29 / 48
28 今日もタクシー運転手さんlove
しおりを挟む今のご時世、タクシー運転手さんと話が出来ないが出来ない無言空間と化したタクシー。
他の場所は知らないが、最近は前の座席の背中にハイテク(死語?)なテレビがついていて、永遠に大手の会社の宣伝を見せられると言う苦行に近いタクシー生活。
たまに、大好きな俳優さんが出るとガン見して、窓の外の景色を見て、また俳優さんがスロットか神社のくじのように流れると、頭を一瞬車内に戻すスキルまで身につけたほどだ。
だが、その俳優さんを上回る楽しい事がタクシーにはあった。
タクシー運転手さんの人生体験談だ。
母親の入院やら通院でタクシーを利用していた時、私はタクシー運転手さん達のいろんな人生の語りを聞くのが好きでたまらなかった。
普段、道で知らない人に知らない道を聞かれる人間だがそれ以上にタクシー運転手さんに話をされる。
無言を決め込み、窓の外を見ていてもまるで中学生の男の子がチラチラ見るようにこちらをうかがいタイミングよく話し出す「今日は天気がいいですね~」
「ですよね~最近雨ばかりで洗濯物が乾かなくて」
しまった。気がついた時にはタクシー運転手さんの話術に飲み込まれていた。
最初は、天気やら街が変わっていくたわいもない話だが行き先が母親の病院のため、こちらの機嫌を見つつ話題を持っていく。
もう、噺家になったほうが本業がむいているのではないかと思うほどだ。
「お客さん、お見舞いですか?」
まあ、親戚の。と一言話題を出すとタクシー運転手さんの人生劇場が始まる。
タクシー運転手さんの話を聞いていると、大抵は最初からタクシー会社に入社した人を聞いた事はまずない。
「いやー、僕も先月まで鎖骨を事故で骨折して入院してたんですよ」
あははは!と豪快に笑うもので思わず
「えっ!先月まで?シートベルトしてますけど大丈夫ですか?」
と客のこちらが心配するが、どこ吹く風だ。
「手術して治したから大丈夫です!それより酷いのは病院ですよ!」
母親の入院や手術や救急車で、これでもかと嫌な目にあっている私は深くうなずく。
「何か、リハビリの奴がやたらリハビリを勧めるんで担当医に聞いたら、鎖骨の骨折でどこリハビリすんだ、いらないよ言われまして、リハビリの奴が金とりたかっただけなんですよね~」
すでに作業療法士が「リハビリの奴」でかたずけられていて私は大笑いしてしまった。
「お客さんも、病院には気をつけてね!1980円になります」
すでに病院についていた。
ある時は、母親の病院についた時に60代後半くらいの無言だった運転手さんが突然おつりを渡しながら言う。
「おお、私も癌で毎月ここに来てますよ」
思わずおつりを落とした。
「だ、大丈夫なんですか?」
おつりを拾いながら、細身の運転手さんを見るとニコニコ笑っている。
「大丈夫だよ、毎月来てるから、それよりこの病院差額ベッド代が高いから気を付けな」
マジか。すでに母親は入院中だ。お礼を言いつついろんな人生と出逢いがあるのと下手なSNSより、よっぽど情報に長けている。
母親の病院からの帰りに、まだ50代くらいの運転がど下手だが気の良い運転手さんに当たった。
「いやー、僕最近、タクシー運転手始めたんですよ」
すでに走り出したタクシーの中で酔いだした私は、そうでしょうね。と思いつつ笑顔でうなずいた。
「それまでは、5つの塾を経営してたんですけどこの景気でしょ?全部つぶれちゃって転職したの。子供が5人いるから郊外に引っ越して、行きも車、仕事も車です!あはは!」
タクシー運転手さんが、私はこの頃からどんな不遇の人生を送ろうがメンタル最強の人々だと思うようになった。
酔いながらタクシーで会計をしている時「塾経営してたから、車のナンバー見るのが好きなんですよ、ナンバー見て計算するの」
運転手さん、悪いこと言わないから塾講師に戻った方が適性があっていると思いつつ、酔いに酔った私は思い出す。
子供が5人いるんだった、食わせていけないじゃないかと。
また、母親の病院帰りに、少しポッチャリ気味の60代の運転が上手い運転手さんに出会った。
