上 下
28 / 48

シーラの場合 後編

しおりを挟む
国王陛下ご夫妻と王子殿下達のご入場に、生徒もその保護者達も一斉に礼をとる。
この学園は陛下の名がついているため、大きな行事には陛下もしくはその名代が出席する。
特に王太子が在籍しているここ数年は陛下ご夫妻での参加が増えていた。
今回はそれに加えて、卒業生でもある第一王子殿下と来年ご入学の第三王子殿下までご来場。
事前の予想どおりです。
三人の王子は皆優秀で仲がいいと聞く。
そっと、もう一度糸を確認する。
国王の合図で皆が礼を解く。
国王が席について、王太子を呼んだ。
「ところであそこでなにをしていたのかね」
国王が尋ねる。
会場の真ん中で進路を塞いでいたのだから当然の疑問だった。
王太子の説明を聞いて、国王夫妻と王子達が眉を顰める。
非常に不本意ですが皆の視線が私達(わたしとマイク)と国王夫妻とを行き来する。
国王夫妻と王太子の話は続いています。
ここから見るに、王妃がなんてことなのと眉を顰め、国王は無言でため息をついて首を横に振っている。
茶番劇だ。
「シーラ男爵令嬢」
そのとき、第一王子が私の元にやってきた。
ああ、そういうことですか。
3人の王子は仲がいいと聞きますが、所詮あなたは側妃様の子なのですね。
あなたと一緒に切り捨てられるのはごめんです。
胸が高鳴ります。
タイミング。
全てはそこにかかっています。
会場中の注目を浴びて、第一王子が私の前に跪きました。
そしてその胸のバラを取った瞬間。
私は糸を引き抜きました。
わあっと会場が揺れるほどの歓声が上がりました。
第一王子は、準備していたであろう言葉を出すことなくぽかんと口を開けています。
驚いたのでしょう。
目の前の令嬢のドレスが正確にはドレスの上半身がばらばらになったのですから。
私は糸を手放して腰のリボンに手をかけます。
「ま、待ってくれ」
第一王子が私を止めようとするが構わずリボンを解く。
ドレスのスカートがストンと下に落ちます。
周りがざわざわしていますが、破廉恥ではありません失礼な。
平服の上にドレスをついけていたのですから。
第一王子はなにが起こっているのかわかっていないようです。
そっと中に履いていた靴ごとヒールから足を抜いて、やっといつもの服装になれてスッキリです。
ゴテゴテの夜会用の化粧と巻き髪はこの際仕方ないですね。
お行儀が悪いですがそっとスカートを跨いで、さりげなく第一王子から距離を取って、床に広がったドレスを回収する。
そして出口へ。
誰も止める者はおりません。
関係のない人から見たら面白い見せ物でしょうね。
通りすがりに何人かの友人の顔が見えます。
心配してる顔、そうでない顔、一部には法に詳しいのであろう私をもう友人と思っていない顔をしている人もいますね。
忘れませんよ、その顔。
出口で一度ドレスを置いてあえてカーテシーではなく礼をして自分で扉を開ける。
扉を閉める時、ポカンとした第一王子と悔しそうな王妃と、表情のわからない王と王太子が見えた。
たとえ仲のいい親子兄弟でも、それはそれとして割り切れる人なんだと思ってみるととても怖いかもしれない。
だからこそ王族なのだろうか。
王命を破ったものは身分を一つ下げるという古い法律がある。
昔まだ戦さがあったり国が荒れていた頃に出来た法。
議会制が敷かれた今では有名無実忘れ去られた法だが、廃止はされていない。
今回は貴族派から金蔓(私)を引き離すことと、同時に別の企みがあった。
貴族派筆頭の公爵家出身の側妃の産んだ第一王子の排斥と我が家の流通網の国有化である。
王命の婚約破棄により我が家は平民となった。
公の場で平民に結婚を申し込んだ第一王子は王族にふさわしくないと廃王子となり、王族を惑わせた不敬などの理由で我が家の資産没収。
もし王太子と同腹の第三王子が求婚していたら、王家が直接うちの流通網を取り込んだであろう。
どちらも、我が家にとってはありがたくない。
王家が動いていることはわかっても、どちらの王子が来るのかまではわからなかった。
パーティーを避けてもいずれ仕掛けられるならこちらが備えられる時がいい。
婚約破棄はどうでもいいが、王家に絡まれるのは厄介だった。
一番大切なのは王子に求婚をさせないこと。
だからドレスに仕掛けをして、注意を逸らせてうやむやにして逃げた。
こども騙しのようなやり方だが、周りの貴族を巻き込まないためにも、借りを作らないためにも打てる手は少なかったのだ。
家柄はともかく成績はごく普通のマイク様が生徒会に所属するなんて不思議と思ったのが、今回の茶番劇に気がついたきっかけだったから、マイク様には感謝してもいいのかもしれないですね。
お祖母様もお祖父様ももはやいない今、我が家がこの国で貴族である理由はない。
ひとつの国の貴族としての義務や制約は、国を跨ぐ商人としては邪魔なだけ。
こちらとしても爵位を返上する機会を窺っていたのだから。
さあ走ろう。
学園の入り口ではお父様が馬車で待っていてくれます。
もう貴族の義務も婚約もないし、学園の教育も必要ありません。
とりあえず明日の昼は隣国のうちの本店で大口の契約が待っています。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢はあらかじめ手を打つ

