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プロローグ

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   建国から700年、マルヴィーア王国の王家で生まれる者は皆金髪青目と決まっていた。
  太陽に輝く黄金の髪と晴天の空を表した瞳。
  見た目麗しいその色と姿は変わらず受け継がれていた。
  私が生まれるまではーー。

  私はマルヴィーア王国の第二王女として生まれたアクリアーナ・マルヴィーア。
  母親である王妃から生まれたにもかかわらず、平凡な栗色の髪に碧色の瞳をしていた赤子だった。

  誰が見ても心奪われる家族の姿とは違って、私は美しくはあったが何処か素朴な印象を持たせる姿だった。

  侍女や護衛から言わせると私の容姿は8割美人で何か足りない物があるらしい。
  私のそれは王族としてはありえない欠落だそうだ。

  周囲が陰ながら私を蔑んでいたのを知っていた。

  一時は私が王家の姿を継がなかったせいでお母様の不貞を疑う噂が流れた。

  ーー王妃は国王陛下の子供ではない子を生んだのでは?

  不敬過ぎる噂は私が生まれてから何年も続いた。
  実際は、王妃としての仕事や幼い兄や姉が側にいたお母様に不貞を働く暇はなかった。しかもお母様は妻を溺愛するお父様と寝室を共にしており、お母様の身の潔白は明白だった。

  愛する妻を辱しめる噂に激怒したお父様は裏で手を回して噂を消し去り、不敬な噂をする者処罰していった。
  そして国王陛下は人目のある時はどんな時でも王妃を側に置く事で周囲からの認識が変わっていった。

  王妃様は国王様に深く愛されている。
  ……浮気などありえない。そう周囲は認識した。

  まぁ、だからと言って王家の姿を継がなかった王女の存在が認められた訳じゃなかったけどーー。

  容姿だけでなく能力や才能すらも劣る第二王女。

  勉学や礼儀作法でも兄や姉が一日で覚えられる事が私は数ヶ月かかった。

  しかも魔力量が多い事がステータスとされる王族貴族にもかかわらず、私の魔力量は平民並しか持ち合わせていなかった。

  知力もない、魔力もない、運動神経もない、容姿も劣る……私は何もかもが王族としては足りなかった。

  幸いにも私の家族は温かく優しい人達だった。

  お父様やお母様は私の努力を認め、焦らなくていいと仰ってくれた。いつか私の得意とする物が見つかると。

  お兄様やお姉様も不出来な妹を蔑む事もなく優しくしてくれた。

  家族は私を貶す噂や貴族から守ろうとしてくれた。

「本当に何をやらせても駄目ですな。」

「ここまで御兄姉で差があるのはおかしい。」

「王家の色を持たぬ者など養子に出してしまえばよろしいのでは?」

「全くあの方が王家の者だなんて信じられませんな。」

  だがそれでも噂はなくならず、私のせいで消えていた『第二王女は王家の血を引いていないのでは。』という噂がまた流れ出した。

  自分のせいで家族に迷惑がかかる。
  王女に生まれたのに何も出来ないまま諦めていいのか?

  王族として贅沢だけして何の価値も示せないのは罪だ。
  民の税金で生きているのなら国の為に尽くさなくては。
  
  王族として足りないと諦めるのではなく、王族として恥ずかしくないように努力しなくてはーー。

  人よりも劣るのなら、その何万倍も努力しよう。
  この国の第二王女として恥ずかしくない存在になろう。
  そう5歳の時に決めた。

  …………普通の5歳なら自分だけ家族とは違ったり、人から後ろ指さされたりすればひねくれたりするんだろう。

  でも有難い事に私には前世の記憶があった。
  自分の前世がどんな人物であったか、ふんわりとした事しか覚えていなかったが精神的には成熟しきっていた。

  王城にあるありとあらゆる書物を読み、足りない頭に叩き込んだ。何度も何度も読み返して自分の知識とした。

  お母様やお姉様の仕草を毎日観察して必死に真似た。
  初めは本当に不格好で無様な姿だった。
  背筋を真っ直ぐ保つのさえ難しく。指先の動き、足の運び一つがぎこちなくて見苦しいと先生に厳しく指摘された。

  書庫にあった古い書物から禁忌とも呼べる魔力量の増やし方を知った。
  魔力とは収まる器の大きさに比例して魔力量が決まる。器は中身がなくなるにつれて少しずつ広がりをみせる性質があるらしい。

  これまで私はひたすら魔法を発動させて、毎日魔力をギリギリまで使い切って器を広げる修行を続けた。
  魔力の枯渇は生命の危機に繋がるという事を知りながら。

  毎夜、生死の境を彷徨っているのを感じていたが止めるわけにはいかなかった。
  第二王女として恥じない自分になる為に。

  それからも色んな事にチャレンジして、第二王女の価値を高めていった。

  社交界にデビューする頃には私の悪い噂はあまり聞かなくなっていた。
  王太子であるお兄様に並ぶほどの知識量や賢さ、第一王女であるお姉様に並ぶほどの魔力量や魔法。

  王族として認められていなかった第二王女が素晴らしい変化を遂げたのは一目瞭然だった。

  涙ぐましい努力をして国に尽くそうとする第二王女の姿に王族として認める者も少しずつだが現れた。

  未だ王家の色を持たぬ者は王族ではないと蔑む者はいたが、私は王族として恥じぬように前だけを見てこれからも精進していこうと思っていた。


  今この瞬間まではーー。

  
「今ここに、17年間偽られ続けた真実を証すッ!  ここにいるアクリアーナは本物の王女ではないッ!  妖精の取り替え子によって偽られた偽物だッ!」

  王家が主催する夜会。
  今宵の夜会で現れる筈だった私のエスコート役の婚約者が見知らぬ少女を連れて私を断罪してきた。

  私がずっと手にしたくて憧れてきた金髪青目を持った美しい少女だった。

  
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