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セラフィの場合
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セラフィは悪女だ。
皆がそういう。
皆とは、婚約者のニールとその幼馴染のマリールカとマリールカの妹のマリールルだ。
三人もいるのだから、みんなと言っていいのではないかとセラフィは思っている。
だから、セラフィは悪女である。
公爵家の一人娘だから、悪女令嬢になるのだろうかと、セラフィはぼんやりと考える。
目の前では右手をマリールカに左手をマリールルに絡めたニールが、不機嫌そうにこちらを見ている。
ニールは侯爵家の嫡男で、一年前ニールが13になった時に決まった婚約者である。
マリールカとマリールルはニールの乳兄弟である。
初めて会った時から、三人はセラフィを嫌っていた。
理由はわかっている。
セラフィが年上だからだ。
セラフィは今年17歳。
そもそもは生涯独身の予定で婚約者を持っていなかった。
貴族としては少数派だが、将来の後継争いを避けるためなどにままあることだ。
セラフィには兄が二人いたし、聖職者になる才能があったので、自分の希望を親が受け入れてくれていたのだ。
それが昨年侯爵家に頼み込まれて婚約をすることになった。
ニールの父が、浮気で子供を作っていたことが発覚したのだ。
しかも相手は公爵家の娘。
没落していて、表立っての権力も財力もない。
ただし数代前に王家から降下しているという血筋。
ニールの父は婿養子だが、夫婦仲は決して良くはない。
危機感を覚えたニールの母がセラフィの公爵家に縁組を持ち込んだのだ。
いわばこれはニールの地位を守るための婚約なのだが、女の側が3つも年上なことをニールはいつまでも納得できなかった。
「いい気になるなよ」
顎を少し上げているのは、こちらを見下しているつもりなので
しょう。
初対面の両家での顔合わせの時にも同じ言葉を聞きました。
この一年でニールに会ったのは五回。
毎回同じ言葉を聞いています。
相手にするのも面倒ですが、そろそろ飽きが来ました。
「なにがですか」
思わず言ってしまいました。
すると聞き返されると思っていなかったのか、一瞬ぽかんとした顔をしたニールがみるみるうちに不機嫌になる。
「ふざけんなよ」
どこでそんな言葉を覚えてくるのでしょうか。
ニールは上流貴族として、幼い頃からしっかりとした教育を受けてきたはずなのに。
ただ自身の誕生日会に訪れた婚約者にまともな口も聞けないのです。
これならセラフィがお手伝いをしている教会の支援している平民の学校の新入生の方がよほどマシな言葉や態度です。
「お前みたいな行き遅れの年増が生意気なんだよ。いい気になるなよ、お前のことなんか婚約者だなんて認めてないからな」
これも聞き飽きました。
「公爵家だからって偉そうに、お前が公爵な訳でもないくせに」
「なるほど。聞き及んでおりますよ。学園でさる公爵家の令嬢につきまとって、その弟にピシャリとやられたそうですね」
ため息が出そうです。
「我が家はその公爵家とは昔からお付き合いがあるので、すぐに話が流れてきました」
「なっ、お、おまえ」
どうしたのでしょうか、ニール様お顔が真っ赤ですわ。
でも、いうべきことは言わないといけません。
私はニール様と婚約しているのです。
「恥ずかしかったですわ。あなたの婚約者であることが」
貴族が恥をかくということ。
それはとても重大な事案です。
貴族は、爵位は飾りではないのです。
ましてや、まだ婚「約」でしかない相手の咎を我が家がうけるなど、あり得ません。
それはニール様の逆鱗に触れたようです。
紅茶の入ったカップが、飛んできたのです。
そして聞くに堪えない罵詈雑言も。
そうですか。
やはりあなたたちの中で私は悪役なのですね。
ただ相手が女というだけで歳上というだけで美人ではないそれだけ人を見下せるなんて。
そんな方の妻になどなりたくはありません。
元々望んだわけではない婚約。
ニール様が爵位を継ぐまでのお約束でしたし。
幼馴染の可愛いお嬢様たちとどうぞ仲良く。
私は、元々の予定通りに神に使える身となりました。
神殿で祈りを捧げていると、ある光景が見えました。
マリールカとマリールル。
二人揃って大きなお腹を抱えて侯爵家の門で騒いでいます。
どうやら追い出されてしまったようです。
ニール様の隣には、男爵令嬢のルル様。
お揃いの結婚指輪ということは、お二人は結婚されるのですね。
国内で3本の指に入る商家であった男爵家。
ルル様はやり手で気が強いことで有名です。
ニール様の手綱をしっかり握られることでしょう。
これは、そう来年のことでしょうか。
ルル様がついていればニール様の今後は安泰ですね。
マリールルとマリールカのことだって、ルル様は放っては置かないでしょう。
二人が分をわきまえるなら、それなりに暮らしが成り立つようにしてやるでしょう。
私は神殿の巫女。
子供の頃から、未来を見る力がありました。
ただ、自分の関わること以外しか見ることができないのです。
だから、ニール様とのご縁が切れたから見えた未来。
なるようになったのではないでしょうか。
さて、午後からは神殿に相談に来られた方を占う日です。
心を込めて占いましょう。
私の占い、結構評判が良いのです。
皆がそういう。
皆とは、婚約者のニールとその幼馴染のマリールカとマリールカの妹のマリールルだ。
三人もいるのだから、みんなと言っていいのではないかとセラフィは思っている。
だから、セラフィは悪女である。
公爵家の一人娘だから、悪女令嬢になるのだろうかと、セラフィはぼんやりと考える。
目の前では右手をマリールカに左手をマリールルに絡めたニールが、不機嫌そうにこちらを見ている。
ニールは侯爵家の嫡男で、一年前ニールが13になった時に決まった婚約者である。
マリールカとマリールルはニールの乳兄弟である。
初めて会った時から、三人はセラフィを嫌っていた。
理由はわかっている。
セラフィが年上だからだ。
セラフィは今年17歳。
そもそもは生涯独身の予定で婚約者を持っていなかった。
貴族としては少数派だが、将来の後継争いを避けるためなどにままあることだ。
セラフィには兄が二人いたし、聖職者になる才能があったので、自分の希望を親が受け入れてくれていたのだ。
それが昨年侯爵家に頼み込まれて婚約をすることになった。
ニールの父が、浮気で子供を作っていたことが発覚したのだ。
しかも相手は公爵家の娘。
没落していて、表立っての権力も財力もない。
ただし数代前に王家から降下しているという血筋。
ニールの父は婿養子だが、夫婦仲は決して良くはない。
危機感を覚えたニールの母がセラフィの公爵家に縁組を持ち込んだのだ。
いわばこれはニールの地位を守るための婚約なのだが、女の側が3つも年上なことをニールはいつまでも納得できなかった。
「いい気になるなよ」
顎を少し上げているのは、こちらを見下しているつもりなので
しょう。
初対面の両家での顔合わせの時にも同じ言葉を聞きました。
この一年でニールに会ったのは五回。
毎回同じ言葉を聞いています。
相手にするのも面倒ですが、そろそろ飽きが来ました。
「なにがですか」
思わず言ってしまいました。
すると聞き返されると思っていなかったのか、一瞬ぽかんとした顔をしたニールがみるみるうちに不機嫌になる。
「ふざけんなよ」
どこでそんな言葉を覚えてくるのでしょうか。
ニールは上流貴族として、幼い頃からしっかりとした教育を受けてきたはずなのに。
ただ自身の誕生日会に訪れた婚約者にまともな口も聞けないのです。
これならセラフィがお手伝いをしている教会の支援している平民の学校の新入生の方がよほどマシな言葉や態度です。
「お前みたいな行き遅れの年増が生意気なんだよ。いい気になるなよ、お前のことなんか婚約者だなんて認めてないからな」
これも聞き飽きました。
「公爵家だからって偉そうに、お前が公爵な訳でもないくせに」
「なるほど。聞き及んでおりますよ。学園でさる公爵家の令嬢につきまとって、その弟にピシャリとやられたそうですね」
ため息が出そうです。
「我が家はその公爵家とは昔からお付き合いがあるので、すぐに話が流れてきました」
「なっ、お、おまえ」
どうしたのでしょうか、ニール様お顔が真っ赤ですわ。
でも、いうべきことは言わないといけません。
私はニール様と婚約しているのです。
「恥ずかしかったですわ。あなたの婚約者であることが」
貴族が恥をかくということ。
それはとても重大な事案です。
貴族は、爵位は飾りではないのです。
ましてや、まだ婚「約」でしかない相手の咎を我が家がうけるなど、あり得ません。
それはニール様の逆鱗に触れたようです。
紅茶の入ったカップが、飛んできたのです。
そして聞くに堪えない罵詈雑言も。
そうですか。
やはりあなたたちの中で私は悪役なのですね。
ただ相手が女というだけで歳上というだけで美人ではないそれだけ人を見下せるなんて。
そんな方の妻になどなりたくはありません。
元々望んだわけではない婚約。
ニール様が爵位を継ぐまでのお約束でしたし。
幼馴染の可愛いお嬢様たちとどうぞ仲良く。
私は、元々の予定通りに神に使える身となりました。
神殿で祈りを捧げていると、ある光景が見えました。
マリールカとマリールル。
二人揃って大きなお腹を抱えて侯爵家の門で騒いでいます。
どうやら追い出されてしまったようです。
ニール様の隣には、男爵令嬢のルル様。
お揃いの結婚指輪ということは、お二人は結婚されるのですね。
国内で3本の指に入る商家であった男爵家。
ルル様はやり手で気が強いことで有名です。
ニール様の手綱をしっかり握られることでしょう。
これは、そう来年のことでしょうか。
ルル様がついていればニール様の今後は安泰ですね。
マリールルとマリールカのことだって、ルル様は放っては置かないでしょう。
二人が分をわきまえるなら、それなりに暮らしが成り立つようにしてやるでしょう。
私は神殿の巫女。
子供の頃から、未来を見る力がありました。
ただ、自分の関わること以外しか見ることができないのです。
だから、ニール様とのご縁が切れたから見えた未来。
なるようになったのではないでしょうか。
さて、午後からは神殿に相談に来られた方を占う日です。
心を込めて占いましょう。
私の占い、結構評判が良いのです。
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