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8 今日も慎重
しおりを挟む石橋を叩いて渡ると言う、慎重な人の事を例えた言葉があるが、内向的な性格にくわえて慎重な私は、そもそも人生の石橋なんて渡らない。
石橋を叩いている時間があったら、遠回りだが、ふもとまで行き歩く。
慎重こえて、安全だ。
子供の時から、無口で無表情だったので、親にまで何を考えているのか分からないと言われてきた。
または、友人からは無表情が過ぎて、何か怒ってる?とまで言われた事が何度もある。
そんな時、私はたいてい何も考えていないし、怒ってもいない。
むしろ、何をぼんやりしてるの?と聞かれる時ほど、今後について慎重に考え事をして頭がフル回転している。
軍隊式に私を育てた父親に、真面目な顔をして冗談を言ったら「お前は普段から冗談を言わないから、冗談だと分からない」と父親上官に言われた。
頭が固いのは、お互い様だろ。
少しは娘の冗談に笑うのも、父親としての役割と思うが、残念ながら私の父親にそんなオプションはついていない。
父親には高倉健さん並みの真顔で言われるので、案外傷つく。父親は鉄道並みの頭の固さだ。
しかし、三つ子の魂百までもと言うだけあり、どんなに急かされようが本当に大切な事を決めるとき、私はいつだって慎重になる。
夕食の献立やささいな生活品は、石橋を叩かず石橋の上を走って決めてしまうくらいだ。
これだけは譲れないと言うものは、父親上官がどんなに怒鳴ろうと、イギリス寮長気質の母親が何百回、ため息をつこうと、私はふもとまで下りて、ゆっくり慎重に歩く。
父親上官やイギリス寮長の母親が、せっかちで急ぎすぎて見落とす景色を私は見落とさない。
時々、否、石橋を話ながら歩く人や何も不安なくさっさと歩く人を下から眺めて、羨ましくなる時もたくさんある。
でも私は、ふもとで、向こう岸まで慎重に歩きながら、空を見たり川の澄んだ流れやせせらぎを聞いたり鳥の鳴き声を聞いて歩く。
石橋を叩いて歩かない分、人より時間はかかるが、向こう岸についた頃には、一つの悔いもなく、心は歩いた景色で満たされ、私は満足した道をまた歩く。
だから、私は今日も慎重だ。
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