断罪された悪役令嬢はそれでも自分勝手に生きていきたい

たかはし はしたか

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リリの場合

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修道院の生活は規則正しい。
朝は暗いうちから起きて、まずは清掃。
今日のように寒い日でも。
水汲みは新入りの仕事と決まっている。
井戸に氷の張るような寒い朝であっても、厨房の水瓶をいっぱいにして、宿舎の人数分の水差しを満たす。
これを清掃の前にしなくてはならない。
つまり、三ヶ月前にこの修道院に入ったばかりの一番の新入りのリリはこの修道院の誰よりも早く起きなくてはならない。
清掃の後はお祈り。
これこそが修道女としての一番の役割なので院長の話が長い。
居眠りなどもってのほか。
服の皺まで気を配らなくてはならない。
以前貧血で倒れた者はその後半年、懲罰室に入れられたらしい。
それからやっと質素な朝食。
栄養は考慮されているが院内で自給自足が原則なので、薄いスープと薄いパンごく稀に卵が少し。
修道院というところは楽しむということは奨励されないので、少しでも美味しくなどとは配慮されない。
焼くだけ。
茹でるだけ。
切っただけ。
正直味気ない。
それでも、お腹が減れば食べなくてはならないのだ。
それから朝の奉仕。
主に農作業。
広い院内には牧場もあれば農場もある。
それを修道女で全て管理する。
高い壁に囲まれた修道院に外から入ってくるのは、空飛ぶ鳥と取引のある領主の奥方だけと言われている。
今週はリリは牧場で牛の世話だ。
餌もふんも重いし、そもそも大きな牛が怖くて仕方ない。
同じ大きな動物であっても馬は怖くない、むしろ慣れ親しんだ可愛い相棒とも思えるのにこの違いはなんだろうか。
が、ここでは奉仕という名の労働を拒否することは出来ない。
昼食は朝食よりシンプルで、具沢山のスープのみ。
午後の奉仕。
ここからはいくつかの中から自分で活動を選ぶことができる。
修道院が請け負った仕事をするためだ。
刺繍、翻訳、洗濯、食品加工などそれから修道院の運営に関することなど。
この修道院は元貴族で上質な者がわかる者が多いからそういった活動が多い。
1番人気は翻訳。
ごく稀に代筆。
座れて、1人になれるからだ。
ついで刺繍や繕い物。
やはり座れて、おしゃべりできるから。
次が食品加工。
仕事はきついが、試食という名のつまみ食いが出来る。
こういう余録があるものが人気である。
逆に人気がないのは洗濯や工芸や修繕など。
修道院の運営に関わる大切な仕事であっても、ただ大変なだけ。
リリは元貴族。
それも由緒正しい血筋で、高い教育と教養を身に付けている。
刺繍も恋文の代筆から外交文書の翻訳までなんでもござれだ。
でもここではただの新人リリ。
空いた場所をあてがわれ、日替わりで洗濯したり屋根を直したり時にチーズをつくったりしている。
人生で初めてあかぎれができたときはその栄枯盛衰を観察してしまいました。
奉仕の後はお祈り。
これは各自で思い思いの場所ですればいいので気が楽です。
そして夕食。
今日の収穫物を使うので、時期にもよりますが1番充実した食事です。
薄いパン、焼いた野菜、あれば果物。午後の奉仕でできたチーズの切れ端や焼き菓子のかけらがあることもあります。昼と同じスープに豆を入れたもの。
修道院の食事は、満腹感や満足感はともかく栄養だけは取れるようです。
就寝前のお祈り。
宿舎の廊下にずらりと並び、祈りの言葉を唱和する。
そして就寝。
その繰り返し。

リリーナ・ナラージュ・ギフト公爵令嬢。
それが私。
王妃になりたいがために王太子の婚約者を虐げた咎で家は養子を取って代替わりし、私は修道院へ。
ここの生活は一言でいうと平穏。
始めは、公爵令嬢として生きてきた身としては新鮮な出来事の連続だった。
だがもう三月。
下働きの下女のように走り回っているのもそろそろ飽きた。
それにそろそろ王宮にも実家のギフト家にも動きがあるはず。

さて


どうするか。






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