結局は命を絶てなかった。
65歳の母親ともうすぐ還暦が迫り何とか働いている父親の収入で暮らしている。
泉が引きこもりになってから親戚一同は、畠中家を腫れ物扱いしだし疎遠になってしまった。
その間に、姉のアキは結婚し娘を産み旦那の直人さんと暮らしている。
「また泉は、騒いだのか・・・」
1階のリビングから帰宅した父親の疲れきった声が聞こえる。
「そうなの、先生もいつになったら治してくれるんだか。泉がいたんじゃ孫娘にも会えないわ」
母親の盛大なため息が聞こえた。そのため息がまるで刃のように泉の心に深く刺さった。
ー泉がいたんじゃ孫娘にも会えないわー
瞳から無意識にボロボロと涙が出てくる。
私がいるから、私が生きてるから両親が楽しみにしていた孫娘にも会えないのか。
私さえいなければ・・・。もうどこにも居場所すらない。この自分の部屋ですらどこか他人行儀だ。
来月のクリニックを最後にもうこんな人生を辞めてしまおう。そうすれば子供の頃は仲の良かった姉すら憎まなくてすむ。
泉は電気を消したままの窓から入りこんでくる淡い白い月明かりのみの薄暗い部屋の布団から、ゆっくり起き上がるとテーブルに置かれた山ほどの薬の中から睡眠薬を取り出し、ペットボトルの水で一気に10錠飲み込んだ。
またフラフラと布団にもぐり込み、目を強くつむる。嫌でも眠りがくれば、現実を忘れられるから。
布団の中に入れていたスマホが通知で光った。
スマホを手にすると、それは憎い姉のアキからのLINEだった。既読もせずスマホの電源から切った。
もう、何もかも見たくない。もう何もかも聞きたくない。
淡い月明かりの暗闇の中で、泉は深い眠りへと落ちていった。
0
あなたにおすすめの小説
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
王宮メイドは今日も夫を「観察」する
kujinoji
恋愛
「はぁぁ〜!今日も働くヴィクター様が尊すぎる……!」
王宮メイドのミネリは、今日も愛しの夫ヴィクターを「観察」していた。
ヴィクターが好きすぎるあまり、あますところなく彼を見つめていたいミネリ。内緒で王宮メイドになり、文官である夫のもとに通うことに。
だけどある日、ヴィクターとある女性の、とんでもない場面を目撃してしまって……?
※同じものを他サイトにて、別名義で公開しています。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ねえ、今どんな気持ち?
かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた
彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。
でも、あなたは真実を知らないみたいね
ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる