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第11話 探す
しおりを挟む20年前に妻が双子の娘達を連れて、近くの公園に行っている時に何故妻の実家に自分は電話をしてしまったのかと田中真は、独りビジネスホテルの天井を見上げていた。
社会に出て近所のお気に入りの喫茶店を見つけウェイトレスをしている妻と「思ってていた」人に恋をし付き合い結婚し、双子の娘も産まれた自分は幸せだと思っていた。
55年の人生で1番違和感を感じたのは、子供好きだった妻のサユコが双子の娘にまるで関心がなく、たんたんと子育てをして、アウトドアのはずがあまり家から出たがらない時だ。
8才になる双子の娘のまゆとみゆは、一卵性双生児にしては性格が真逆だが、可愛くてしかたなく、休みの日は家事をすべてやり、娘達とも遊んだ。
まゆが初めて話した時、みゆが初めて歩いた時、子供のささいな成長の全てに気がついたのは真だった。
嬉しくて報告すると妻のサユコは「そうね」「良かったわね」とまるで他人事。
育児疲れがひどいのだろうと、子供の健診にも一緒に行ったが相変わらず無表情で保健師さんにも相談したが、「お母様は変わりませんよ、お父さんが少し心配性ですね」となだめられた。
喫茶店で働く妻は、外交的でよく笑い子供にもよく話しかける女性だったが、隣にいる妻はまるで別人のようだ。
モヤモヤとした違和感が溢れ、仕事でごまかしていたがある日曜日の午後に魔が差し妻の実家に電話をしてしまった。ありがたい事に話が合うお義母さんだった。
「真さんが結婚したのは、双子の妹のサユコよ?姉のマユコは交通事故で亡くなって落ち込んでいたから、私達夫婦は嬉しかったわ」
まるでハンマーで頭をガツンと殴られたような衝撃で言葉がつまる。
真さん?と言う義母の不安そうな声で我にかえった。育児で疲れてるのかと心配したもので。真が慌てて付け加えた言葉に、義母はほがらかに笑った。
「サユコは、もともと内向的で姉のマユコより静かなのは変わりませんよ。真さん、お仕事大変でしょうけど体には気をつけなさいね」
その後の義母との会話がよく思い出せない。ただ、自分が結婚したと思っていた人は好きだった人ではない事は確かだ。
なぜなら、その女性はもうこの世にいないのだから。
泡沫のような毎日を張りつめた気持ちで生きていたが、娘もそれぞれ独立し落ち着いたある日、真の心は砕けた。
気がつけば家を出ていた。会社に辞表を出そうかとすら思ったが妻と思う女性は専業主婦で長女は非正規社員で、今のご時世いつクビになるか分からない。
まだ仕事を辞めるには早い。いちよう一家の大黒柱となっているのだ。真は早まった気持ちを抑え、家から遠くのビジネスホテルから職場へ通勤し、自分が必要な生活費だけを分けてあとは家の銀行に振り込んでいる。
ローンまで組んで買った家に戻る気力すら真は、安っぽいビジネスホテルの白い天井を見上げた。
自分は一体、誰を探しているのだろうか?すでにこの世にはいない愛していたマユコだろうか?
真がうつらうつらしていると、ビジネスホテルの小さな窓ガラスからオレンジ色の朝日が差し込んできた。
また、憂鬱な1日が田中真の心を容赦なくかきけしていく。
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