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第四章 国相手の交渉
53:手土産のおまけ
しおりを挟む杖二本を作っても時間が余っていたので、俺は双剣を作ることにした。
バルト用のだ。
彼は盗賊ギルドの一級ギルド員。
以前いっしょに旅をしたが、一流といえる腕の持ち主だった。
今回見た所、以前と同じ獲物を使っている。
決して悪い品ではないしよく手入れもされているが、やや古びているように思う。
バルトには何度も世話になった。
ここらで手土産ならぬお礼の品を贈っておくのもいいだろう。
なら、今の俺の全力で双剣を作らないとな。
地金は竜爪を選んだ。
同じ竜から取れる素材でも竜鱗は防具や護符向き。竜爪は武器に向いている。
宝石はエメラルド。
風属性で風竜の爪に合わせてみる。
バルトは軽業スキルを併用した疾風怒濤の動きが得意だからな。
彼は魔法は使わないので、魔力は軽さと切れ味に全振りでいいだろう。
八割方完成したところで、試作品を使ってもらった。
「これを僕に?」
バルトは目を丸くした後、嬉しそうに竜爪の双剣を手に取った。
くるくるとジャグリングのように回してから、目にも止まらぬ速さで一通りの型を披露してくれる。
「さすが。前より腕を上げている」
俺が言うと、バルトは得意げに笑った。
「まあね。この世界で生き抜くには、立ち止まったままじゃいられないだろ」
「そうだな。……ところで、微調整が必要な箇所はあるか? 今なら直せるし、何なら魔法の付与もできるが」
「本当かい? それじゃあ突風の魔法の付与をお願いしたい。接近時の牽制や目眩ましに使いたいんだ」
「了解。それと微調整だが、右手用のをちょっと軽くしたほうがいいな。お前は両利きだが、右手が少しだけ弱い」
「…………」
バルトは自分の右手を見た。
「まさか見抜かれるとはね。僕は両利きじゃない、訓練して両方使えるようになったのさ。それはもう、血の滲むような努力だったよ」
いつもヘラヘラしている彼に似つかわしくない、真面目な口調だった。
バルトは若いが盗賊ギルドの上級員だ。きっと相応の事情があるのだろう。
「訓練は今でも欠かさず続けている。見抜かれるとは思ってもみなかった。しょせん僕は未熟ということか……」
どこか疲れたようなため息をつく。
彼らしくない態度がなぜか気に入らなくて、俺は言った。
「訓練不足だなんて言ってない。俺はただ、気づいたことを口に出しただけだ。で、右手用の剣は微調整すれば完璧になる。突風の魔法もつけてやる。それを使って、いくらでも強くなってくれ」
バルトはぱちぱちと瞬きをした。それからプッと吹き出す。
「あはは、気を遣わせちゃったね。ごめん、ごめん。双剣術は自信があったから、弱点を見抜かれてちょいとショックを受けただけだよ。でもユウの言うとおりだね。弱点があるなら乗り越えればいいだけで」
不敵に笑う様子は、もうすっかりいつものバルトだ。
「最高の武器を期待しておくよ。お金はちゃんと払うから」
「いいや、いらないぞ?」
俺の言葉にバルトは眉を寄せた。
「駄目だろ。ここまでの名剣を安売りするな。鍛冶の腕が泣くよ?」
「安売りなんてしていない。バルトに今までさんざん世話になったから、お礼だよ。カルマが下がって困っていたときも、王宮に忍び込んでヴァリスに会いに行ったときも、それに今度の魔法都市行きも。いつだって力を貸してくれたじゃないか」
「あ、あー。それはギブアンドテイクというか、僕たち盗賊ギルドにも旨味があったから手出ししたというか……」
バルトは彼らしくもなく言いよどんでいる。ちょっと頬が赤い。
俺は続けた。
「お前に別の考えがあったとしても、俺は助けられたと思っている。だからもらってくれ」
バルトは俺の顔を見て、しばらくしてから言った。
「……そういうことなら。ありがたくいただくよ」
「よし! 残り時間で最高の双剣を作ってやる。楽しみにしておいてくれ」
俺が力を込めて言ったら、彼は嬉しそうに笑ってくれた。
(まったく、変な奴だよ)
ユウの鍛冶場を後にしてバルトは思った。
(この世は良くてギブアンドテイク。油断すればすぐに弱肉強食なのに。ついこの前までは、ユウは食われるだけの弱者だったはずなのに)
ユウが店を出したのは、最初の頃から知っていた。
ろくに警備員を置かずにいるものだから、強盗に気をつけろと忠告したこともあった。
バルトの属する盗賊ギルドは、裏社会に根を張る犯罪集団としての顔と、ダンジョン攻略の冒険者を支援する組織という二つの面を持つ。
盗賊ギルドの本拠地、ならず者の町ディソラムでは裏の顔が強い。
その他の町にも密かにネットワークが張り巡らされている。
けれど冒険者としての盗賊職――表の顔も盗賊ギルドにとっては重要だった。
単なる隠れ蓑ではない。
大手を振って冒険者ギルドやその他のギルドと取引をし、ギルド員を派遣する。
裏社会だけでは手薄な場所をカバーするために必要なのだ。
表の顔の拡大策として、ユウの存在が注目されていた。
彼の店は繁盛している。
盗賊ギルドというだけで白い目で見られがちなメンバーも、ユウの店を介せばスムーズな取引ができた。
そして今回の開拓村の話。
新しい土地、新しい村で最初から盗賊ギルドが組み入れられれば、活動はぐっとやりやすくなるだろう。
ユウの性格は盗賊ギルド長も承知している。
犯罪や曲がったことを嫌う真っ直ぐな性格だと。
だから開拓村に乗り込む盗賊ギルドは、あくまで表の顔。
いずれ村が町に、都市にまで発展するようなことになれば裏の顔も入り込むだろうが、当面はクリーンな活動をすることになっている。
その計画の先導役がバルトだった。
「だから僕は、仕事をしているだけなんだ」
それなのに、ユウは感謝しているという。
惜しみもなく腕を振るって驚くほど質の良い武器を贈ってくる。しかもバルトをよく見て、彼にぴったりの特性のものを。
ただの善意で贈られるプレゼントなど、バルトは今までもらったことがなかった。
(……嬉しいものだな)
先ほど握った双剣の感触を思い出す。
自らの心の動きに戸惑いながら、バルトはしばらく佇んでいた。
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