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第三章 最強への道
37:次の一手
しおりを挟む最近の俺は方向性に悩んでいる。
今日も盗賊ギルドの一室で、一人うんうん唸っていた。
レベルが上ってスキルやステータスも上昇し、中堅クラスのダンジョンを攻略できるようになった。
戦闘スタイルは以前と同じ。
クマ吾郎を前衛に、俺が剣、魔法とポーションでサポート。
最近はエリーゼが加わったが、彼女はあくまで補助要員である。基本戦法は変わらない。
そしてダンジョンの難易度が上がるに従って、混乱やマヒといったデバフ系ポーションの効きが悪くなっているのだ。
特にボスには牽制程度にしかならない。
このままの戦い方では、近いうちに行き詰まるだろう。
また、税金の滞納で犯罪者になった件。
それにヴァリスに頼まれて確認しに行った謎の洞窟の件。
これらのできごとは、国家権力に対して個人の無力さを思い知らされた。
少しくらい腕前が上がったところで、権力の前には意味がないのだ。
さらに難易度の高いダンジョンを効率よく攻略する方法。
権力を前にしても簡単に負けないだけの力。
もっと強くなりたい。
もっともっとお金を稼いで、クマ吾郎やエリーゼにいい暮らしをさせてやりたい。
この世界の理不尽から守ってやりたい。
難題ではあるが、全てはつながっているようにも思える。
個人の冒険者として誰にも負けないほどの腕を。
そして、お金の力を背景とした権力を。
つまり、目標が高くなっただけで今までと変わりはないのだ。
目標自体は変わらないが、そのための手段は変える時期である。
「さて、どうするかなぁ」
俺はつぶやいて、手元の古びた本を見た。
これはあるダンジョンで拾った本。昔の冒険者の日記だった。
日記の冒険者は生産職を兼ねていたようで、毎日素材の採集にいそしんでいた。
特にポーション作りが得意だと書いてある。
で、彼は素材採集に夢中になるあまり魔物に不意打ちされて死んだ、らしい。
死んだところまで日記に書いてあるわけじゃないが、白骨死体のそばにこれが落ちていた。推して知るべし。
この日記の重要な点は、店で売っていたりダンジョンに落ちているポーションよりも高品質なものを作れると書いてあるところだ。
質の良いポーションであれば、レベルの高い魔物に通用する可能性がある。
混乱やマヒのポーションは、うまく決まれば相手を無力化できる。
無限に出てくる魔物相手に、いちいち正面から戦うのは無理だ。
だからぜひとも、無力化できる手段がほしかった。
錬金術はスキルである。
王都の冒険者ギルドで習えたはずだ。
その他にも生産系と思えるスキルは、あちこちの町にあった。
今までは余裕がなくてスルーしていたが、そろそろ取り組んでみよう。
「ご主人様、考えは決まりましたか?」
部屋で待機していたエリーゼが言った。
ふと思いついて、俺は言ってみた。
「エリーゼは裁縫スキルを持っていたよな。あれ、服とか作れるのか?」
「どうでしょう……。わたしのスキルは低すぎて、繕いものをするくらいしかできません。でも、スキルを鍛えればできるかもしれませんね」
「なるほど」
スキルを最初から持っているのは強みだ。鍛えてみる価値はあるだろう。
さすがの俺も、全ての生産スキルを一人で極めるのは大変すぎる。手分けするのはいいアイディアだ。
「ダンジョン攻略、ちょっと行き詰まってきだだろ。だからここらで方向転換しようと思ってな」
俺はエリーゼとクマ吾郎に考えを話して聞かせた。
二人ともうなずいている。
「幸い、スキル習得に必要なメダルはたくさんある。これから各地を回って、めぼしいスキルを覚えてこよう」
「はい!」
「ガウッ」
そうして俺たちは春の季節を移動と町めぐりに費やした。
各町で見つけた生産系スキルは以下の通り。
鍛冶。ハンマーを振るって金属製の武器や防具を作る。
錬金術。素材を組み合わせてポーションを作る。
裁縫。布切れや素材から服やマント、靴を作る。
宝石加工。宝石や貴金属を加工してアクセサリーや護符を作る。
杖製作。木や魔法の触媒を加工して魔力のこもった杖を作る。
魔法書製作。紙や魔法の触媒を使って魔法書を作る。
巻物製作。紙や魔法の触媒を使って巻物を作る。
……思ったよりも種類があった。
とても俺一人では手が回りそうにない。
あれこれ手を出して中途半端に終っても意味がないだろう。
ある程度絞るべきだと感じた。
「裁縫はエリーゼに任せるとして、人手不足だな……」
久々に訪れた港町カーティスで、俺は考え込んだ。
優先順位を考える必要がある。
「ご主人様」
エリーゼが遠慮がちに言った。
「あと何人か奴隷を買ってはいかがでしょう。生産スキルの素質がある人を選んで育てるのです」
「うーん」
いい考えだと思うが、俺はためらった。
エリーゼが問いかけてくる。
「何か問題があるでしょうか?」
「そうだなあ。一つは俺が奴隷嫌いということ」
「え……」
エリーゼが悲しそうに顔を歪めたので、俺は慌てた。
「違う違う、エリーゼが嫌いという意味じゃない! 奴隷制度そのものに反対ってことだよ。だってお金で人を売ったり買ったりするなんて間違っている。エリーゼだって子供の頃は開拓村の自由民だったんだよな。それが奴隷になってしまって、嫌だっただろう」
「わたしが奴隷になったのは、親に売られたからです。わたしを売ったお金で家族は冬を生き延びました。仕方ないことです」
いきなりヘビィな話が飛び出した。
分かってはいたが、この世界で日本の常識も良心も通じやしない。
けれど割り切るのは嫌なんだ。
前世の話をして理解してもらえるわけはないので、説明に苦労した。
けれどエリーゼを嫌っているわけではないこと、奴隷制度そのものに疑問を持っていることは分かってくれたらしい。
「ご主人様は優しいですね」
と微笑まれてしまった。
「けど、この国に奴隷制があるのはどうしようもないですよ。だったら奴隷を買って、わたしみたいに優しくしてあげて、生きる力を育ててあげてください」
この国の人間で今なお奴隷身分の彼女の言葉には、説得力がある。
「……分かった。ただ、養う人数が増えればお金や食べ物の問題も出る。少し考えさせてくれ」
「はい」
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