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リリの場合10

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リリ
『修道院』の明らかに不自然な位置にある扉を開けたら、見覚えのあるもの達がいた。
実家の使用人から王太子の婚約者だった頃の護衛、同級生達、そして教育係だった者達。
私が動かなかったらどうしたのと尋ねると、あなたが幸せならそれでと。
涙が出そうだった。
私が動かない可能性だってあったのに。
それはないか。
王家との因縁を私の代で終わらせると決めているのだから。
それでも、私一人が我慢すればいいと思った王妃への道は閉ざされた。
にもかかわらず因縁は切れず、いずれ芽を出す。
だって私は知っている。
王太子のショルーズに子種がないことを。
そうなるよう薬を飲ませたのは私。
王妃になるのは仕方ないと納得できたが、ショルーズの子を産みたくなかった。
代々嫌がらせされてどうして嫌われていないと思えるのか、王家の考えることはわからない。
そこからはとんとんと。
容易にはできないはずのことがトントンと進んだのはもう運命としか言いようがない。
はかったようなタイミングで国王からの呼び出し。
王宮の深いところに易々と侵入というより招き入れられた。
いってみたら検討に値しない愚かな提案。
さっさと排斥。
言葉で拒否すると驚いていました。
なぜ驚くのか、こちらが驚きます。
扇子ではたいてやったら泣き喚くなんて、いい歳した大人が本当にみっともなかったです。
離宮に押し込め。
まったく、その見たくもないものしまってください。
ただその前に一つだけ。
我がギフト公爵家を継がれた元王弟殿下の元へ。
この方は優秀な方でした。
私も通ったこの国の貴族以上が卒業必須の学園の教師達は嘆いていました。
もったいないと。
国王よりも王弟殿下の方が優秀だったから。
私自身彼の書いた貿易をテーマにした卒業論文を読んで、他国の王族と友情をはぐぐめる彼の社交性とひととなりをみて、私が王族となった暁には国政の重要な役割を果たしてほしいと考えていた。
彼より劣るくせに彼を軽んじる国王や婚約者を不快に思っていた。
だから、国王一家を拘束した後まず彼に会いにいった。
彼が望むなら、と思っていたから。
結果は残念だった。
でも、ギフト公爵家とその領地は安泰なのだから良かったとするべきだろう。
ほんの少し期待していたことは一生の秘密だ。
言い出すこともできなかったのは、リリーナ一生の不覚だ。
やることは山積み。
さて、即位の準備しなきゃ。
両親を呼び戻して、ギフト公爵には宰相になってもらおう。
ふと、あの修道院の道を思い出す。
あれは、周りの村から働きに来ていた者の出入りの道。
なにもかも捨てて、あそこから逃げる道もあった。
そうしていたら、今頃どこでどうして何をしているのだろう。
山積みの書類と格闘していると、たまにそんなことを思う。






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