3 / 8
第3話 姉妹
しおりを挟む「全部、お姉さんのせいよ!」
5年は帰っていない実家に帰宅したら、旦那と2人の子供と実家でのびのび暮らしているはずの妹は、ロングの髪はボサボサで、上下セットのスエットを着て、目の下はくまがあり、顔色は青ざめ、アキに開口一番、怒鳴りつけた。
まるで、鏡台で頭を打って死んでしまった転生するまえの自分を見ているようで、アキは、愕然とした。
怒鳴り声に怯えたのか、手を繋いでいた娘の愛がアキの手をぎゅっとにぎってくる。
元カレの旦那らしき佐伯直人は会社に行ってしまい、自分の娘の愛のお昼を何とか作り、母親からのせっつく電話にせかされ、愛の手を繋ぎ、アキは実家へと行った、第一声だった。
玄関に入ると、昼夜逆転した妹、シキとばったり会い、家中に響きような声で怒鳴られたアキは、固まった。
「どうしたの?」
台所から慌てて出てきた母親は、アキが知る妹のシキ家族と住み、仕事で燃え尽きうつ病になったアキを見捨て、幸せに生きていた母親ではない。
痩せ細り、髪は一つに縛り、化粧もせず妹のシキと同じように目の下にくまを作り赤い目をしている。
「お母様・・・」
母親がアキに最後に転生する前に言った言葉は「働きもせず、恥をかかせる娘だ」だった。
その母親が、アキをすがるよう目で見ている。
「た、ただいま」
何とか絞り出した声が、震えていた。
母親の後ろから、年子の男の子と女の子を産んで夫と、両親と幸せそうに毎日生きていた妹のシキが、憎しみを振り絞るような目で、アキをにらむ。
「何で、お姉さんが家に帰ってくんのよ!愛までつれて、私への当て付けなの!」
それは、アキには辛い悲鳴に似た叫びに聞こえた。
「違うのよ!お母さんが呼んだのよ!シキの気分転換になるかなと思って」
母親が、アキが見たことのないような動揺した顔でシキをいさめた。
「何が気分転換よ!ずっと成績も出た学校も結婚だって喜ばれたのは、いつだって、お姉さんじゃない!」
玄関で、呆然として立ち尽くしているアキに向かってシキが裸足で乗り出したのを、母親が細い体でくいとめる。
違う、転生する前はいつだってアキより可愛くて要領もよく、両親にも可愛がられ、学校の成績が良いシキをアキが嫉妬し、憎んでいた。
まるで、転生する前の自分を見ているようでアキは怖くなった。
手を繋いでいた愛の手が震えている。
愛を見ると、大きな瞳からぼろぼろ大粒の涙を流している。
愛にとっては、叔母にあたる人間からこれだけ怒鳴られている事に気がつきアキはとっさに、愛を抱っこした。
子供なんて抱っこした事がなかったのに、ずっと抱っこしてきたかのように。
「ごめん、今日は帰る」
アキが一言呟くと、母親が見たこともない寂しい目でアキを見た後、うなずいた。
愛を抱っこしたまま、アキは玄関を飛び出しす。
「また逃げるの!お姉さんは、昔から私から逃げてばかりじゃない!」
最後は泣き叫ぶようなシキの声がアキの背中を貫いた。
「逃げる」
転生する前に、アキの両親と妹家族がアキに対して散々してきた仕打ちだ。
一瞬、アキはいいきみだと思った。あなた達が私が死ぬ前にしてきた事じゃない。
「お母さん、私が悪いの?」
アキの胸に顔をうずめたまま、愛が大泣きしていた。
我に返り、アキは自分が転生後、産んだらしい愛の涙をぬぐった。
「愛は、悪くない。誰も悪くない。おばさん、少し心の病気なの。愛も悲しいと泣くでしょ?おばさんも、つらいことがたくさんあって心が泣いてるだけなの。愛は悪くない」
何度か顔をのぞくと、アキに似た少しつり目と真に似た丸い顔を向けた愛がうなずいた。
気がつくと、夕日が落ちて夜空が広がっている。
アキは、やっと気がついた。
この転生した世界は、ただの世界じゃない。立場が逆転し、異空間にあると言われている、違う人生を人が歩むパラレルワールドなのだと。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

元捨て子の新米王子様、今日もお仕事頑張ります!
藤なごみ
ファンタジー
簡易説明
転生前も転生後も捨て子として育てられた少年が、大きく成長する物語です
詳細説明
生まれた直後に病院に遺棄されるという運命を背負った少年は、様々な境遇の子どもが集まった孤児院で成長していった。
そして孤児院を退寮後に働いていたのだが、本人が気が付かないうちに就寝中に病気で亡くなってしまいす。
そして再び少年が目を覚ますと、前世の記憶を持ったまま全く別の世界で新たな生を受ける事に。
しかし、ここでも再び少年は生後直ぐに遺棄される運命を辿って行く事になります。
赤ん坊となった少年は、果たして家族と再会する事が出来るのか。
色々な視点が出てきて読みにくいと思いますがご了承ください。
家族の絆、血のつながりのある絆、血のつながらない絆とかを書いて行く予定です。
※小説家になろう様でも投稿しております

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。

【コミカライズ&書籍化・取り下げ予定】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。
ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの?
……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。
彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ?
婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。
お幸せに、婚約者様。
私も私で、幸せになりますので。

このやってられない世界で
みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。
悪役令嬢・キーラになったらしいけど、
そのフラグは初っ端に折れてしまった。
主人公のヒロインをそっちのけの、
よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、
王子様に捕まってしまったキーラは
楽しく生き残ることができるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる