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第五章 新天地

63:春の畑

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 雪の民の支援と狩猟の肉、パルティアからの物資輸送で、最初の冬を越えることができた。
 日に日に陽射しが暖かくなり、地面の雪が溶けていく。
 雪の下から黒い土が見えて、ふきのとうが顔を出し始めた頃、イザクを始めとした農業スキル持ちがやって来た。
 パルティア王都の大工たちも一緒だった。

 大工たちはさっそく家屋の建築を始める。
 冬の間は少々手狭だったので、今年はもっとゆったりと過ごしたい。
 さらに今年の農作物を保管しておく倉庫も必要だ。
 そうしたものを作ってもらう。

「さっそく畑を耕そう」

 イザクが言ってクワを構える。
 このクワは俺特製のアダマンタイト製である。
 冬の間の時間を利用して、鍛冶スキルで各種の農具を作っておいたのだ。

「よっしゃ! やったるぜ!」

「ブモォー」

 女戦士のルクレツィアが言えば、彼女の隣で牛が雄叫びを上げた。
 農耕用として仕入れてきた牛だ。
 値段はそこそこだったが、開拓村の物資をケチるつもりはない。
 お値段分しっかり働いてもらうつもりである。

 畑は三圃制で運営するつもりだ。
 つまり敷地を三つの畑に分けて、一つ目の畑で耕作を。二つ目は休作。三つ目は家畜の放牧に使う、というやり方だな。
 休作している畑はクローバーなどを植えて、養分を回復させながら家畜用の飼料を育てる。
 放牧用の畑は家畜がフンをするので肥料になる。
 こうすれば連作障害を避けながら効率的に農業を行える。

「ファーマ――ズ! ダイダルウェ――ブッ!」

 ルクレツィアが謎の技名を叫んだかと思うと、オーラのほとばしるクワを地面に叩きつけた。
 するとクワの着地点が激しく振動し、まるで大きな波のようにものすごい勢いで畑が耕されていくではないか!

「へっ、どうよ! 冬の間は輸送任務ばっかで暇だったからな。イザクに習った農業と、あたしの斧術を組みわせてみたのよ」

 あっけにとられる俺と奴隷の前で、ルクレツィアは大威張りで胸を張った。
 するとイザクが横からすっと出てきた。
 ルクレツィアの必殺技(?)で耕された土を指先で揉んで、首を振っている。

「まだまだ甘いな。兵農一体を名乗るなら、このくらいはしてみせろ」

 彼はクワを手に畑の中央に立った。

「真・アグリカルチャー! 土壌超励起農法ッ!」

 ドスッ!
 イザクのクワが突き立った場所を中心に、同心円状に土が巻き上がっていく。
 ルクレツィアの技が直線であるならば、イザクは円。
 まるで渦を巻くように土がえぐられ、跳ね上げられる。
 土のシャワーが止んだ後には、ほっこりと耕された畑が広がっていた。それも一面の畑が。

「うお、やっぱイザク師匠はすげえわ。この広さのをあっという間じゃん」

「お前は少々粗が目立つが、それでも腕を上げた」

 イザクとルクレツィアで師弟トークをしている。
 そういやイザクはルクレツィアに農業を教えたといっていたが、いつの間にこんな必殺技を使えるようになったんだ……。
 張り切って雄叫びを上げていた牛も「ブモォ?」と困惑している。

 俺と牛と奴隷たちがまごまごしていると、イザクは苦笑した。

「これで終わりではない。さらにしっかりとスキを入れていこう。牛よ、出番だぞ」

 クワを使って土を掘り起こしたので、次はスキの出番だ。
 スキは刃がついた農具で、雑草の根を切り落としたり、土壌をすくいあげて掘り起こすのに向く。
 牛の背に馬鍬まぐわを装着して耕していった。
 さらに溝掘り、畝立てと畑を形作っていく。
 イザクの指示のもと、奴隷たちはせっせと土と格闘を始めた。

 イザクとルクレツィアの超人的な働きもあり、春の耕作はずいぶんと進んだ。
 ただ、「あの二人がいれば他はいらないじゃん」みたいな空気になっては困るので、他の奴隷たちにもきりきり働いてもらった。

「この畑は数年程度は共有するが、それ以降は個人に分配する。それぞれの働きに応じてな! きちんと働けば、お前たち一人一人が畑を持てるんだ。今のうちに農業のノウハウをしっかり身につけて、しっかり稼いでくれ」

「おうよ!」

 春の荒野を目にして意気消沈していた奴隷が、大きな声で答えた。
 あっという間に整いつつある畑を見て、希望が出たのだろう。

「ぼくも畑欲しい。小麦作って、みんなでパンをお腹いっぱい食べるの。おとうちゃん、おかあちゃん、がんばろ!」

 幼子がそんなことを言って、両親が頭をなでている。

「さあみんな、働くぞ!」

「おおーっ!」

 こうして活気のある春が始まった。






 すっかり耕した畑に植えるのは、小麦、じゃがいも、とうもろこしの穀物類。
 それからトマトやなすび、ズッキーニなどの野菜類だ。
 かぼちゃはもう少し暖かくなってからとのこと。
 ここはヨーロッパ風といえばヨーロッパ風の世界なんだが、じゃがいもやトマトが普通にある。
 まあ西の大陸と交易をしているわけだし、細かいことを気にしても始まらないな。

 種を植えた作物が芽吹いて、育って行くのを見るのは楽しい。
 今のところは川から汲んできた水や自然に振る雨で水は足りているが、もっと規模が大きくなったり夏に干ばつが起きたときのために用水路を整備したほうがいいかもしれない。
 今年は様子を見がてらやってみよう。

 どうせ今年は赤字を覚悟している。
 俺のポケットマネーと店の売上から物資を調達して、定期的に村に運び込ませている。
 去年の秋と冬はイザクが店の裏の畑で作った野菜をたくさん持ってきてくれた。
 今年は自給自足分ぐらいは収穫したい。
 欲を言えば雪の民と交換する分もプラスしてな。

 俺は農業は素人だが、イザクら農業スキル持ちはしっかり心得ているようだ。
 肥料を選んだり、追肥の時期を見極めたり。雑草抜きなどの雑務をしながら実に多忙に働いている。
 肥料はニワトリ小屋や豚小屋の糞を発酵させて利用している。
 その他にも、皆で協力して北の森から腐葉土を取ってきた。
 古参のイザクが勤勉に働くものだから、難民だった奴隷たちもサボろうとしない。

 そして季節は夏になり、とうとう最初の作物の収穫時期がやってきた。
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