妖精の取り替え子として平民に転落した元王女ですが、努力チートで幸せになります。

haru.

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~第一章~

言葉よりも行動あるのみ。

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  王女様って何なんだ。
  混乱している彼等を見て、一先ずは私がこの家で戦力になると見せつけた。

  サマンサが消えてからまともに家事を行っていなかったのだろう。
  ほこりの溜まった部屋に、薄汚れた衣服。
  洗い流されていない食器。

  ワンピースの袖を捲り上げて「見ていて下さい。これが私の17年間の努力の結晶です!」と言い、魔法を使った。

  窓を開け空気の入れ替えをしながら部屋のほこりを吹き飛ばした。手に収まる程度の球体の水の塊で部屋中の汚れを落としていった。

  透き通っていた透明な水が、部屋の中を進む度に黒く染まっていった。

「えっ……!?」

「は!?」

  部屋の中は今までにないほど綺麗な姿に変わった。
  床にこびりついていたぬめりのような汚れは落ち、力強く磨かれた後のように光輝いていた。

  次に私は呆然とする二人に案内されて庭に出た。
  薄汚れた衣服と部屋にあった石鹸を拝借して。

  大きな水球を空中に浮かべてその中に石鹸の欠片を放り込んだ。水球を浮かせながら風で回転をかけ、水を泡立たせた。そこに薄汚れた衣服を入れながら汚れを落としていく。

  綺麗な水に変えて何度も洗った。

  そこには以前とは比べ物にならない衣服の姿があった。
  長年着込んでいた衣服は黄ばみが酷く、どんなに擦っても汚れが落ちる事はなかった。
  それがいとも簡単に白くなっていった。

  洗い終えた衣服は、庭にあった物干しに広げていった。
  これはしっかりとシワ伸ばしをしないと乾いた時にみっともなくなってしまう。その為、魔法ではなく自分の手で干していった。

「ふぅ~。天気もいいし、今日中に乾きそうね。」

  温かかな日差しの下、両手を突き上げておもいっきり伸びをして、深呼吸をしてみた。
  吸い込んだ空気が何だかいつもとは違って感じた。

  王城にいた時は常に自分の失態を恐れて気を張っていた。
  誰に何を指摘されるのかわからなくて、完璧な第二王女で居続けた。

  ……だからなのかな。
  周囲の家から香る食卓の匂いや屋台の匂いが混ざってごちゃごちゃしているのに、ここの空気を吸っていると何だかホッとするような気分になれた。

  人の声も以前は恐ろしくてしかたなかったのに、ここでなら安心して耳を傾けられる。

  瞳を閉じて騒音に耳をすませた。

  風の音、草木が揺れる音、鳥のさえずり……
  赤子の泣き声、子供達の笑い声、誰かの怒鳴り声……

  ここでなら私を貶したり蔑んだりする人はいない。
  王族として完璧にならなくてもいい。
  もう頑張る必要はなくなったんだ。

  全身の力の抜けていき、心に絡まっていた鎖が解けていくのを感じた。
  我慢していた事が解放され自由になっていくのを感じた。

「……わたし、王族じゃなくなった。……もうあんな日常送らなくていいんだ。死にかけるほどの特訓も頑張っても頑張っても認められない事も……もう頑張らなくていいんだね。…………ああーー!!!」

  大きく息を吸い込んで声を出してみると、思いの外 気分が良かった。
  調子に乗った私は近所中に響き渡るほど大きな声で今までの鬱憤を出してみた。

「ふっざけんじゃねぇーーー!!!」

「色がなんだってんだぁーーー!!!」

「私はお前らより国に尽くしてきたんだよ!」

「見た目だけで人を判断するんじゃねぇーーー!!!」

「私だってあんたみたいなガキ嫌だっつーのーー!」

「所詮、浮気野郎の言い訳じゃんかーーー!!!」

「婚約破棄できて清々したっつーのーー!」

「最後くらい会いに来てよーーー!!!」

「お別れくらい言ったってバチはあたんないんだからねーーー!」

「完璧、最強集団め!  私だって……私だって……」

  ここが住宅街だというのを忘れて思いの丈を叫んでいると「おいっ!  何してるんだ!」家の中に戻っていたオリヴァーとジェイクが慌てて外にやって来た。

  ……あ、やば。ここ人の家だった。

  恐る恐る周囲をぐるっと見回してみると、そのには興味本位で集まった近所の方々が野次馬と化していた。

  無理矢理家の中に連れて行かれ「一体何を考えてるんだ!」と怒鳴られた。

  それもそうだろう。
  今日やって来た客人の癖に人の家で勝手に醜態をさらした上、ご近所さん達に見られてしまったのだから……

  女の人の噂話はすごいからなー。
  明日には街中に広がってそう……
  この家の娘が居なくなったと思ったらキチガイ娘が現れたって……

  それを考えたらお怒りもごもっとも。
  ただでさえ傷ついてるのに、もっと心労をかけるような事をしてしまった。

「あんな事をしてすみません。……何だか自由だと思ったら色々と箍が外れてしまって気がついたらあんな事に……」

「気がついたらあんな事に……ってどんだけストレス溜め込んでたんだ!」

「あれ性格も変わってたぞ!」

「えっと17年間必死に平民が王女になろうと悪足掻きしてまして多大なストレスを溜め込んでいたみたいです。……申し訳ありませんでした。」

  ありえないと捲し立てながら話す二人に苦笑いしながら言い訳をした。

  だって本当に大変な17年間だったんだもの。
  それが終わったんだと思ったら何だか塞き止められていた感情が溢れ出たの……

  私のその言葉に思うところがあるのか黙り込む二人、その間に溜まっていた洗い物を片付けていく。

  さっきと同じように水魔法を器用に使いながら、ササッと綺麗にしていった。

  そろそろ食事の下拵したごしらえもするべきよね。

  窓を眺めて外を確認した。
  まだ日は高く、暮れるまでには時間がありそうだった。だが私にとってはもうこんな時間なのか……と思ってしまった。

  何故なら私は家事の中で唯一、料理が少し……ほんの少しだけ苦手だったからだ。
  包丁の扱い方も学んだし、手際も悪くないと思う。それに関しては料理を教えてくれた人からのお墨付きだ。
  なら何が問題かというと、私は味付けがとても苦手だった。経験で、目分量で、感覚で、皆そうやって曖昧に言うが『大体』ってどれくらい!?

  計量スプーンが恋しい。量りや計量カップは何でないのだろう。
  レシピを見ながら作りたい。

  私なりに頑張ってはいるのだが、毎回その大体を間違えて『ん?  ちょっと違うかな?』という味になってしまう。決して不味い訳ではないが、大成功という物も出来上がらない。

  大丈夫!  味なんて手直しすれば何とでもなるよ!と思った貴女!  それは料理上級者の考えなのです。
  一度手直しを始めたら『あれ?  これ入れた方がいいかな?』『いや、こっちだったかな?』『んん?  これだったかもしれないな。』とあれこれ足して気がついた時には最初のが一番ましだった。という結果になるのがオチだ。

  それにいちいち手間がかかりすぎると思うのは私が料理に向いていないせい?

  スープを作るにも三時間。
  え……コンソメ粉や鶏ガラの粉さえあれば30分で終わるのに!
  パンを焼くにしても前の晩から仕込んでおくなんて時間がかかりすぎる。
  ホームベーカリーさえあれば材料入れてスイッチ一つなのに!

  ああーー。ダメだ、ダメだ。
  ここは前世じゃないんだから、郷に入れば郷に従え。
  昔の楽な生活は忘れなきゃ……

  小説だとこういう時、前世の知識をフル活用して世界を変えちゃうんだろうね。
  だが普通の人間はそんな色んな知識を溜め込んではいない!

  ○○○の原理を応用してーーとか。
  ○○○の代わりにーーを作ってみよう!とか。
  ○○○の代用品なら作り方を知ってるわ!なんて都合の良い事は現実では起こらない。

  異世界に革命を!  なんて考えるのは前世でも上を目指せるだけの人間だ。
  私にはちょっと荷が重い。だから王女から引きずり下ろされたのだろう。

  きっとこれも神様の采配だったのだ。
  うん。凡人は凡人として生きろというお達しだな。

  そんな事を思いながら黙々と食材をきざんでいき、下拵えをしていた。
  

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