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第6話 察する
しおりを挟む田中真が、妻が妻ではないと感じたのが、双子の娘が産まれてからだった。
中小企業に務め、真面目に働いていていた田中真だったが、結婚となると二の足を踏んでいた。
大学以来、付き合った女性はいないまま26歳まで出来なかった。もともと出不精で、インドア派だった。
そんな時に、近くに小さな静かな喫茶店が出来たと聞き、休日の読書をするには良い場所だと、日曜日の午後に通うようになった。
そこに、後の妻が働いていた。近所は住宅地なためか、家族もよく来る。ウェイトレスとしては、静かだが子供に対しては、対応が上手かった。
「いつも、いらっしゃいますね。コーヒー美味しいですか?」
少し話したくて、食べたくもない小さなレアチーズケーキを頼むと話しかけてくれる。
「まあ、仕事くらいしか行く場所がないので、お子さんの扱い上手いですね」
思わず真も自然に話していた。
「ああ、私、双子の妹がいるからかな。妹は、厨房で働いているので、なかなか出てきませんけど。兄妹にはなれているんです。」
以外な話しに驚きつつ、その後も真は喫茶店に毎週、通った。
いつしか、メールの交換をして付き合うようになった。1年後に結婚し、そのまた1年後には一卵性双生児の双子の娘が産まれる。
「真さんに、そっくりね」
妻になったサユコは、子供が産まれた後はその感想しか言わなかった。
喫茶店で、子供達を扱う笑顔も消え、最初は育児疲れかとも思っていたが、だんだん妻が、違う人間に見えてきた。
結婚式も挙げず、結婚届けと両家の挨拶くらいだった。その時に、なぜか双子の妹はいなかった。
両家共に喜んでくれていたので、真も大して気にはしていなかった。
娘達が大きくなるにつれ、サユコの中学生になる娘達への対応が、ますます冷たくなるので、さすがの真も心配になり、サユコの実家に相談の電話をした。
そこで、知ってしまったのだ。妻が妻ではないことを。
「最近のサユコが子育てに悩んでいるようで、喫茶店で働いていた時は子供の扱いも上手かったので、どうしたものかと・・」
電話に出たのは、義母だった。
少しの間、義母は黙っている。流石に気分を害したのかと思い慌てて会話の内容を変えようとした時だった。
「真さん、勘違いしているみたいだけど子供の扱いが上手かったのは、姉のマユコよ。確か、真さんがサユコと付き合いだした時に、交通事故で亡くなってしまって、私達、夫婦も落ち込んでいたのよ」
頭をハンマーで殴られたような衝撃で言葉が出なかった。
「マユコが亡くなった後、代理でウェイトレスの仕事と厨房をサユコが掛け持ちしていて、体が心配だったけれど、真さんみたいな素敵な人と結婚して、安心したの、あの子、姉のマユコと違って内向的だから・・・」
そのまま電話は、何事もなかったかのように切られた。
真が振り向くと、そこには真が知らない妻が台所で夕食の支度をしている。
それから、10年後、真はその家から失踪した。
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