断罪された悪役令嬢はそれでも自分勝手に生きていきたい

たかはし はしたか

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番外編 ジョシュアの場合  後編

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学園の三年間は実に得難い時間だった。
正直最初の一年は右も左もわからなかった。
皆が学生として平等を謳う学園でも、最初は警戒してろくに食べられなくて、入学三日で倒れてしまった。
そこで友人が出来た。
倒れたジョシュアを医務室に運んでくれた二人。
マギーとジョー。
校医と二人にガッツリ怒られた。
怒られることは初めての経験だった。
ポカンとするジョシュアに二人は呆れ、次いで怒り、あれやこれやと要求するようになった。
「食べろ」
「寝ろ」
「聞け」
「話せ」
「やれ」
「やるな」
最初は二人の要求することが理不尽に思えた。
それでも1年経つ頃には、すこしずつ周りが見えるようになった。
自分に話しかけてくる者来ない者、その中でも見え隠れする思惑や打算や好意や悪意。
二人を味方とまでは言わずとも害意がないと判断出来るまで半年。
マギーはジョシュアの婚約者のマリーの妹でジョーは伯爵家の庶子。
マギーからは貴族社会を、伯爵家の庶子でほとんど平民として暮らしてきたジョーからは平民の暮らしと金銭感覚を学んだ。
学生として全力で学んだ。
学び始めたのが遅かったために、人より遅れていたが、2年目が終わる頃には中の上の成績となった。
学園生活が残り半分となってやっと将来について具体的に考えるようになった。
この二年間、王宮に戻ることはなかった。
王太子としての義務も果たしていないが、そもそも王族の特典を受けたことも、義務に呼ばれたことはない。
あえて言うなら婚約者が与えられたことと学園に通わせてもらっていること、だろうか。
書類の上だけの王太子、それがジョシュアだった。
明日が学園の卒業式の日だとしても、式典を終えて行くべき場所もやるべきこともなかった。
新聞には地方を視察に回るユージーンが載っている。
先月祖母にあたる先代の王妃が亡くなった。
知らせも迎えもなく葬儀の日もジョシュアはいつも通り授業に出ていた。
一度だけ見たことがあったなと、新聞を見て思っただけだった。
どうしたいのか、答えが出たのはそれから一年後、卒業まで一年となった頃だった。
少しずつ自分の周りを整理して、準備を進めた。
まずマリー。
二つ年上でもう学園を卒業していたから、マギーを通して連絡を取った。
出会った途端に泣かれた。
王太子と婚約したはずが何もないと不安だったらしい。
たくさん話した。
決して話が合うわけではなかったが。
話すことで、自分が学園に入ってからの王宮のことが少しわかった。
王太子とは名ばかりの自分だけでなく、ユージーンの婚約にも貴族が口出ししようとしたらしい。
ただ、ユージーンの婚約者が大国の王女だったので、口が出せなかったらしい。
マリーとは繰り返し会って、ただ話した。
卒業式の前日、初めてマリーと王宮に戻った。
ジョシュアの暮らした部屋を見て茫然とした。
簡素なベットしかない粗末な部屋。
中庭に出て、マリーを待たせて用を済ませに行った。
中庭で、マリーは泣いていたらしい。
話で聞くのと、実際に見るのは違ったらしい。
そこをユージーンに見られた。
ああ、ユージーンの中で、自分のの印象がまた悪くなるな。
だがそれも、今日限り。
明日、自分は卒業式後のパーティーで廃嫡される。
パーティーで酔って醜態をさらす。
更にその場で王家の宝石をくだらない賭けの景品に差し出そうとして、王太子の自覚なしと王から廃嫡を言い渡される、予定だ。
刑罰を課されるつもりがないから、廃嫡の理由の匙加減が難しかった。
その後は、子を成せない様に処理を受け、王都から離れた海に面した修道院で修道士となる。
海の近くで人生を過ごす。
それは母と過ごしたかった人生に似ている。
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