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サーラの場合 後編

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我が国は、実力主義を掲げている。
功績があれば平民から一代で貴族になれるし、逆もある。
それは我が国の置かれた環境によるものである。
めぼしい資源も産業もない国。
鉱山も海もない。
あるのは険しい山と寒暖の激しい気候。
民の多くが国外に出稼ぎに出る。
優秀なものだけが国に残れる。
それゆえに、昔から家柄よりも実力がものをいう土地柄だった。
貴族も平民も教育熱心で、競い合う。
競うこと、争うことが是とされるのが我が国である。
それは王太子の妃の座を巡っても。

公爵令嬢のリーラと私は従兄弟同士ということもあり、生まれた時からライバルだった。
そこに中等学校から伯爵令嬢のライラが加わった。
そして最後の高等学校。
伝統的に王太子は高等学校の卒業式後のパーティーで婚約者と踊る。
それがそのまま婚約者のお披露目となる。
私とリーラ、ライラは競い合った。
王太子の妃になる条件は一つだけ。
強きものであること。
かつては、戦場を国王とともに駆けて平民から妃になった方がいた。
かつては疫病のなか民を支えた妃がいた。
ここ100年ほど国は安定していた。
今の主戦場は、学校である。 
皮肉なことに、競って子供に教育をつけていたら、いつのまにかそれが産業になった。
レベルの高い学校への進学、優秀な教師の獲得を競った。
結果、研究施設の充実され、それまでなかった新しい発明や発見、学問分野の広がりが起きた。
そして、諸外国から我が国へ子息子女を留学させるのがステイタスになった。
私もリーラもライラも、己を磨き優秀な成績をとり王太子の妃となるべくしのぎを削った。
そこに現れたのがマリーだった。
平民のマリーは、平民でありながら最高学府に来られるほどに賢いにもかかわらず、女を武器とした。
ただただ恋に落ちたということだけを武器に私たちの前に立ち塞がったのだ。
そんな彼女が評価されるわけありません。
気に食わなかった者は多い。
いつの頃からか、マリーはいじめられるようになった。
そしてそれがますます彼女を王太子のもとへと向かわせることになった。
そして事件が起こった。
詳細は省く。
だが、誰かが悪者にならなくてはならなくて、穏便に収めるなら状況的に誰かが貧乏くじを引かなくてはならないとしたら。
そして自分が貧乏くじを引くか誰かの二番手に甘んじるかを選べというなら、私サーラは公爵令嬢としてプライドを持って貧乏くじを引く。
もちろんただ流されるつもりはない。
断罪され、王太子妃候補として2度と浮上することはないとしても。
「どうして」
助けを求めているマリーを顧みることなく王太子はリーラの手を取って卒業パーティー会場の真ん中に進みます。
マリーは、信じられないのでしょう。
ほんの数分前までその腕に手を絡ませていた王太子が他の女の手を取っていること。
断罪されたはずの女が、受け入れられ微笑んでいること。
衛兵に引き摺り出されていくマリーに声をかける者はいない。
彼女のいく先は、生涯出ることのできない祈りの施設。
それでも、衣食住保証されているのですから。
私が貧乏くじを引かなければ或いは、がありえたのに残念でしたね。
マリーあなたは賢いはずなのに恋を感情をどうしてそんなに万能だと思ったのでしょうか。
王族の婚約が整ったら、それまで関係のあった女性は排除されるなんて良くあることですわ。
後から隠し子なんて面倒な芽はつんでおくものです。
王太子に近づきすぎましたね。
その衛兵は、王太子が手配したのですよ。
誰が連行されるかは紙一重でしたが。
王太子は兄弟が多いから、少しの瑕疵も許されないのです。
さて、私は王太子妃にはなれませんが、身分的には側妃にはなれるのにそうしなかった。
そのことをリーラもわかっています。
私は実務のトップ女官長となり国を動かすこととします。
断罪されることで自分の立場を確保した私の知識と交渉力を王族の皆様に評価いただいたことですし。
リーラとは痛み分けといったところでしょうか。
人生は続く。
断罪されるのも悪くない。
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