妖精の取り替え子として平民に転落した元王女ですが、努力チートで幸せになります。

haru.

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~第一章~

見知らぬ娘と側にいた息子

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  第二王女のお披露目が終わり、大した見送りもなくしれっと馬車に乗せられて婚約者と罵り合いながら旅立っていったサマンサ。

  その光景をずっと見ていた者達がいた。

「…………なぁ、あれ……サマンサでいいんだよな?」

「え、ええ……そ、そうね。あれはサマンサだと思うわ。……た、多分。」

「な、何がどうなってあんな姿になってたんだ?  街の連中はあれが俺達の娘だとは気づきもしなかったぞ。」

  呆然としながら馬車の走り去っていった方角を見つめ続けていたオリヴァー家の面々。

  数日前に冒険者ギルドの仕事で他所の街に出かけていったアクアとトロイ。
  二人が出かけた後に出された王家からのお触れを見てオリヴァー家は今日 王城近くまでやって来ていた。

  本日正午過ぎに王家より大切な知らせがあると知った。

  三人は恐らくサマンサとアクアの件だと予想がついていた。だからどんな話になるのか、興味があり王城へと向かった。

  そして王城で見た光景はーー王家に受け入れられていなさそうなサマンサの紹介と、変わり果てた娘の姿だった。

  家族から見ても外見だけが取り柄だったサマンサ。
  生涯その見た目を駆使して生きていくのだろうと思っていた。

  それがどうしてあんな姿に?
  スタイル維持には気を付けていた筈の娘がどうしてあんなにもブクブクと太って贅肉を付けまくっているのだろう。

  顔も可愛さの欠片もない化け物。

  もう自分達の知っているサマンサとは思えなかった。

「あいつ……城の贅沢な暮らしに堕落したな。」

  ジェイクは全てを見透かすように的確な発言をした。

「……あれ、どう見てもダラけずきた成れの果てだよ。自業自得。……見てよ、あの姿。隣にいる婚約者にも若干拒否られてんじゃん。」

  一定の距離感を保ち続ける二人の姿や、婚約者のクリスディークが引きつった笑顔をしている事から関係は良好ではないとジェイクは判断したらしい。

「ねぇ……父さん、母さん。どうするの?  サマンサの事。」

  少しだけ聞くのが怖いのか、小さな声でボソボソと呟いた。

  自分の知っている両親なら確実にサマンサを助ける為に隣国まで追っていくと知っていたから。

  サマンサに罵られても、嫌われても、迷惑かけられても自分の娘として認めていた両親なら必ず娘の側に居る事を望む気がしていた。

  俯いて不安そうな雰囲気を漂わせるジェイクの後ろ姿。

「……悪いな。俺達が不甲斐ないばかりにそんな事言わせて。」

「昔から私がサマンサ、サマンサって。あの子に気に入られようとジェイクを蔑ろにしてきたせいね。……ごめんなさい。」

「……うちにはもう娘は…………居ない。」

「ええ…………あの子は家出をしたの。もう二度と帰ってこないわ。」

  もしかしたら隣国へ両親までも旅立ってしまうかもと怯えていたジェイクをオリヴァーとリエラはそっと抱き締めた。

  何処にもいかない。
  そう言って優しく抱き締めた。


△▽△▽


  遠くからサマンサの見送りを済ませて家に帰って来たオリヴァー達は食事をしながら和やかに過ごしていた。そんな中でジェイクはふと我に返り、ポツリと呟いた。

「でも不思議だな。……俺、父さんと母さんはもっと王城へ乗り込んで騒ぎを引き起こしたり、隣国へ手ぶらで飛び出していったり、無謀な事しちゃうんじゃないかと思ってた。」
  
「……ブフッッ……!」

  ジェイクの言葉に食べ物を喉に詰まらせてむせるオリヴァーとリエラ。

「ゴホッ……ッ…………な、なんだ……突然っ!」

「……ケホッ…………ぅっ……」

   思い当たる節があるのか、動揺を隠せずに視線を反す両親の姿に呆れたように溜め息をついたジェイク。

「はぁぁあーー。やっぱりそのつもりだったのかよ。……俺の事はどうする気だったんだよ。……男だし、冒険者で王都の外に旅立つ予定もあったし、置いていっても大丈夫だと思ったのか?」

  予想通りだと思わず両親を睨みつけるジェイク。

「……ッ…………その通りだ。お前はしっかりしてるから一人でも何とかなると勝手に決めつけていた。」

「……どんなに憎まれててもサマンサは私の娘だったから見捨てられなかったのよ……」

  懺悔するように吐き出していく言葉。

  ジェイクは怒りなのか悲しみなのかわからない感情でいっぱいだった。
  怒鳴りたくて叫びたくて堪らなかった。

  俺はまだ15歳のガキで、冒険者としても半人前にも満たない未熟者なんだ!  一人で生きていける訳がないだろう!  ……何でいつも俺ばかり我慢しなきゃいけない!  サマンサみたいなクズをどうして優先するんだよ!  俺がいつも父さんと母さんの側に居たのに!  何でだよ!

  15年間サマンサの理不尽に耐え、両親のサマンサ優先な態度に耐えてきたジェイクの限界がきた。

  ずっと我慢して物分かりの良い振りをしてきた。
  両親にサマンサの事を何度も伝えたのも、現実を見て欲しかったからだ。

  あの女が守る価値のないクズだと理解して欲しかった。
  サマンサじゃなくて俺を見て欲しかった。


  両親がサマンサを追っていかないように、ずっと引き留めてきた。

  王女になったサマンサを追えば必ず何かしらの問題が起きる。……刑罰に処される事だってある。

  王女の側を彷徨くって事はそういうリスクを負うって事だ。両親にそんな事をしてほしくない。
  
  それにもうサマンサには関わって欲しくなかった。

  サマンサは役に立ちそうなら誰でも使う。
  それが自分が捨てた両親であっても、使える駒なら何だってさせる筈だ。

  仮にサマンサがアクアの事が邪魔になったとして近くに居る両親に殺害を頼み込んだら?
  自分の幸せの為にアクアが邪魔だと言ったら?

  信じたくないけど、母さんならやってしまうんじゃないかな。娘に依存していた母さんなら……

  その為に護衛の足留めを父さんがするかもしれない。
  愚かな娘だとしても幸せを願うのが親の務め!  とかいって傍迷惑な感情を持ってしまうかも……

  ずっと心配してた。
  何か起きてしまうんじゃないかってーー。

  それなのに俺を置いてサマンサを追いかけるつもりだった?

  俺はしっかりしてるんじゃなくて、そうなるしかなかったんだ!

  ずっとずっとずっと……俺を見てくれない家族の尻拭いをしてきたんだ!それなのに……。
  
  馬鹿だな、俺……。
  何でもっと早く見捨てなかったんだろう。
  捨てられるくらいなら捨てちゃえば良かった。

  アクアが羨ましい。あんなにも家族に愛されていて。
  家族としての縁は切れたのに、それでもあんな風に想われているなんて……いいなぁ。

  ジェイクは膨れ上がった感情が破裂して空気中に消えていくのを感じた。

  もう何もかもがどうでも良い。怒りも悲しみもない。
  こんな人達好きにすればいい。と思うようになっていた。

  瞳から感情の色が失い欠けていた……だが……

「……トロイに叱られた。というか怒鳴られて殺されるかと思った。」

  突拍子もない父親の言葉に失い欠けていた感情や意識が引き戻された。

  
  
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