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第四章 国相手の交渉

57:まるごと奴隷

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 魔法都市マナフォースには、到着から二週間ほど滞在した。
 議会承認と手続きが終わるのを待っている間、俺とバルトは約束を果たすべく動いていた。
 マナフォース内の難民をまとめて奴隷にする計画だ。
 ……なんか、まるで悪人みたいな言い方になってしまったな。

 それはともかく。
 ディアドラとマナフォース議会の許可のもと、衛兵たちの力を借りて難民を町の外に追い立てる。
 逃げようとする者は強制的に捕まえた。老若男女、子供でも容赦なしだ。
 ちょいと心が痛むが、難民たちはマナフォース住民に迷惑をかけ続ける存在でもある。
 手心は加えるべきじゃないだろう。

 町の外に追い出した難民は、奴隷商人が片っ端から捕まえて手かせをつけていった。
 数は百人以上はいるな。
 あちこちから悲鳴が上がっている。
 胸くそ悪いが止めるわけにはいかない。

「お前たちはマナフォースに不法入国をした。そして町の外はパルティア王国の領土。犯罪者が奴隷になったとて、文句はないよな?」

 バルトが冷たい声で言う。
 抗議の声は完全に黙殺されてしまった。
 次は俺の番だ。

「俺はユウ。今回、奴隷商人を手配してお前たちを買い付けた。俺は事情があって、人手をたくさん必要としている。だからお前たちを使う予定だ。ただし行き先が北の土地で、成功の保証はまだない。だからお前たちが選ぶといい。俺といっしょに北で開拓をするか、パルティア王国に残って奴隷として過ごすか」

「北で開拓するだって? 無茶な!」

 難民たちの間から声が上がる。

「南の土地だって開拓村は潰れてばかりなんだ。北で開拓なんかしてみろ、全員寒さの中で飢え死にだろうが!」

「そうだ、そうだ」

「そんな自殺まがいのことに付き合っていられるか」

 だいぶ評判が悪いな。
 ここで人手を確保できないと困る。
 そこで俺はさらに言った。

「勝算はある。まず、行き先はパルティア王国の外だ。だから税金は取られない。次に俺と農業が得意な奴隷がきちんと北の地を見て、畑を作れると判断した。最後に北の土地の民が協力すると約束してくれている。だから断じて自殺などではない。みんなを飢え死にさせないために全力を尽くす」

 難民たちは戸惑ったようにざわざわとしている。
 パルティア国外とか今の段階で断言するべきじゃないとは思うが、人手確保の説得のためだ。やむを得ない。
 それに彼らがパルティアに残る選択をしたとしても、雪の民との国境画定までは俺の手元に置いておくつもりだ。
 だから話が漏れることはない。

「開拓が成功すれば、働きに応じて報いるつもりだ。奴隷身分からの解放の他、土地も分配する。開拓村の運営資金は徴収するが、パルティアのような重税ではない。真面目に働けばきちんと食っていける、そんな村を目指している」

 難民たちのざわめきが大きくなった。
 青年が一人、前に進み出て言った。

「その話が本当なら、おれはついていきたい」

「よせ、バカ! うまい話に騙されるな!」

 中年の男性が彼の服の裾を引いている。

「奴隷商人は嘘つきだ。甘い話につられて悲惨な目にあうのは、よくある話だろ! どうせこき使われて死んだら放置だよ!」

「そうだよ! あたしは昔、生きるために娘を売った。でも奴隷商人は約束の半分のお金しかくれなかった。おかげで家族はばらばらになって、こんな場所で難民をしている」

 年配の女性も叫んだ。

「だけど、ここにいたって暮らしていけないわ!」

 若い女性が言い返す。

「それならこの人についていきたい。本当に土地がもらえるなら、また農業で暮らしたい」

 難民たちの意見が割れた。
 将来の希望を夢見る人と、絶望してしまっている人がいる。
 彼らはそれぞれ迷っているようで、意見はまとまらない。
 しばらく様子を見た後、俺は大声を張り上げる。

「心は決まったか? まあ、今すぐ決めろとは言わない。数日後に改めて聞きに来る。そのときまでに決めておいてくれ」

「と、いうことだ」

 バルトが俺の話を引き継いだ。

「よく考えるんだね。ただ、お前たちは選択肢を与えられた。それを忘れるな。今までの人生で自分の意志で選ぶなど、どれだけあったか思い出すといい。奴隷ごときに選択の機会を与える彼が、どういう人物なのかと、ね」

「バルト、そんなもったいぶった言い方するなよ」

 背中がかゆくなる。
 小声で言ってやると、彼はニヤリと笑った。

「このくらい言っておかないと、あいつらには通じないよ。貧すれば鈍する。毎日食うのでカツカツだと、ろくに物事が考えられなくなるから」

「それは分かる……」

 十五歳で冒険者を始めたばかりの頃、俺もそうだった。
 毎日生きるのに必死で先のことなど考えられなかった。
 俺の場合はそれでも冒険者という職業があって、町の人の依頼と親切に支えられながら前に進めたが。
 もう少し運が悪ければ野垂れ死んでいた。あるいは、奴隷商人に捕まって強制労働でもさせられていたかもな。

「じゃあ、後は任せた」

「はい」

 盗賊ギルドお抱えの奴隷商人に後を頼んで、俺たちはマナフォースの町に戻った。
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