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第五章 新天地
62:冬の季節
しおりを挟む北の土地に到着した時点でイーヴァルと別れて、開拓村の場所を決める。
場所は平原に流れる川の北側にした。
橋をかける手間があるが、将来的にパルティアといざこざがあった際は川を天然の守りや境界線にできる。
当面は小さな馬車しか通らないので、簡易的な橋にしておいた。
秋のうちから始まった開拓村作りだったが、素人が多いせいでどうにもはかどらなかった。
敷地の地ならしから始めて家を建てる。
王都で雇った数人の大工が頑張ってくれたが、やはり進みは遅い。
家の建設と同時に気をつけたのはトイレだ。
しっかりと深くトイレ用の穴を掘って汲み取り式にした。
汲み取った汚物はいずれ肥溜めで肥料にしたいと考えているが、冬の間は無理。村から離れた場所に埋めるだけだ。
トイレを放置すると病気の原因になりやすい。
ここは譲れなかった。
橋ができ、二、三軒の家と家畜小屋が建つ頃には、ちらほらと雪が振り始める季節になっていた。
いよいよ雪が積もる前にようやくもう三軒ほどの家ができあがる。
ここで王都の大工は帰ってしまった。
「さすがにこんな寒い場所で冬は越せねえよ。また春になったらよろしくな」
そう言って、パルティアから運んできた物資の馬車に便乗する形で帰っていった。
まあ、もともとそういう契約だから仕方ないな。
ようやっと全員が家で眠れる程度の広さである。
そんなに立派なものではなく、俺を含めて雑魚寝状態だ。
雪の民が狩猟で獲った毛皮をわけてくれたので、布団のようにくるまって眠った。とても暖かい。
やがてすっかり雪が地面を覆ってしまうと、できることは少なくなる。
冬の森に入って枝を拾い、薪にしたり。
その他は家事全般。煮炊きやら掃除洗濯やら。
あとは家畜の手入れくらいか。女性だけでも回る程度の仕事量だ。
パルティアからの物資は滞りなく届いているが、暇というのはよろしくない。
そこで俺は雪の民に頼んで、狩猟を教えてもらうことにした。
彼らに弓や銛の使い方を教えてもらって、森に入ってみた。
北の森は強い魔物は少なく、野生動物が多い。
俺が護衛として出るまでもなかった。
奴隷たちは雪の民と協力して、ウサギや鹿などの野生動物の他、ビックホーンみたいな中型の魔物を仕留めていた。
そこまで量は多くないが、当面食っていく分には足りるだろう。
お互いすっかり仲良くなって、次の狩りの話やお互いの身の上話なんかをしている。
そういえば、と、俺は思い出した。
「イーヴァルさん。北の土地で氷の塔の話を聞いたことがないか?」
ヨミの剣が言っていた特殊なダンジョンだ。
イーヴァルは少し考えた後に言った。
「わしが直接見た訳ではないが、言い伝えはある。ここから北の山脈の頂上で、厳寒期のみに出現するという。過去に何人もの猛者が挑んだが、戻ってきたものは誰もいない」
「うーん、そうか……」
その言い伝えだけなら眉唾ものだが、ヨミの剣がわざわざ言っていたのだ。実在はかなり現実味を帯びる。
ただ、山脈の頂上はたどりつくだけで一苦労だろう。魔物を相手にするのとはまた違った難易度だ。
少なくとも、足場が固まっていない今すぐに挑むものではない。
情報を集めながら来年以降、挑戦してみようと思った。
「ユウ様、見てください! 僕、一人でウサギを仕留めましたよ!」
エミルが顔を赤くしてウサギを掲げている。
「おお、すごいな。お前もすっかり雪の民の一員だ」
俺が言うと、横でイーヴァルもうなずいていた。
「あの子は筋がいい。パルティアで苦労した分、周囲に優しくできる性格でもある。わしが死んだ後も、あの子がいれば安心だ」
「イーヴァルさんにはまだまだ元気でいてもらわないと。一緒に開拓村を発展させるんだろ?」
俺の言葉に彼は笑った。
「そうだったな。とりあえず、この冬を乗り切らねば」
村に戻ると、ちょうどパルティアからの物資が届いたところだった。
斧を方に担いだルクレツィアが、俺を見つけて手を振っている。
「よっ、ユウ様! イザクお手製の冬野菜、たっぷり届けにきたぜ。大根が特にうまくて、ちょっとかじってしまったが、まあ許せよ!」
ルクレツィアは相変わらずだな。
イザクは家に残って、他の奴隷たちに農業の指導をしている。
春になったら北へ来て、農業の腕を存分に振るってもらうつもりだ。
雪に閉ざされる北の土地では、生野菜に含まれるビタミンはとても貴重なもの。
雪の民から毛皮や肉や魚をもらい、俺たちは野菜や麦、布や服を渡す。
今のところは物々交換で、お金は使っていない。
雪の民はお金を使う習慣がないせいもある。
ただ今後、村の規模が大きくなったらお金を使ったほうが便利になる。
お金の便利さと怖さをきちんと教えながら、雪の民の理解を得ようとしている最中だ。
で、お金はパルティアの通貨を使うか俺の村独自のものを使うか悩み中。
日本の地域振興商品券みたく、村でだけ使える通貨からスタートしてもいいかもしれないな。
その日の夕食はたっぷりの冬野菜と肉のシチューだった。
煮込んだ玉ねぎとカブの甘みが体に染みる。
ビタミンのために生野菜も必要だということで、大根と白菜は漬物にした。
塩っ気のある大根と白菜をアクセントに、とろりと温まるシチュー。それに硬いパン。
硬いパンもちぎってシチューにひたせば美味しく食べられる。
いずれ小麦を育てて、製粉機とパン焼き窯を作って、焼き立てのパンを食べられるようにしたいものだ。
開拓村の初めての冬は、そんなふうに過ぎていった。
・久々にユウのステータス。
名前:ユウ
種族:森の民
性別:男性
年齢:18歳
カルマ:9
レベル:35
腕力:41
耐久:32
敏捷:45
器用:42
知恵:36
魔力:40
魅力:26
特殊スキル
統率(中)
スキル
剣術:20.6
盾術:16.4
鍛冶:22.5
瞑想:17.9
投擲:21.1
木登り:6.7
隠密:19.3
鍵開け:16.2
罠感知:11.5
罠解体:10.9
軽業:24.2
釣り:4.5
魔道具:14.1
詠唱:20.2
読書:19.7
歌唱:1.3
装備:
黒竜の剣(耐久ボーナス+++)
水晶の盾【サファイア】(魔力ボーナス+++)
黒竜鱗の防護鎧(隠密ボーナス+++)
魔法銀繊維のマント【ルビー】(詠唱ボーナス++)
翼竜のブーツ(敏捷ボーナス++)
ダイアモンドの護符(体力回復ボーナス++)
お財布の中身:金貨換算で約百枚
何年もダンジョンに通って戦いまくったおかげで、超一流冒険者にふさわしい数値になった。
奴隷を大量買いしたせいでカルマはちょっと低め。
高い剣術スキルから繰り出される剣さばきは見事の一言。
魔法はあくまで補助だが、初歩攻撃のマジックアローを極めることで貫通させたり、途中で軌道を変えることすらできる。
戦歌や光の盾のバフも非常に強力。
回復はポーションで。敵の行動阻害とデバフもポーション。
鍛えるスキルと魔法を絞ったことで効率よく強くなった。
なお、クマ吾郎は単純な前衛戦士としてならユウを上回る強さ。
世界最強にして最凶の熊である。
配下に入った人間が増えたせいで統率スキルが小から中にパワーアップ。
関連して魅力も上がった。
装備はほぼ自作。拾った装備が気に入れば、宝石の魔力を付与して使っている。
店の経営が順調なので、奴隷を大人買いしたり定期的に物資を北に送ったりしてもまだまだ余裕。
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