家族まで

長谷川 ゆう

文字の大きさ
上 下
10 / 19

第9話 秘める

しおりを挟む

  神田礼子が赤木と結婚したのは、お腹にいた子供のためだった。


  大手自動車メーカーの部品を扱う子会社の父親から、当日付き合っていた男と無理矢理別れさせられ、お見合いにとすすめられたのは、小さな傾きかけた自動車工場だった。


  昔から高圧的で、一人娘の礼子の話を聞かず、母親はそんな父親に従順、母親は礼子と同じお嬢様育ちで、父の意見は絶対だ。


   赤木は、明るく、どこかで礼子を嫌っている雰囲気はあったが、2人きりで結婚前に、喫茶店で会った。


  お腹の子供の事を言えば、破談になると思っていた。


 
   真夏の暑い中、赤木は快く喫茶店に来てくれていた。下手をすれば、赤木が礼子の父親に話すかもしれない。


  今でも別れた男とは会っている、その男性の子供がいる。震える手でアップルジュースを少し飲みながら礼子は、真実を伝えた。


   赤木は、黙って聞いている。


 正直、子供を産むつもりで男とも別れる気はないと礼子は言った。


   少しの沈黙の後、赤木は苦笑いをした。


  「会社の事もあるし、そうかなとは思っていたけれど、意外だな。実は俺にも好きな人がいて、破談にしたいが取引先のため、会社のために婚約した」
   あっさり話す赤木に、礼子は拍子抜けした。


   「礼子さんは、親の手前、俺は会社の手前、破談は難しいけど・・・」
   赤木は、考えて後にとんでもない提案をしてきた。


   玲子さんのお父さんが、赤木工場を3年取引してくれたら傾いた会社を建て直せる。


   その間に、子供は赤木の子供として産み、礼子が想っている男の元に実家に帰ると言って、行っても良い。


   ただし、3年したらお互いそれぞれの道を歩むまでは仮面夫婦でいよう、と。


   日焼けした赤木の顔の黒い大きな瞳は、曇り1つなかった。

   

    子供の親権は、礼子が持ち慰謝料はなし。話はサクサク進み、礼子の方が肩透かしをくらった。


   「どんな、女性なんですか?」
  思わず口から出ていた。赤木を困らせるつもりでもなかった。

  「寂しそうな、女性かな。礼子さんみたいに家族に恵まれてない」
   赤木の表情が、少し切なく歪んだ。


  「どんな、男なの?」 
 突然、言われたので驚いたが礼子は話した。


   「サラリーマンで、無口な人です」
  言ったとたん、俺と真逆だなと笑った。


  結婚前に交わした約束は、礼子の父親に別れさせたれた男にも伝え、その男との間には、2人目もいる。女の子と男の子だ。


  赤木は、家では自分の子供のように可愛がってくれるので義父母にはバレていない。


  お互いが、それぞれ想っている人の所へ定期的に行くのも怪しまれてはいない。



  真夏の赤木と礼子の約束は、今でも秘めたまま継続している。



   





   
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

貴方にはもう何も期待しません〜夫は唯の同居人〜

きんのたまご
恋愛
夫に何かを期待するから裏切られた気持ちになるの。 もう期待しなければ裏切られる事も無い。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

生まれ変わっても一緒にはならない

小鳥遊郁
恋愛
カイルとは幼なじみで夫婦になるのだと言われて育った。 十六歳の誕生日にカイルのアパートに訪ねると、カイルは別の女性といた。 カイルにとって私は婚約者ではなく、学費や生活費を援助してもらっている家の娘に過ぎなかった。カイルに無一文でアパートから追い出された私は、家に帰ることもできず寒いアパートの廊下に座り続けた結果、高熱で死んでしまった。 輪廻転生。 私は生まれ変わった。そして十歳の誕生日に、前の人生を思い出す。

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

処理中です...