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第五章 新天地

71:つながりの村

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「ところでユウ」

 村人の間からひょっこり顔を出して、バルトが言った。
 こいつ今までどこにいたんだ。

「この村の名前、そろそろ決めないの? いつまでも『開拓村』とか『北の村』じゃあ不便だろう。みんな自由民になったことだし、話し合って決めようよ」

 そういや村の名前、決めていなかったっけ。
 ここいらに村は一つしかないので名前がなくても困らなかったが、いつまでも名無しってわけにもいかない。

「ユウ様の村、でいいんじゃね?」

 そんなことを言ったのはルクレツィアだ。

「いいわけないだろ」

 俺は言うが、村人からは案外賛成の声が多くて焦った。

「北の大地の村」

 これはイザクだ。
 いや、それだと『北の村』と何も変わらんだろ。

 俺はポケットに入れてある永久氷河の勾玉を触った。
 でも、氷だの氷河だのは豊かな実りを期待する農村には似合わない。困ったな。

「友誼の村でどうだ?」

 そう言ったのはイーヴァルだった。

「村人ではないわしが口出しする権利はないかもしれんが」

「そんなことないですよ! 友誼、いいですね。雪の民との友情あってこその村だから」

「しかし、もう少しひねったほうがいいだろう」

 うーん。
 しばらく考えてから俺は言った。

「つながりの村……で、どうだろうか」

 雪の民との友情。
 元奴隷の村人たちの結束。
 盗賊ギルドや魔法都市国家の支援を受けて得た土地。

「そういったたくさんのつながりで、この村ができたから」

「いいね!」

 ルクレツィアが手を打った。
 イザクとバルト、イーヴァルもうなずいている。
 村人たちは口々に「つながりの村、つながりの村」と繰り返した。

 こうして俺たちの村は『つながりの村』と命名されたんだ。






 収穫祭後、本格的な冬になるまで来年のための畑の整備を行う。
 今年は冬の手仕事を増やしたいので、あわせて建物の増築を行った。
 パルティアから呼んだ技師や大工は村の豊かさに驚いていた。

「この村はね、食べ物が豊富でおいしいんですよ」

 そう熱弁しているのは、去年もここで働いた技師だ。

「私は一家でこの村に引っ越したいくらいです」

 そんな言葉に俺は苦笑する。

「そう言ってくれるのは嬉しいが、まだ農業以外で通年の仕事がないんだ。もう何年かしたら状況が変わるかもしれん。そのときは頼むよ」

「ええ、ぜひ」

 そうして今年も冬になる。
 雪がちらつき始めたら、整備と建築は終わりだ。

 王都パルティアでいろいろと買付をしたかったので、技師と大工を帰還の巻物で送っていくことにする。
 未だに帰還ポイントはパルティア国内にある家なんだよな。
 そろそろ登録をつながりの村にしてもいいかもしれない。

 家に戻るのは二年ぶりになってしまった。
 手紙は盗賊ギルドの伝書鳩でしょっちゅうやり取りしていたが、まさかこんなに間があくとはなぁ。
 相変わらずエリーゼたちが暖かく迎えてくれる。
 そうだ、忘れずにやらないといけないことがあった。

「みんな、いつもご苦労さま。そろそろみんなを奴隷身分から解放したい。長い間ありがとう」

「えっ」

 エリーゼが目を丸くしている。
 メイド姿でびっくり顔もかわいいな。

「つながりの村で、村人たちを解放したからな。先輩であるここのみんなが奴隷のままでいいわけないだろ」

 彼らはもう十分に働いてくれた。

「で、でも。わたくしどもはこれからどうしたら」

 レナがおろおろしている。

「自由民として改めて雇いたい。この店は利益がしっかり出ているから、きちんと給料を払える」

「そうですか……。まさかこの年になって自由の身になるとは」

 バドじいさんが涙ぐんでいる。
 俺は続けた。

「みんなには助けられてばかりだった。これからはもっと要望を聞くから、遠慮なく言ってほしい」

「とんでもないです。十分に良くしてもらっています」

 エリーゼがメイドエプロンの裾を握りながら言った。

「後で雇用契約の内容を考えよう。今後は対等だ。改めてよろしく頼むよ」

「はい!」

 みんな、戸惑いながらも笑顔になっている。
 さて、店の体制を含めてもう一度考えないとな。






 元奴隷、今は店員たちと話し合った結果、店はエリーゼを店長として継続することになった。
 つながりの村に移住してもらうのも考えたが、この店はとても繁盛している。
 常連の冒険者もたくさんいるので、急に店を閉めてしまったらポーションや護符を買えなくなって困る人が続出しかねない。
 なんかもう、一種のインフラになってるんだな。この店。

 レナとバドじいさんの生産品は非常に人気があって、遠くから買いつけに来る人も少なくない。
 つながりの村の件で魔法都市国家と縁ができて以来、あの国のお客も増えた。
 俺も北で手に入れた魔法書や鍛冶で作った杖などを輸送して、この店で販売している。

 利益は十分すぎるほどに出ているので、みんなにしっかりと給金を払うことにした。
 かつてエミルの友人として買ってきた子供たちは成長して、立派にエリーゼの補佐をしている。
 彼らももちろん雇ったよ。

 そうして一通りのことが決定できたので、俺は王都へと向かった。
 つながりの村で必要な物資を買うためだ。

 今回買いたいと思っているのは、羊毛関係の道具。
 毛を梳くための大きなクシとか、糸紡ぎのスピンドル、機織り機なんかだな。
 他には染色の材料だ。

 あとは作物の種や苗。
 去年、今年と豊作だったけど、作物の種類はまだ限られている。
 北の土地で育てるのにいい作物があれば、ぜひ買い付けたいと思っている。
 いずれ換金性の高い作物をたくさん育てられれば、パルティア相手に商売もできるからな。……税金取られるけど。

「いいものがあるといいなぁ」

 俺はわくわくしながら、久々の王都へと足を踏み入れた。
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