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騎士
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木の上で銀髪騎士に捕まってしまった私は首根っこを掴まれ狩られた獲物のようにぶら下がっていた。私のとんでもない格好が物珍しいのか、上から下までジロジロと厳しい視線を向けられ気まずい気持ちを味わっていた。
するとそこへ……
「隊長ー! 何処っすかー!?」
塔の方向から声が聞こえた。
銀髪騎士が意識をそちらに向けたのがわかった。
少しだけ拘束の力が緩むのを感じた瞬間、私は逆上がりの要領で勢いよく身体を回転させ、銀髪騎士の拘束から抜け出して駆け出そうと……出来ませんでした。
拘束から脱して喜んだのも束の間、いつの間にか背後に回られて今度は全身を持ち上げられた私は男の硬い腕の上にちょこんと座らされていた。
……なんでそうなるの?
「逃げるな」
「……ふぁい」
至近距離からの鋭い視線、ドスの利いた声で咎められた私は既に戦闘意欲を喪失させられて、涙目で降参した。
殺されるとかじゃないけど、この男ものすごく怖い。
こうして呆気なく逃亡失敗してしまった私は銀髪騎士に運ばれて塔に戻る事となった。
はぁ~私ってば、だいぶ思い上がってた。
幽閉されてた塔から抜け出して森で生きてきたからって何でも出来る。誰よりも強くなった。私ならなんとか出来る。……そう何処かで思ってた。調子乗ってた。
私なんて田舎知識と根性だけが取り柄のちっぽけな六歳児だというのに、油断なんてしちゃいけなかったのに、私ってば馬鹿だ。
二度目のチャンスはないって自分でもわかってたのに。
ああもう! どうする!?
ただ腕に乗せられてるだけに見えるが、少しでも身動きするとガッチリ拘束される上、鋭い視線が飛んでくるのだ。逃げるなんて無理だ。
もう二度と戻ってくる予定がなかった塔が目の前にある。
出迎えた騎士達は銀髪騎士に白い毛皮を被ってる私の姿に驚いていた。
「はぁ? 動物の毛皮!?」
「な、なんすかその子は! すっげぇ格好っ!」
「背中の荷物も気になるけど、何で腹に植木鉢!?」
「貴方達やかましいですよ! ちょっと静かにしなさい。……で、隊長。その子が例の子ですか?」
銀髪騎士の腕の上で身を小さくして隠れている私に興味津々の三人の若いイケメン騎士達を茶髪の眼鏡騎士が制止し、隊長と呼ばれた銀髪騎士に状況を確認する。
瞳の色は確認したのか。
私がどうやって塔の外に出たのか。
逃亡を手助けした人物がいたのか。
いったいどんな生活をしていたのか。
茶髪の眼鏡騎士は矢継ぎ早に問いかけてくる。
それに対して銀髪騎士は堂々たる様子で「知らん。逃げたから捕まえただけだ。こいつすばしっこくて良い動きをするぞ」となんだか的外れの返しをして周囲を唖然とさせていた。
先程までの荒々しい雰囲気を引っ込めて、どことなく自慢気な態度の銀髪騎士。
「身体や筋肉はまだ未発達だが持久力と反射神経、柔軟性は中々だぞ。それに目や耳も良い。こりゃ将来有望だぞ」
「そうじゃない! そんなこと……いや、凄い子なのはよくわかりましたが、それよりも今はこの子が何処の誰かを知るべきでしょう!」
「そうっすよ!」
「早く城に戻んねぇと、またあのボンクラ王太子が何やらかすか……あぁめんどくせぇ!」
戦闘中と打って変わって、平常時はのんびりとした性格らしい銀髪騎士に周囲はあーだこーだと捲し立てて、茶髪の眼鏡騎士の判断で強制的に私を取り調べる事になった。……いや何で!?
「ではまずそのフードを取りましょう」
「……やだ。さわんないで!」
私に伸びてくる手をペチリと叩き落とす。
どうせすぐにバレることだとは思うけど、自分の弱みをそう簡単に晒す馬鹿はいないのだ。……ただ単にビビったともいえるが、でもやっぱり私をこの塔に閉じ込めてた連中が味方だとはどうしても思えない。取り調べとか言ってるし。
威嚇の意味を込めて、フードの隙間から周囲を睨みつけてファイティングポーズをとる。
「……いたっ!」
「手間を取らせんな。ほらさっさとフード取れ」
「あっ、勝手に──」
未だ銀髪騎士の腕の上に乗っかっていたのを忘れていた私は、背後からおでこをペチンッと叩かれて勢いよくフードを脱がされた。
強制的に開けた視界の先には驚いた様子の騎士達がいた。
「む、紫……」
「はわぁ~綺麗な色っすね」
「えっ、ギャップすごっ……可愛い…」
「やはりウルテミア王家の血を引いてるのは確かのようですね。それか……まぁなんにせよ、この子が例の子であることは確かなようです」
私に対するいろんな意見が飛び交うから身の置き場に困っていると、銀髪騎士が私の首をグギッと横に向かせた。
「ぐうぇっ!」
き、気道が一瞬詰まったんだけど! 殺す気か!?
怒ってやりたい気持ちで視線を向けると、無遠慮で私の身体を調べ始めたので怒るタイミングを見失ってしまった。
私の髪を纏めていた簪をするりと抜き、感触を確かめるように撫で回し、ついでといわんばかりに髪を一房とって色を眺めていた。下目蓋をグイッと引っ張って瞳の色を確認したり、鼻や唇、耳の形を見つめたり、少し荒れ気味で傷だらけの小さな手を見て、労るように優しく撫でてきた。
取り調べにしては、その瞳は優しすぎて困惑した。
するとそこへ……
「隊長ー! 何処っすかー!?」
塔の方向から声が聞こえた。
銀髪騎士が意識をそちらに向けたのがわかった。
少しだけ拘束の力が緩むのを感じた瞬間、私は逆上がりの要領で勢いよく身体を回転させ、銀髪騎士の拘束から抜け出して駆け出そうと……出来ませんでした。
拘束から脱して喜んだのも束の間、いつの間にか背後に回られて今度は全身を持ち上げられた私は男の硬い腕の上にちょこんと座らされていた。
……なんでそうなるの?
「逃げるな」
「……ふぁい」
至近距離からの鋭い視線、ドスの利いた声で咎められた私は既に戦闘意欲を喪失させられて、涙目で降参した。
殺されるとかじゃないけど、この男ものすごく怖い。
こうして呆気なく逃亡失敗してしまった私は銀髪騎士に運ばれて塔に戻る事となった。
はぁ~私ってば、だいぶ思い上がってた。
幽閉されてた塔から抜け出して森で生きてきたからって何でも出来る。誰よりも強くなった。私ならなんとか出来る。……そう何処かで思ってた。調子乗ってた。
私なんて田舎知識と根性だけが取り柄のちっぽけな六歳児だというのに、油断なんてしちゃいけなかったのに、私ってば馬鹿だ。
二度目のチャンスはないって自分でもわかってたのに。
ああもう! どうする!?
ただ腕に乗せられてるだけに見えるが、少しでも身動きするとガッチリ拘束される上、鋭い視線が飛んでくるのだ。逃げるなんて無理だ。
もう二度と戻ってくる予定がなかった塔が目の前にある。
出迎えた騎士達は銀髪騎士に白い毛皮を被ってる私の姿に驚いていた。
「はぁ? 動物の毛皮!?」
「な、なんすかその子は! すっげぇ格好っ!」
「背中の荷物も気になるけど、何で腹に植木鉢!?」
「貴方達やかましいですよ! ちょっと静かにしなさい。……で、隊長。その子が例の子ですか?」
銀髪騎士の腕の上で身を小さくして隠れている私に興味津々の三人の若いイケメン騎士達を茶髪の眼鏡騎士が制止し、隊長と呼ばれた銀髪騎士に状況を確認する。
瞳の色は確認したのか。
私がどうやって塔の外に出たのか。
逃亡を手助けした人物がいたのか。
いったいどんな生活をしていたのか。
茶髪の眼鏡騎士は矢継ぎ早に問いかけてくる。
それに対して銀髪騎士は堂々たる様子で「知らん。逃げたから捕まえただけだ。こいつすばしっこくて良い動きをするぞ」となんだか的外れの返しをして周囲を唖然とさせていた。
先程までの荒々しい雰囲気を引っ込めて、どことなく自慢気な態度の銀髪騎士。
「身体や筋肉はまだ未発達だが持久力と反射神経、柔軟性は中々だぞ。それに目や耳も良い。こりゃ将来有望だぞ」
「そうじゃない! そんなこと……いや、凄い子なのはよくわかりましたが、それよりも今はこの子が何処の誰かを知るべきでしょう!」
「そうっすよ!」
「早く城に戻んねぇと、またあのボンクラ王太子が何やらかすか……あぁめんどくせぇ!」
戦闘中と打って変わって、平常時はのんびりとした性格らしい銀髪騎士に周囲はあーだこーだと捲し立てて、茶髪の眼鏡騎士の判断で強制的に私を取り調べる事になった。……いや何で!?
「ではまずそのフードを取りましょう」
「……やだ。さわんないで!」
私に伸びてくる手をペチリと叩き落とす。
どうせすぐにバレることだとは思うけど、自分の弱みをそう簡単に晒す馬鹿はいないのだ。……ただ単にビビったともいえるが、でもやっぱり私をこの塔に閉じ込めてた連中が味方だとはどうしても思えない。取り調べとか言ってるし。
威嚇の意味を込めて、フードの隙間から周囲を睨みつけてファイティングポーズをとる。
「……いたっ!」
「手間を取らせんな。ほらさっさとフード取れ」
「あっ、勝手に──」
未だ銀髪騎士の腕の上に乗っかっていたのを忘れていた私は、背後からおでこをペチンッと叩かれて勢いよくフードを脱がされた。
強制的に開けた視界の先には驚いた様子の騎士達がいた。
「む、紫……」
「はわぁ~綺麗な色っすね」
「えっ、ギャップすごっ……可愛い…」
「やはりウルテミア王家の血を引いてるのは確かのようですね。それか……まぁなんにせよ、この子が例の子であることは確かなようです」
私に対するいろんな意見が飛び交うから身の置き場に困っていると、銀髪騎士が私の首をグギッと横に向かせた。
「ぐうぇっ!」
き、気道が一瞬詰まったんだけど! 殺す気か!?
怒ってやりたい気持ちで視線を向けると、無遠慮で私の身体を調べ始めたので怒るタイミングを見失ってしまった。
私の髪を纏めていた簪をするりと抜き、感触を確かめるように撫で回し、ついでといわんばかりに髪を一房とって色を眺めていた。下目蓋をグイッと引っ張って瞳の色を確認したり、鼻や唇、耳の形を見つめたり、少し荒れ気味で傷だらけの小さな手を見て、労るように優しく撫でてきた。
取り調べにしては、その瞳は優しすぎて困惑した。
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