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしは公爵令嬢のアレクサンドラ。 どうやら悪役令嬢に転生したみたい。 でもゲーム開始したばかりなのに、ヒロインのアリスに対する攻略対象たちの好感度はMAX。 それっておかしすぎない? アルファポリス(以後敬称略)、小説家になろうにも掲載。 筆者は体調不良なことが多いので、コメントなどの受け取らない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。

完 あの、なんのことでしょうか。

水鳥楓椛
恋愛
 私、シェリル・ラ・マルゴットはとっても胃が弱わく、前世共々ストレスに対する耐性が壊滅的。  よって、三大公爵家唯一の息女でありながら、王太子の婚約者から外されていた。  それなのに………、 「シェリル・ラ・マルゴット!卑しく僕に噛み付く悪女め!!今この瞬間を以て、貴様との婚約を破棄しゅるっ!!」  王立学園の卒業パーティー、赤の他人、否、仕えるべき未来の主君、王太子アルゴノート・フォン・メッテルリヒは壁際で従者と共にお花になっていた私を舞台の中央に無理矢理連れてた挙句、誤り満載の言葉遣いかつ最後の最後で舌を噛むというなんとも残念な婚約破棄を叩きつけてきた。 「あの………、なんのことでしょうか?」  あまりにも素っ頓狂なことを叫ぶ幼馴染に素直にびっくりしながら、私は斜め後ろに控える従者に声をかける。 「私、彼と婚約していたの?」  私の疑問に、従者は首を横に振った。 (うぅー、胃がいたい)  前世から胃が弱い私は、精神年齢3歳の幼馴染を必死に諭す。 (だって私、王妃にはゼッタイになりたくないもの)

わがまま妹、自爆する

四季
恋愛
資産を有する家に長女として生まれたニナは、五つ年下の妹レーナが生まれてからというもの、ずっと明らかな差別を受けてきた。父親はレーナにばかり手をかけ可愛がり、ニナにはほとんど見向きもしない。それでも、いつかは元に戻るかもしれないと信じて、ニナは慎ましく生き続けてきた。 そんなある日のこと、レーナに婚約の話が舞い込んできたのだが……?

私が死んだあとの世界で

もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。 初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。 だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。

そして乙女ゲームは始まらなかった

お好み焼き
恋愛
気付いたら9歳の悪役令嬢に転生してました。前世でプレイした乙女ゲームの悪役キャラです。悪役令嬢なのでなにか悪さをしないといけないのでしょうか?しかし私には誰かをいじめる趣味も性癖もありません。むしろ苦しんでいる人を見ると胸が重くなります。 一体私は何をしたらいいのでしょうか?

【完結】種馬の分際で愛人を家に連れて来るなんて一体何様なのかしら?

夢見 歩
恋愛
頭を空っぽにしてお読み下さい。

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

【完結済み】王子への断罪 〜ヒロインよりも酷いんだけど!〜

BBやっこ
恋愛
悪役令嬢もので王子の立ち位置ってワンパターンだよなあ。ひねりを加えられないかな?とショートショートで書こうとしたら、短編に。他の人物目線でも投稿できたらいいかな。ハッピーエンド希望。 断罪の舞台に立った令嬢、王子とともにいる女。そんなよくありそうで、変な方向に行く話。 ※ 【完結済み】

処理中です...