10 / 48
番外編 ジョシュアの場合 後編
しおりを挟む
学園の三年間は実に得難い時間だった。
正直最初の一年は右も左もわからなかった。
皆が学生として平等を謳う学園でも、最初は警戒してろくに食べられなくて、入学三日で倒れてしまった。
そこで友人が出来た。
倒れたジョシュアを医務室に運んでくれた二人。
マギーとジョー。
校医と二人にガッツリ怒られた。
怒られることは初めての経験だった。
ポカンとするジョシュアに二人は呆れ、次いで怒り、あれやこれやと要求するようになった。
「食べろ」
「寝ろ」
「聞け」
「話せ」
「やれ」
「やるな」
最初は二人の要求することが理不尽に思えた。
それでも1年経つ頃には、すこしずつ周りが見えるようになった。
自分に話しかけてくる者来ない者、その中でも見え隠れする思惑や打算や好意や悪意。
二人を味方とまでは言わずとも害意がないと判断出来るまで半年。
マギーはジョシュアの婚約者のマリーの妹でジョーは伯爵家の庶子。
マギーからは貴族社会を、伯爵家の庶子でほとんど平民として暮らしてきたジョーからは平民の暮らしと金銭感覚を学んだ。
学生として全力で学んだ。
学び始めたのが遅かったために、人より遅れていたが、2年目が終わる頃には中の上の成績となった。
学園生活が残り半分となってやっと将来について具体的に考えるようになった。
この二年間、王宮に戻ることはなかった。
王太子としての義務も果たしていないが、そもそも王族の特典を受けたことも、義務に呼ばれたことはない。
あえて言うなら婚約者が与えられたことと学園に通わせてもらっていること、だろうか。
書類の上だけの王太子、それがジョシュアだった。
明日が学園の卒業式の日だとしても、式典を終えて行くべき場所もやるべきこともなかった。
新聞には地方を視察に回るユージーンが載っている。
先月祖母にあたる先代の王妃が亡くなった。
知らせも迎えもなく葬儀の日もジョシュアはいつも通り授業に出ていた。
一度だけ見たことがあったなと、新聞を見て思っただけだった。
どうしたいのか、答えが出たのはそれから一年後、卒業まで一年となった頃だった。
少しずつ自分の周りを整理して、準備を進めた。
まずマリー。
二つ年上でもう学園を卒業していたから、マギーを通して連絡を取った。
出会った途端に泣かれた。
王太子と婚約したはずが何もないと不安だったらしい。
たくさん話した。
決して話が合うわけではなかったが。
話すことで、自分が学園に入ってからの王宮のことが少しわかった。
王太子とは名ばかりの自分だけでなく、ユージーンの婚約にも貴族が口出ししようとしたらしい。
ただ、ユージーンの婚約者が大国の王女だったので、口が出せなかったらしい。
マリーとは繰り返し会って、ただ話した。
卒業式の前日、初めてマリーと王宮に戻った。
ジョシュアの暮らした部屋を見て茫然とした。
簡素なベットしかない粗末な部屋。
中庭に出て、マリーを待たせて用を済ませに行った。
中庭で、マリーは泣いていたらしい。
話で聞くのと、実際に見るのは違ったらしい。
そこをユージーンに見られた。
ああ、ユージーンの中で、自分のの印象がまた悪くなるな。
だがそれも、今日限り。
明日、自分は卒業式後のパーティーで廃嫡される。
パーティーで酔って醜態をさらす。
更にその場で王家の宝石をくだらない賭けの景品に差し出そうとして、王太子の自覚なしと王から廃嫡を言い渡される、予定だ。
刑罰を課されるつもりがないから、廃嫡の理由の匙加減が難しかった。
その後は、子を成せない様に処理を受け、王都から離れた海に面した修道院で修道士となる。
海の近くで人生を過ごす。
それは母と過ごしたかった人生に似ている。
正直最初の一年は右も左もわからなかった。
皆が学生として平等を謳う学園でも、最初は警戒してろくに食べられなくて、入学三日で倒れてしまった。
そこで友人が出来た。
倒れたジョシュアを医務室に運んでくれた二人。
マギーとジョー。
校医と二人にガッツリ怒られた。
怒られることは初めての経験だった。
ポカンとするジョシュアに二人は呆れ、次いで怒り、あれやこれやと要求するようになった。
「食べろ」
「寝ろ」
「聞け」
「話せ」
「やれ」
「やるな」
最初は二人の要求することが理不尽に思えた。
それでも1年経つ頃には、すこしずつ周りが見えるようになった。
自分に話しかけてくる者来ない者、その中でも見え隠れする思惑や打算や好意や悪意。
二人を味方とまでは言わずとも害意がないと判断出来るまで半年。
マギーはジョシュアの婚約者のマリーの妹でジョーは伯爵家の庶子。
マギーからは貴族社会を、伯爵家の庶子でほとんど平民として暮らしてきたジョーからは平民の暮らしと金銭感覚を学んだ。
学生として全力で学んだ。
学び始めたのが遅かったために、人より遅れていたが、2年目が終わる頃には中の上の成績となった。
学園生活が残り半分となってやっと将来について具体的に考えるようになった。
この二年間、王宮に戻ることはなかった。
王太子としての義務も果たしていないが、そもそも王族の特典を受けたことも、義務に呼ばれたことはない。
あえて言うなら婚約者が与えられたことと学園に通わせてもらっていること、だろうか。
書類の上だけの王太子、それがジョシュアだった。
明日が学園の卒業式の日だとしても、式典を終えて行くべき場所もやるべきこともなかった。
新聞には地方を視察に回るユージーンが載っている。
