家族まで

長谷川 ゆう

文字の大きさ
上 下
12 / 19

第11話 探す

しおりを挟む

  20年前に妻が双子の娘達を連れて、近くの公園に行っている時に何故妻の実家に自分は電話をしてしまったのかと田中真は、独りビジネスホテルの天井を見上げていた。


  社会に出て近所のお気に入りの喫茶店を見つけウェイトレスをしている妻と「思ってていた」人に恋をし付き合い結婚し、双子の娘も産まれた自分は幸せだと思っていた。


  55年の人生で1番違和感を感じたのは、子供好きだった妻のサユコが双子の娘にまるで関心がなく、たんたんと子育てをして、アウトドアのはずがあまり家から出たがらない時だ。


  8才になる双子の娘のまゆとみゆは、一卵性双生児にしては性格が真逆だが、可愛くてしかたなく、休みの日は家事をすべてやり、娘達とも遊んだ。


 まゆが初めて話した時、みゆが初めて歩いた時、子供のささいな成長の全てに気がついたのは真だった。

  

  嬉しくて報告すると妻のサユコは「そうね」「良かったわね」とまるで他人事。


  育児疲れがひどいのだろうと、子供の健診にも一緒に行ったが相変わらず無表情で保健師さんにも相談したが、「お母様は変わりませんよ、お父さんが少し心配性ですね」となだめられた。



  喫茶店で働く妻は、外交的でよく笑い子供にもよく話しかける女性だったが、隣にいる妻はまるで別人のようだ。


  モヤモヤとした違和感が溢れ、仕事でごまかしていたがある日曜日の午後に魔が差し妻の実家に電話をしてしまった。ありがたい事に話が合うお義母さんだった。


  「真さんが結婚したのは、双子の妹のサユコよ?姉のマユコは交通事故で亡くなって落ち込んでいたから、私達夫婦は嬉しかったわ」


  まるでハンマーで頭をガツンと殴られたような衝撃で言葉がつまる。

  真さん?と言う義母の不安そうな声で我にかえった。育児で疲れてるのかと心配したもので。真が慌てて付け加えた言葉に、義母はほがらかに笑った。


 「サユコは、もともと内向的で姉のマユコより静かなのは変わりませんよ。真さん、お仕事大変でしょうけど体には気をつけなさいね」
   その後の義母との会話がよく思い出せない。ただ、自分が結婚したと思っていた人は好きだった人ではない事は確かだ。


   なぜなら、その女性はもうこの世にいないのだから。


   泡沫のような毎日を張りつめた気持ちで生きていたが、娘もそれぞれ独立し落ち着いたある日、真の心は砕けた。


 気がつけば家を出ていた。会社に辞表を出そうかとすら思ったが妻と思う女性は専業主婦で長女は非正規社員で、今のご時世いつクビになるか分からない。


  まだ仕事を辞めるには早い。いちよう一家の大黒柱となっているのだ。真は早まった気持ちを抑え、家から遠くのビジネスホテルから職場へ通勤し、自分が必要な生活費だけを分けてあとは家の銀行に振り込んでいる。


   ローンまで組んで買った家に戻る気力すら真は、安っぽいビジネスホテルの白い天井を見上げた。


  自分は一体、誰を探しているのだろうか?すでにこの世にはいない愛していたマユコだろうか?



   真がうつらうつらしていると、ビジネスホテルの小さな窓ガラスからオレンジ色の朝日が差し込んできた。


   また、憂鬱な1日が田中真の心を容赦なくかきけしていく。


   


  


  

  

     

  
   
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——? ⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。

貴方にはもう何も期待しません〜夫は唯の同居人〜

きんのたまご
恋愛
夫に何かを期待するから裏切られた気持ちになるの。 もう期待しなければ裏切られる事も無い。

生まれ変わっても一緒にはならない

小鳥遊郁
恋愛
カイルとは幼なじみで夫婦になるのだと言われて育った。 十六歳の誕生日にカイルのアパートに訪ねると、カイルは別の女性といた。 カイルにとって私は婚約者ではなく、学費や生活費を援助してもらっている家の娘に過ぎなかった。カイルに無一文でアパートから追い出された私は、家に帰ることもできず寒いアパートの廊下に座り続けた結果、高熱で死んでしまった。 輪廻転生。 私は生まれ変わった。そして十歳の誕生日に、前の人生を思い出す。

元妻からの手紙

きんのたまご
恋愛
家族との幸せな日常を過ごす私にある日別れた元妻から一通の手紙が届く。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

処理中です...