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ー番外編ーヴィオレット*隣国編*

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視線をサンとレイも感じたのだろう。サンは瞬時に私達の元へ来て、レイは慌てて私を自分の後ろに隠し「来た・・・」と言った。

(例の手負いの獣ね・・・)

全身がゾクゾクする程の殺気に足が震えそうになる。「あぁぁぁ!セディル兄ちゃん!!」男の子が嬉しそうに、叫んだ方向を見てみると、そこには、銀髪短髪の美しくも険しい表情の男性がそこにはいた。

男性はガーネットのような赤色をした瞳にこれ以上無いほどの殺気と憎悪を込め私達を睨みつけ全身から溢れる空気は私達の全てを拒絶していた・・・

(何よ・・・あの人・・・
こ、怖い。体が震える・・・に、逃げ出したい)

子供達は男性の様子など気にも止めず、無邪気に抱きついたりしている。

「お嬢様・・・どうされます?
・・・・・・本日は帰られますか?」

明らかに怯えきっている私にサンは逃げるか?と聞いてくる・・・

(ここで逃げたら、私はもう2度と此処には来れない気がする・・・だって次もこの人居るんだよ。逃げたって変わらないよ・・・)

「すぅーはぁー・・・すぅーはぁー・・・
サン、レイ、行きましょう・・・」

ありえない程の殺気に私はなけなしの勇気を振り絞って微笑み、男性の元へと歩みを進めた。

男性は私達が近付く度に視線が鋭く殺気は濃くなったが、私は震える足を止めずに男性の元へと辿り着いた・・・

(手負いの獣・・・何かわかる気がするな。近づく私達を拒絶して威嚇してる。でも実際には攻撃してこない辺りそこまで危険ではないのかも・・・サンもレイも私の後ろに控えているし)

私は男性が実際に何もしてこない事や護衛が後ろに下がっている事から少しだけ冷静になる事が出来た。

「突然お邪魔してしまい申し訳ありません。私はヴィオラと申します。ウィルトリア公爵家から話は通っているかもしれないのですが、本日、孤児院の責任者の方と会う事は可能でしょうか?」

これ以上怪しまれずに済むように、精一杯の笑顔で微笑みかけた・・・

(顔引きつってないといいけど・・・)

「何しに来た・・・」

美しく整った外見からは想像できなかった低い声に少しビクッとした・・・

「本日は少しご提案と相談をさせて頂く為に参りました。もし責任者の方のご都合が悪いようでしたらまた明日にでも出直します。」

内心、凄い逃げたかったし、殺気には泣きそうになる程怖かった・・・だがそれを堪えて微笑む私に男性は何を思ったのか「チッ・・・」と舌打ちをして黙りこんだ・・・

(これは私を殺気や態度で脅して孤児院から帰らせようとしたのかな・・・)

「あ!お嬢様ッッッ!!!」

建物から声が聞こえて私が辺りを見回すと、「ここです!ここ!俺、マルロです・・・覚えてますか?」2階の窓から顔を出して手を振っている男の子がいた。

私はあの時の少年、マルロにまた会えて嬉しかったのか淑女を忘れて大きく手を振りながら「覚えているわよー!」と2階まで聞こえるように叫んだ・・・ 

すると・・・後ろでは「プッ・・・」と笑ってるレイと「はぁ・・・これは報告しなくては」とあきれているサンと、そして何故かありえないといった表情をしながら男性は目を見開いていていた。

「知り合いなのか・・・」

殺気がほんの少しだけ緩和された男性は私に話しかけているのか、それとも独り言なのか、わ からない声量で呟いていた・・・

「この間町で仕事を頼んだので、その時に知り合いました・・・」

私が町で知り合った事を言うと男性の殺気が瞬時に倍増され「何だと、貴様・・・」と先程とは比べ物にもならない程の憎悪を込めた表情と視線を私に向けてきた・・・

「お嬢様ッッッ!!!はぁはぁ・・・どうしたんですか?・・はぁッ・・な、何で、こんなところに・・・」

2階から急いで来たのだろう。息を切らしながらやって来たマルロは膝に手を当て前屈みになりながら息を整えていた。

「そんなに急がなくても良かったのに・・・」

「で、でも・・・・・・」

「今日は仕事じゃないのよ?ここの院長様に話があって来たのよ・・・」

「そっかぁ・・・」

明らかに残念そうにしているマルロを見た私は「また今度何か頼みたい事があれば頼むわ。」と微笑んだ。 
「えッッッ!よ、よろしくお願いします!!」嬉しそうに私へ頭を下げるマルロ・・・そんな私達の姿を見て、「何でそんな楽しそうなんだ。マルロ・・・お前にはこいつに変な仕事を無理矢理させられたんじゃないのか。」と男性は私を睨みつけてきた・・・

「え?何言ってるの?セディル兄ちゃん・・・俺、お嬢様に変な事は何もされていないよ?」

「は?・・・だがお前は何か仕事をさせられたのだろう?」

「うん。俺荷物持ちをした。お嬢様に旨そうに店を紹介して、最後に買ったお菓子を持ったんだ・・・それに兄ちゃんにしか言わないけどお嬢様、俺にとっても旨いお菓子をくれたんだ。」

「・・・荷物持ちして菓子を持っただけ?・・何だそれは・・・ありえないだろう・・・」

「うん。俺もそう思う・・・でも俺、串焼きの親父に働かせてくれと頼み込んで断られていた所だったから、すげぇ助かったんだぁ~」

男性は私が危険な事や不当な事をマルロにしたのでは。と勘違いをしていたようだ。
マルロの説明に唖然としていた男性だったが、串焼きの親父に働かせてくれと頼み込んだ。それを聞いた途端顔色が変わり、マルロの頭をガシッと鷲掴みにした・・・

「おい。次に無茶な仕事の探し方をしたら騎士に突き出すって町の連中に言われてただろうが・・・」

ギシギシ・・・手に力を加えているのだろうか?マルロは「痛ぇぇぇぇぇ!!や、止めてくれ・・・は、反省してるから~」と泣き叫んだ

だが男性は「騎士は孤児に容赦しないぞ。」と言い・・・続けてレイも黙っていられなかったのか、「孤児が1度でも捕まったら、もう人生おしまいだ。まともな人生は送れない。」と厳しい視線を送った・・・

「うっ・・・だ、だって10歳に俺もなったから・・・お金貯めないと・・・ルイスは来年ここを出るのに全然仕事決まってないし、金も貯められてないんだ!・・・あんなに頑張ってたルイスでさえ、だめなのに・・俺なんか・・」

マルロはルイスという少年が苦労しているのを見て自分も今から必死に金を稼がなくてはと思ってたらしい・・・

「それにまともな仕事がないと幸せになれない・・・。カイル兄もキーラ姉もヒューゴ兄も、ここを出てった奴らで仕事が見つからなかった奴は皆死んでいったし、セイラ姉は妾になるためにこの町を出ていったんだ!
どうせ俺達孤児にある将来なんて・・・」

ポタポタ・・・カイルの瞳から涙が零れ落ちた。男性は何を言ったらいいのかわからないのか、それを苦しそうに見つめ俯いた・・・だが・・・

「それで?他人の仕事を邪魔していたのか?」

レイが厳しい言葉と視線を投げかけた

「じゃ、邪魔なんてしてないッッッ!!」

「いや。お前は邪魔していた。
あの時間お前が居なかったら何本の串焼きが売れただろうな?あの日、あの後騒ぎがあったあの店に客は寄りついただろうか・・・」

「あの店主は恐らくあの日お前に絡まれた時点でその日はろくに仕事にならないとわかっていただろうな・・・もっと怒鳴ったって良かった筈だ。自分だって金を稼ぐ為に仕事をしている筈なのに、それでも仕事の邪魔をしたお前を騎士団には突き出しなかった・・・」

「な、お、俺はそんなつもりじゃ・・・で、でも、じゃあどうしろっていうんだよ!!!
何も出来ない俺達は頭下げて、人にすがり付いて仕事をとってこなくちゃ生きていけないっていうのにッッッ!!!!!」

苦しくなる程の悲痛な叫びに子供達が集まって聞いていた。子供達は先程の笑顔から一変させて暗く辛そうな表情をして俯いていた・・・

「自分の人生を嘆くな・・・俺達孤児は何も持ってない。家族も家も金も学も何もない。・・・生きていくのは他の奴らよりも大変だろう。だがそれでも一線を越えたらおしまいだ・・・死よりも苦しい屈辱や絶望が待っている。」

「俺達は孤児だ。だが他の奴らと変わらない只の人間だ・・・機会さえあれば同じ立場まで上がれる。だから・・・与えられたチャンスは絶対に逃すな。どうせすがりつくならそういう物にすがりつけ・・・」

そう言うとレイは「出過ぎた真似をしました。」とまた黙って後ろに下がった・・・

「チャンス?・・・どういう事?・・・」

困惑しているマルロ・・・周囲の子供達・・・

(レイったらわざとね・・・
こんな辛い話をされた後に救いの手が差し伸べられたら誰だって、すがりたくなる。)

(はぁ・・・何だか若干騙しているみたい・・・それでも・・・)

「私はね・・・マルロ・・・。
今日孤児達が今後仕事を自分である程度選べるようにする為の提案に来たの。・・・孤児だからってあんな風に頭を下げなくても済むようにしたいと思ってるの・・・」

「・・・どういう事?お嬢様が仕事くれるの?」

「それは違うわ・・・。」

「・・・なんだ。違うのか・・・」

一瞬輝いた目が私が仕事を紹介する訳ではないとわかるとまた暗い目に戻った・・・

「だって私が紹介出来る仕事には限りがあるもの・・・ここにいる子供達全員に仕事は与えてあげられないわ。
・・・それともマルロは自分だけ仕事がもらえるのなら他の子達は関係ないかしら?」

「ち、違うッッッ!!俺はここにいる奴らにだって仕事を見つけて幸せになってほしい!!」

私がマルロへ少し意地悪な質問をした。するとずっと黙っていた男性が「・・・ッッッ!」私の方へ向かって来よう動き出した・・・  
そんな男性をひき止めようと手を掴んだ白髪のお爺さん。

私はその様子を横目で見ながらマルロとの会話を続けた・・・

「うん。私もそう思うわ・・・
ここにいる子供達が皆、笑って生きていけるようになってほしい・・・だから生きる為に少し勉強してみない?そしてお金を自分の手で稼ぐの・・・ここを出た時に自分の力で生きていけるように・・・」

「・・・え・・・・・・」

目をパチパチさせて状況が整理出来ていないマルロの頭を一撫でして、私は白髪のお爺さんに向かって笑いかけた・・・

「その為の提案を今日はさせて頂く為に来ました。話を聞いていただけますか?」



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