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シーラの場合 中編

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我が男爵家は、元々隣の内陸部の国のただの商家だった。
体の弱い妻のため、良い環境を求めた祖父がこの国に移住。
祖父は頑張って働いた。
祖母が環境の良い保養地に不自由なく暮らせるように。
高い薬や医者を確保するために。
身を粉にして働いた。
そして、気がついたらこの国一の船団と商隊を持つ流通王となっていた。
そのおかげで、祖母は1人子を産み医師に言われていた寿命を越えて40まで生きた。
経済発展に寄与したということで祖父は国から爵位が与えられ男爵となった。
まごうことなき成り上がり。
ただし、お金と影響力はたっぷり。
そのため祖父が男爵になってすぐに息子である私の父の婚約が整い、同じ男爵位の令嬢が妻となった。
これが私の母になるのだが、ある日突然貴族になった男と生まれながらに貴族であるということを誇りにしていた女がうまく行くのは難しかった。
子供を1人産んだところで離婚となった。
私は、なに不自由なく育ったし、再婚した母ともそれなりに交流もある。
子供の目から見ても、離婚して正解な組み合わせだと思うのでこれに関して思うことはない。
ただ、流通王である祖父をしっかりをこの国に繋ぎ止めたいという思惑から、15年前わずか2歳の私に王命で婚約が決まったのだ。
お相手は筆頭侯爵家で現宰相の子息マイク様。
私たちの長きにわたる婚約にはそんな理由があったのだ。
だが、15年は長過ぎた。
15年あれば人は変わる。
不作と商人の台頭、王が婚約者であった公爵令嬢を側妃にして、国同士の結びつきを重視して隣国の王族であった王妃との婚姻した事が決定打となり、一枚岩だった貴族と王家に隙間風が吹いた。
今や王族派と貴族派が水面下で争っている。
そう、今回の断罪劇は王族派による私という金蔓を貴族派から切り離す貴族派弱体化工作なのだ。
王家も一枚噛んでる。
その証拠にここに宰相様がいない。
いたら必ず息子を止めるから、今日は王宮に足止めされている。
なぜ私がそれを知っているか。
流通するのは物だけではないのだ。
物が動けば人が動く。
人が動くところ情報あり、です。
今頃宰相様は、執務室で決裁の遅くなった書類を待っていることでしょう。
「殿下、お騒がせして申し訳ありません。ですがこれは内輪のことなので口出しは無用にお願いします。私がまだ話しているのに立ち去ろうとする不心得者と話をつけないといけないのです」
王子が入口を気にしています。
そろそろでなのでしょう。
気を引き締めて行かなくては。
マイク様などどうでもいい。
そっと、糸を確認する。
「マイク侯爵令息、学園内とはいえ今は公式の場だ言葉に気をつけつけたまえ」
そう言われてマイク少しおかしな顔をした。
おそらく自分の行動を、同じ生徒会の仲間達に支持されていると思っていたのだろう。
踊らされていたとも知らずに。
そして今注目を集めているのを初めて意識して、自分の立場を少し理解したのだろう。
生徒会活動で一緒に過ごしていても、それはあくまで学園の活動の中のことであり、相手は王子だということ。
けして友人ではなく、学園は政治と無縁ではないということを。
しかし、とか傷物とかわたしからのせめてものなさけ、と小声で訴えている。
平民に落とされても、あなたの愛人なんてごめんです。
マイク様は勘違いをしている。
私は母より父に似ているのだ。
目の隅に近衛の姿が見えた。
王家御一家のお出まし。

さて、第一王子が求婚してくるか、第三王子が求婚してくるか。
どちらであるかで、意味するところが違ってくる。
それでも私のすることは変わらないけどね。
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