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第三章 最強への道

38:出店計画

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 エリーゼの言葉で、俺は業務拡大(?)の決心をした。
 今の俺の実力は、上級冒険者といって差し支えない。
 中堅クラスのダンジョン攻略は問題なく進めて、ボスから得た装備品も充実した。
 クマ吾郎といっしょに効率よく戦闘を繰り返したため、短期間で強くなれたのだ。
 当然実入りも良くなって、貯金はかなり増えた。

 だが、何人もの奴隷を買って彼らを養うとなったらどうだろう。
 生活費を稼ぐためにカツカツになってしまっては意味がない。
 奴隷の皆さんにしっかり働いてもらって、さらに利益を上げなければ。

 そのためにはどんな人材を買って、どんな仕事を割り当てるか熟考の必要があった。

 状況を整理しよう。

 俺が業務拡大に乗り出すのは、ダンジョン攻略が行き詰まりつつあるからだ。
 高ランクのダンジョンでも通用するアイテムを手に入れるため、生産スキルを強化する。
 生産スキルはいっぱいあって一人では手が回らないので、奴隷を買う。
 奴隷を買う以上は、生活費以上のお金を稼いでもらう。

 ということは、奴隷に作ってもらったアイテム類を売ればいいか?

 ただ、ここにも問題がある。
 町の店ではアイテムをあまり高く買い取ってくれないのだ。
 店だって商売だから、買取価格を上げられないのは分かる。

「じゃあ、自分で店をやるのはどうだ……?」

 そうすれば、店に売るよりは高く売れる可能性がある。
 生産スキルが低いうちは、あまりいいアイテムは作れないだろうが。それでも冒険者などには需要があると思う。

「店って勝手に出していいのかな?」

「どうでしょう」

 俺が首をかしげると、エリーゼは困ったように答えた。彼女が知っているわけもないか。
 冒険者ギルドに行って聞いてみる。

「よう、ユウ。久しぶりだな。お前、すっかり強くなってよ」

「いやいや、まだまだこれからだよ」

 受付のおっさんが懐かしそうに話しかけてくる。
 そういや去年の今頃は、この港町を拠点に必死に暮らしていたっけな。

「ちょっと聞きたいんだが。個人で店を出すにはどうしたらいいんだ?」

「町の中で出すなら、その町の役所に届け出て許可をもらう。街道やら町の外なら、王都で許可をもらうってとこだな」

「へぇ……」

 店を出す場所はよく考える必要がある。
 まず、町の中はあまり良くない。すでに別の店があって競合してしまうからな。
 じゃあ町の外か。
 街道沿いで人の多い場所や、ダンジョンがよく生まれる地域で冒険者相手に商売するってとこだろう。

「分かった。ありがとう」

「おうよ。店をやるのか?」

「まだ計画段階だけどね」

 そんな話をして、俺は冒険者ギルドを出た。

「どうでしたか?」

 外で待機していたエリーゼが尋ねてくる。

「王都で出店の許可をもらえるんだってさ。場所を考えながら王都まで行こうか」

 王都にはこの国で一番大きな奴隷市場もある。人材の調達はそこですればいい。
 この一年で配達やダンジョン探しをしてあちこち歩き回ったおかげで、この国の地理はだいたい把握している。
 店を出すのにいい場所もいくつか目星がついていた。






 王都までの道すがら、手頃なダンジョンがあったのでいくつか攻略した。
 寄り道をしたせいで少し時間を食ってしまい、王都に到着する頃には季節は初夏になっていた。

 せっかくここまで来たので、直近の税金を納めておく。
 今度はヴァリスに呼び出されることもない。
 お役所に行って新規出店について案内を聞いた。
 担当のお兄さんが言う。

「店を出すには許可証が必要です。こちらの申請用紙に記入の上、お金を添付してください。金貨三枚です」

「なかなかお高いですね」

 金貨一枚あれば、一人暮らしなら半年は暮らせる。
 正直ぼったくりと思ったが、国家権力に反論はできない。

「商売をやるんですから、その程度の資金はあって当然でしょう?」

「まあそうですけど」

 俺はしぶしぶ金貨三枚を取り出して、テーブルの上に載せた。
 今の俺の全財産は、金貨にして二十五枚ほど。ここで三枚出して二十二枚になる。まあまだ余裕はある。

「確かに確認しました。こちらが許可証です」

 担当のお兄さんは申請書と金貨を受け取って、許可証をくれた。

「こちらは野外用の許可証になります。王都を含めた他の町の中では出店できませんので、あしからず」

「了解です」

 許可証を荷物袋に大事にしまって、お役所を出る。
 入り口のところでエリーゼとクマ吾郎が待っていてくれた。

「終わったよ。次は奴隷市場に行こう。エリーゼは無理しなくていいぞ」

 彼女は奴隷市場で、お世辞にも良い扱いは受けていなかった。
 嫌な思いをしてほしくなくて言ったのだが、エリーゼは首を横に振った。

「大丈夫です。わたしの仕事仲間を見つけるのですから、いっしょに行きたいです」

 きりっとした顔のエリーゼは、メイド服姿なのも相まってとてもかわいい。
 俺はニヤけそうになる顔を押さえながら、やっと答えた。

「ん。分かった」

「ガウ」

 クマ吾郎は俺がニヤけているのに気づいているな。悪かったな!

 そうして向かった奴隷市場は、相変わらず胸くそ悪い場所だった。
 やっぱり俺は奴隷制が嫌いだよ。

 鎖に繋がれ、手かせをはめられた奴隷たちが狭い檻に押し込められている。
 向こうではオークションをやっているらしく、台の上に立った奴隷たちが自分の名前と特技を書いた札を持っていた。

 オークションを後ろの方から見ていたら、奴隷商人に話しかけられた。

「お客さん、見ない顔ですね。今日はどんな商品をお探しで?」

 人間を商品と言ってはばからない。俺はイラッとしたが表には出さずに言った。

「生産スキルが得意な人を探している。戦闘はできなくてかまわない」

「それでしたら……」

 奴隷商人はオークションから離れて、建物の一つに俺たちを招き入れた。
 何人かの奴隷が引き出されてくる。
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