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馬鹿なことをしたな。
今にしては思うの。
全寮制の学園の在学中に両親が亡くなって、子供は私しかいなかったから叔父の息子つまりは従兄弟が私の実家を継ぐことになった。
つまり、卒業をしたあとの私の帰る場所は無くなったの。
この国は女に爵位の相続権はないから。
だからつい、在学中に誰か相手を見つけようとしたの。
まさか王太子が引っかかるとは思わないでしょ。
そうよ、お義父さまは昔この国の王太子だったのよ。
当然王太子の婚約者、つまり今の王妃様にね、ばちんとされちゃったわ。
二人してね。
お義父さまは廃太子として公爵に、その時子供が作れないように処置がなされたからあなた達を養子に迎えたの。
王妃様、お義父さまの元婚約者がお義父さまの弟の今の王様と結婚されたってわけ。
公爵といっても、領地は川で二つに分けられてて、統治の難しいところだけしかなかったし、新しく起こした公爵家だから引き継いだ資産もなくて、本当に掘っ建て小屋からから始めたの。
そうあの養殖場のすぐそばのあの小屋。
ほんとよ。
今でこそこの領地も栄えているしこんな館を構えたけど、その頃は領民も今の100分の1もいなかったのよ。
私はね、もともと男爵令嬢とはいえほとんど庶民のような暮らしをしてきたからともかく、お義父さまは王子として生まれ育って、召使い達に何もかも世話されて生きてきたから、何もできない人だったの。
衣食住何もかも自分でやらなくてはならなくなって、辛いこともたくさんあったの。
だから、いずれお義父さまは王宮に逃げ帰るんじゃないかと思ってたの。
だけどお義父さまはそれを楽しめる人だったの。
そんなお義父さま見ていたら、私も頑張らないといけないでしょ。
今思い出しても、あの頃は本当に充実していたわ。
位だけは公爵だから社交にも出ないといけないし。
はい、出来たわ。
回ってみて。
うん、素敵よ。
我が公爵家自慢のパールのドレス。
今夜のデビュタント、楽しみね。
ええもちろん、私も行きますよ。
お義父さまがエスコート張り切ってますよ。




疲れた。
今年デビュタントの娘がパールのドレスを着たいと言い出した。
あの公爵家のドレスを。
男爵令嬢にうつつを抜かした王太子を男爵令嬢ともども断罪した。
そして私は改めて王太子となった今の王と婚約し結婚した。
元婚約者は名ばかりの公爵となり形ばかりの領地を与えられた。
それでも社交に出て来させたのはそれも晒し者にするという罰の一環だった。
謝ってくれば、縋り付いてくれば考えてもやったというのに。
誰にも相手にされなくても、一張羅をきて社交に出てこざるを得ない二人。
それが変わって行ったのはいつからか。
あるとき男爵令嬢いえ公爵夫人、夫人が額飾りをつけてきた。
細いチェーンにただ一粒の真珠。
シンプルなそれは夫人にとても似合っていた。
額飾りなどという飾りは見たことがなかった。
その次はチョーカー。
黒のベルベットに大粒で歪な楕円形が印象的なパールが一粒。
それが密かに一眼を引いた。
そしてあれは春。
白いドレスに散りばめられたたくさんのパール。
白地に白い刺繍とレースとパール。
額飾りとチョーカー。
あの日の主役は間違いなく夫人だった。
そして、夫婦の仲睦まじさ。
少しずつ夫婦は社交界に馴染んでいった。
公爵の領地は淡水パールの一大産地となり、海のない我が国のファッションの中心となった。
アクセサリーは資産価値と歴史のある宝石をあしらったものではなく、安価でその時の気分や流行で取り替えられるものに変わっていった。
特に若い人や下位貴族に受け入れられていった。
いつの頃からかデビュタントのほとんどがパールのドレスを着るようになった。
とうとう王女たる娘までがそれを望むなどと。
私の婚約が整ったのはお互いに3歳の時だった。
物心ついた頃からたくさんの努力をしてきた。
それでも振り向いてはもらえなかった。
だからこそ、先手を打って婚約者を切り捨てた、今私はここにいる。
王妃として三人の子を成した。
だが私が35を過ぎたとき、王は側妃を迎えた。
王の元々の婚約者であった人。
子は作らないといってはくださった。
王とは仲が悪くなったわけでもない。
だが公務以外で会うことは無くなった。
同い年のはずなのに若々しい夫人の姿を見かけるたびに心がささくれた。
仲睦まじい公爵夫婦を見るたびに込み上げてくるものがある。
疲れた。
私の人生は何だったのだろうか。
           さて
感傷に浸るのはここまで。 
私王妃。
やるべきことはいくらでもあります。
まずは明後日の隣国からの使節団の資料に目を通しましょう。
私はあの時王妃となることを望んだのですから。
責任ある地位と仕事が待っています。
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