チラチラこちらを見るので
「母親の病院です。歳であちこちガタがきて大変です」
と、その日は散々、母親の病院で嫌な目にあったので愚痴ってしまった。
「そうなの?大変だね~。僕も糖尿病と心臓病で二件病院、行ってるんだよ、あはは!」
不遇の人生だろうが、病気だろうが、退院直後だろうが笑えるこの鋼のメンタル、私はすでにタクシー運転手さんのファンになっていた。
「でも、医者の話なんて、くっだらないから聞いてないの僕。結局治さないで薬だけ増やすでしょ?治る薬作れってゆーの、お客さん、ね?ノーベル賞もんだよ」
私はまた爆笑していた。
「つい、食べちゃうでしょ?だってご飯美味しいもんよ!その後のビールとつまみよ!」
もう長い付き合いの友人の会話かと思うほど砕けた口調だが、嫌な気にならないのは人柄だろう。
「お客さんも、無理しないでよ?親なんて歳とりゃ、良くなることはなくてもあっちこっち悪くなるだけだから!あ、焼き肉屋さんが出来てる!」
私すら気がつかなった近所の焼き肉屋さんだった。よく気がついたな、おい。とツッコミたくなったが我慢。
帰りにお弁当を買うため、コンビニの駐車場に止めてもらった。おつりを渡しながら運転手さんが、じっとコンビニを見ている。
「こんな所に、コンビニあったんだね!ずっといたらビール買いたくなるわ!あはは!またね!」
最後の「またね!」に私のハートは去っていくタクシーに持っていかれた。
よほどの事がない限り、2度と会うことがないタクシー運転手さん。
様々な人生を送り行き着いたタクシー運転手と言う人生。
今は、チラチラ私が無言のタクシーの中で運転手さんを見る。この人は、どんな人生を送って来たのだろうか、と。
今日も私はタクシー運転手さんloveな人生を生きている。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説

なんか、にっき
べりーべりー
エッセイ・ノンフィクション
なんか色々思ったことを書いています。全ては個人の感想です。表紙はhttps://www.pixiv.net/artworks/87576574様からお借りしました。
【画像あり】八重山諸島の犬猫の話
BIRD
エッセイ・ノンフィクション
八重山の島々の動物たちの話。
主に石垣島での出来事を書いています。
各話読み切りです。
2020年に、人生初のミルクボランティアをしました。
扉画像は、筆者が育て上げた乳飲み子です。
石垣島には、年間100頭前後の猫が棄てられ続ける緑地公園がある。
八重山保健所には、首輪がついているのに飼い主が名乗り出ない犬たちが収容される。
筆者が関わった保護猫や地域猫、保健所の犬猫のエピソードを綴ります。
※第7回ほっこり・じんわり大賞にエントリーしました。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
霜月は頭のネジが外れている
霜月@サブタイ改稿中
エッセイ・ノンフィクション
普段ゆるーくポイ活をしている私(作者:霜月)が、あるポイ活サイトで『ごろごろしながら小説書くだけで二万稼げる』という投稿をみて、アルファポリスへやってきた。アルファポリスに来て感じたこと、執筆のこと、日常のことをただ書き殴るエッセイです。この人バカだなぁ(笑)って読む人が微笑めるエッセイを目指す。霜月の成長日記でもある。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
玲央ダイアリー〜日々の感じたことを綴るエッセイ〜
綴玲央(つづりれお)
エッセイ・ノンフィクション
日々のことを綴っています。
好きなタイトルから読んでいただいてもOKです。
趣味のスポーツを始め、日々の生活、ニュースなどの出来事から、皆様に知って欲しいこと、私なりの考えを綴ります。ときには勉強になるなと思ったことなども共有します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる