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リリアナの場合 1

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リリアナが未来の王妃に選ばれたのは4つの時だった。
「お前がリリアナか。これやる」
初対面の王太子が投げてよこしたのは、子供の腕ほどの太さの大きなトカゲの死骸。
べちゃりとドレスを汚したそれにリリアナは腰を抜かしてしまった。
悲鳴を上げなかったことを褒めて欲しい。
リリアナはまだ4つだったのだ。
そんなリリアナを王太子マルクルは不思議そうに見ていた。

ああ、これが既視感というものだろうか。
リリアナはそっとため息を殺す。
リリアナとマルクルは14歳になった。
二人とも家庭教師による教育を経て、貴族や王族の通う学園に通いはじめた。
授業の隙間の休憩時間ふと窓の外を見ると、地面に腹ばいになって花壇ににじりよるマルクルの姿が見えた。
しっかり息を吸って、吐いて。
わたし、何も見てはいませんわ。
次の授業は歴史。
教科書の準備をしなくては。
王太子マルクルの奇行は入学直後から学園中に広まった。
成績は悪くない。
だがとにかく勝手で、人の話を聞かない。
そして学園に入ってきた生き物を追いかける。
花壇を掘り返したり花をすべて摘み取ったりした。
化学室で虫を焼いて食べていたという噂もある。
王族とはいえ生徒の一人であり、教師も注意はしてくれた。
わたしも婚約者としてマルクル様を何度も諌めた。
それでもマルクル様は変わらなかった。
そもそも気分じゃないと何日も登校しないこともある。
「どうしたリリアナ」
隣の席のクロム様が声をかけてくれました。
クロム様は正妃様のお子で第二王子。
正妃様はわたしの母の学生時代の友人で、今も親しくさせていただいていてその流れで自然にわたしとクロム様は幼馴染と言ってもいい関係にありました。
「いえなんでもありませんわ。さあもうそろそろ先生がおいでになりますから席につきましょう」
わたしがそういえばちらりの窓の外を見て、おそらく気がついたであろうにクロム様は何も言わないでくださいました。
正直言って、学園に入る前もマルクル様よりクロム様の方と過ごした時間は多いです。
王族の婚約者になると、7歳から教育を受けるので毎日のように王宮に通った。
本来はその過程で婚約者同士で交流を持つのだ。
マルクルはあまりそれに熱心ではなく、教育が終わるとさっさと遊びにいってしまうのだった。
クロム様や他の王子王女が婚約者と過ごしているのを見て、寂しかったのは昔の話。
今は、自分のできることをすればいいと思っている。
まだわたしは婚約者とはいえ公爵令嬢に過ぎない。
王族であるマルクル様を動かす権利はないのだ。
わたしはわたしにできることを。
未来の王妃として学ぶべきを学び、自分を高めていくべきであろう。
王太子の婚約者に選ばれてから、両親はわたしに多くを与えてくれました。
愛情も教育も公爵家の跡取りである兄アルト同様かそれ以上にあたえてくれた。
兄も弟のマルトもたくさんの温かいものをわたしにくれる。
その期待に答えていきたいと思っているのはわたしの意思。
今わたしがすべきなのは婚約者を追いかけることではなく、学ぶこと。
誰からも認められるこの国の妃となること。
そのためにもこの国を支える未来の人材と交流をもつこと。
遠くない未来、この国の貧困を無くすために教育や福祉を充実させたい。

そんなそれなりに平穏な生活はその後2年、卒業式の日まで続いた。





三話プラス一話で終わる予定でした
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