先月祖母にあたる先代の王妃が亡くなった。
知らせも迎えもなく葬儀の日もジョシュアはいつも通り授業に出ていた。
一度だけ見たことがあったなと、新聞を見て思っただけだった。
どうしたいのか、答えが出たのはそれから一年後、卒業まで一年となった頃だった。
少しずつ自分の周りを整理して、準備を進めた。
まずマリー。
二つ年上でもう学園を卒業していたから、マギーを通して連絡を取った。
出会った途端に泣かれた。
王太子と婚約したはずが何もないと不安だったらしい。
たくさん話した。
決して話が合うわけではなかったが。
話すことで、自分が学園に入ってからの王宮のことが少しわかった。
王太子とは名ばかりの自分だけでなく、ユージーンの婚約にも貴族が口出ししようとしたらしい。
ただ、ユージーンの婚約者が大国の王女だったので、口が出せなかったらしい。
マリーとは繰り返し会って、ただ話した。
卒業式の前日、初めてマリーと王宮に戻った。
ジョシュアの暮らした部屋を見て茫然とした。
簡素なベットしかない粗末な部屋。
中庭に出て、マリーを待たせて用を済ませに行った。
中庭で、マリーは泣いていたらしい。
話で聞くのと、実際に見るのは違ったらしい。
そこをユージーンに見られた。
ああ、ユージーンの中で、自分のの印象がまた悪くなるな。
だがそれも、今日限り。
明日、自分は卒業式後のパーティーで廃嫡される。
パーティーで酔って醜態をさらす。
更にその場で王家の宝石をくだらない賭けの景品に差し出そうとして、王太子の自覚なしと王から廃嫡を言い渡される、予定だ。
刑罰を課されるつもりがないから、廃嫡の理由の匙加減が難しかった。
その後は、子を成せない様に処理を受け、王都から離れた海に面した修道院で修道士となる。
海の近くで人生を過ごす。
それは母と過ごしたかった人生に似ている。
0
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢はあらかじめ手を打つ
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしは公爵令嬢のアレクサンドラ。
どうやら悪役令嬢に転生したみたい。
でもゲーム開始したばかりなのに、ヒロインのアリスに対する攻略対象たちの好感度はMAX。
それっておかしすぎない?
アルファポリス(以後敬称略)、小説家になろうにも掲載。
筆者は体調不良なことが多いので、コメントなどの受け取らない設定にしております。
どうぞよろしくお願いいたします。
完 あの、なんのことでしょうか。
水鳥楓椛
恋愛
私、シェリル・ラ・マルゴットはとっても胃が弱わく、前世共々ストレスに対する耐性が壊滅的。
よって、三大公爵家唯一の息女でありながら、王太子の婚約者から外されていた。
それなのに………、
「シェリル・ラ・マルゴット!卑しく僕に噛み付く悪女め!!今この瞬間を以て、貴様との婚約を破棄しゅるっ!!」
王立学園の卒業パーティー、赤の他人、否、仕えるべき未来の主君、王太子アルゴノート・フォン・メッテルリヒは壁際で従者と共にお花になっていた私を舞台の中央に無理矢理連れてた挙句、誤り満載の言葉遣いかつ最後の最後で舌を噛むというなんとも残念な婚約破棄を叩きつけてきた。
「あの………、なんのことでしょうか?」
あまりにも素っ頓狂なことを叫ぶ幼馴染に素直にびっくりしながら、私は斜め後ろに控える従者に声をかける。
「私、彼と婚約していたの?」
私の疑問に、従者は首を横に振った。
(うぅー、胃がいたい)
前世から胃が弱い私は、精神年齢3歳の幼馴染を必死に諭す。
(だって私、王妃にはゼッタイになりたくないもの)
わがまま妹、自爆する
四季
恋愛
資産を有する家に長女として生まれたニナは、五つ年下の妹レーナが生まれてからというもの、ずっと明らかな差別を受けてきた。父親はレーナにばかり手をかけ可愛がり、ニナにはほとんど見向きもしない。それでも、いつかは元に戻るかもしれないと信じて、ニナは慎ましく生き続けてきた。
そんなある日のこと、レーナに婚約の話が舞い込んできたのだが……?
私が死んだあとの世界で
もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。
初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。
だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。
そして乙女ゲームは始まらなかった
お好み焼き
恋愛
気付いたら9歳の悪役令嬢に転生してました。前世でプレイした乙女ゲームの悪役キャラです。悪役令嬢なのでなにか悪さをしないといけないのでしょうか?しかし私には誰かをいじめる趣味も性癖もありません。むしろ苦しんでいる人を見ると胸が重くなります。
一体私は何をしたらいいのでしょうか?
【完結済み】王子への断罪 〜ヒロインよりも酷いんだけど!〜
BBやっこ
恋愛
悪役令嬢もので王子の立ち位置ってワンパターンだよなあ。ひねりを加えられないかな?とショートショートで書こうとしたら、短編に。他の人物目線でも投稿できたらいいかな。ハッピーエンド希望。
断罪の舞台に立った令嬢、王子とともにいる女。そんなよくありそうで、変な方向に行く話。
※ 【完結済み】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる