(元)独りぼっち幽閉娘の流刑島暮らし〜不本意ですが、毒母のスペアに覚醒します〜

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予期せぬ迎え

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 塔に戻ってきた私はせーちゃんを腹から外して、荷物を片付けることにした。

 塔から少しだけ離れた草むらに目印の石がポツンとある。
 これは例の私が壊した石壁の一つだ。

 石を退かして土草を手で払うと、地面から紐で作られた取手のような物が見える。取手の紐を手前に引くと、ガコンッと音を立てて一枚の板が外れて地下空間が現れた。

 慣れた様子で地下の壁にかけられていた梯子を降りると、そこにはちょっとした貯蔵庫が広がっていた。

 私が冬用に作り溜めていたおいた保存食が収納され、天井からは日陰干し途中の薬草やハーブ達が吊り下げられている。

 保存食の中には干し肉や干物、ドライフルーツ、瓶詰めされた果物の蜂蜜漬け、……そして小麦粉とドライフルーツ等を使って焼き上げたなんちゃってフルーツバーがあった。

 他にも薬関係の物や生活用品や日用雑貨などがある。

 それらを前に私は少し考え込んでいた。
 
 どうしようかな。
 やっぱりマズいよね。

 世界樹をレティシアが破壊した時点で、彼女は緑の乙女といえど犯罪者となった。即ち、私は不義の子から犯罪者の子になったということ。

 塔に幽閉されてたのってレティシアの脅しがあったからでしょ? ただ存在を忘れて放置されてただけかもしれないけど……でもレティシアが死んだ今なら私のことを思い出してるかも。

 あの時と同じように孤児院に捨てたり、国外に放り出す程度なら問題ないけど……世界滅亡規模の犯罪者の娘がそれだけで済むかな? う~ん、わからない。ほぼ赤の他人だし。関わりなんてないけど、でも血縁者だから連座するとか言われるのはありそうな気がする。

 ライナスって案外卑怯者っぽい感じだから責任押しつけられるとかもありそう。

 ……やっぱ逃げるべきだよね。

 何もしてないのに責められるのとかムカつく。
 処刑とかもいやだ。

 それに私が死んだらせーちゃん育てる人が居なくなる。
 っていうか神様いわく、世界を救う前に私が死ぬと世界が滅びるらしいし。やっぱ死ねないよね。

 かといって今更 "緑の乙女" として祭り上げられるのは嫌だ。世界は滅んでほしくないし、人にも死んでほしくない。だからスペアになるのは了承したけど、それとこれは別物だ。この国で良いようにされるなんてまっぴらごめんだね。

 ってことになると道は一つしかない!

「よし逃げよう!」
 
 幽閉中の塔から逃げ出し、この国からも出ていってしまおうと決意した私は大急ぎで逃亡準備を始めた。

 もしも用に準備していた大型の背負い籠に食料や水、薬、衣服などを詰め込んでいく。腰のベルトにも普段以上に武器を仕込み、腹にせーちゃんをくくりつける。

「うっ! お、重っ……!」

 欲張りすぎたのか、背中の荷物が私の重心をぐらつかせる。
 ヨタヨタとした足取りで梯子を上り、地上に異変がないか確認する。

 どうせ何も代わり映えしない平穏な森の景色があると高をくくっていたら、私の決断は遅すぎたのか城の方角から此方に向かってくる集団の姿が見えた。

 森の中を馬に乗って駆けてくる一団。
 服装はどうやら騎士服のようだ。
 剣が腰にある。

 おそらく……いや絶対に私を捕らえに来たのだろう。
 こんな森に来る理由はそれ以外ない。

「どうする? 私に追い払うのは無理だ。それに戦えない」

 対人戦闘なんてした経験がなかった私は、彼等から逃げる以外に選択肢がなかった。

 一人、二人ならなんとかなったかもしれないけど、あんな大勢は無理。少なくても八人以上いそうだもの。

 命懸けの戦闘って意味では動物相手と変わらないかもしれないけど、でも前世の常識的に人を傷つけるのはまだ抵抗があるかも。……その時になったら殺れちゃうかもしんないけど、今はまだ無理っぽい。

 荷物を捨てて身軽になって逃げ出せば誰にも追いつかれず、此処から逃げ出せるかも。でもその場合、私の生命線でもある食料達を捨てなくちゃいけない。

 この先どんな暮らしが待っているかわからない以上、この荷物は手放したくない。だけど……このままじゃ……

 結論が出ないまま騎士達が近づいてくる。
 とりあえず此処から離れよう。

 地下なんて見つかったら絶対逃げ場がない所に隠れているのは危険だと判断して、塔から離れた森の中から状況を観察することにした。

 すぐに逃げ出せるよう木の上に登り、騎士達が塔の中に入っていく姿を見ていた。

「うわっ。あの人達、捕まってるじゃん」

 騎士達が塔に入ってから暫くすると、縄でぐるぐる巻きにされた女達が塔から引きずり出されて現れた。酒に酔ってそうな赤い顔色で泣いていた女達は遠くの私にも聞こえる声量で叫んだ。

「私達は悪くないー! あのクソガキは犯罪者の子なんだ。こんな塔に幽閉されてるなんて絶対悪人だ。これまで誰も気にかけてなかったくせに何で今更……っくそ!」

「犯罪者はあのガキなんだよ。とっとと捕まえやがれー!」

「何処に逃げやがった! 出てこい!」

 若干呂律が回っていなさそうな口調で叫ぶ女達は馬に乗った騎士達に引きずられるよう連れていかれて森から去っていった。

 当初より少なくなった騎士。
 残り一、二、三、四、五人か。
 まだ数多いなぁ。

 銀髪、金髪、黒髪、青髪、茶髪の騎士達。
 背丈は違うが、全員筋肉の付きがいいマッチョだ。
 森の立地的には馬よりも木の上を走り回れる私の方が小回りが利いて逃げるのは有利だ。うん、バレる前にさっさと動き出そう。

 対人戦闘をしたくないという意思が強すぎて、普段よりも我慢出来なかった私は夜まで隠れているべき所で逃げる選択をしてしまった。

 そろり、そろりと後ろに下がり逃げる方向に身体を向けようとした瞬間──銀髪の騎士がこちらを向いた。


 塔からは森以外見えない筈。
 木々に隠れてる私の姿なんてわかるわけない。

 それなのにあの黒い瞳はこちらをジッと見つめたまま視線を逸らさない。

 バレてる。あれ絶対私が此処にいるって気がついてる!

 本能的にそう感じ取った私は物音とか気にする余裕もなく、一目散に逃げ出した。荷物が重たいとか、重心がぐらつくとか、言ってる場合じゃない! あの男はヤバい。私が逃げ出す瞬間、笑ってた。まるで鬼ごっこを楽しむみたいに……獲物の存在を確認した肉食動物みたいに獰猛な笑みを浮かべてた。

 表情とかそんなに見えてなかったし、一瞬のことだったけど、あれは私をロックオンした表情だった。めっちゃ怖い!

 大丈夫。森のことは私の方が知ってる筈。
 あの男には私を見つけられない。
 追いつけな──

「そこまでだ」

 脳の奥に響く低音の声が耳元で囁かれた。
 そして振り返る間もなく首根っこを引っ掴まれて捕獲された。

 


 
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