上 下
34 / 66
第三章 最強への道

34:一年

しおりを挟む

 エリーゼを買って盗賊ギルドに戻る。俺は彼女に役割を伝えた。

「きみには税金や依頼の締切チェックと、戦闘の補助をお願いしたい。締切は俺も確認するし、戦闘はあくまで後衛でいい。命の危険があったら逃げてくれ」

 エリーゼは暗い表情のまま首を振った。

「仕事については承知しました。でも逃げるのはできません。命をかけてあなたを守るのが、奴隷の仕事です」

「俺がそうしろと言っているんだ。命令だよ」

 強く言えば、彼女はやっとうなずいた。

「……分かりました、ご主人様」

 ご主人様!!
 その言葉はなぜか俺の心を貫いた。

 おかえりなさい、ご主人様。
 萌え萌えキュン。
 おいしくな~れの魔法をかけちゃう。

 そんなセリフとともに、黒いワンピースに白いエプロンの女性の面影がよみがえる。
 心臓がきゅんきゅんいってる。
 え、何? 俺ってメイド萌えだったの?
 正直、前世日本の記憶はもうあいまいだ。日本人としての俺がどんな人間だったのか、よく思い出せない。

 あぁでも、この胸のトキメキは本物!
 ミニスカメイドもいいが、クラシックなロングスカートも捨てがたい!

「なあ、エリーゼ。ミニスカートとロングスカートだとどっちが動きやすい?」

「え?」

 気がついたら俺は口走っていた。
 でも最低限の気遣いは残っていたようで、戦闘時の動きやすさを聞いていた。

「タイトなスカートでなければ、どちらも変わりません」

 と、エリーゼ。

「じゃあ両方買おう! 洗い替えは必要だしな!」

「えぇ?」

 彼女の手を取って走り出す。行き先は盗賊ギルド内の服屋だ。
 盗賊ギルドは変装グッズが揃っている。そのため色んな職種の服が売っていた。

「ミニとロングの黒ワンピースください。あとエプロン。メイド服にいいやつ」

 店主のおばさんに言えば、すぐにイメージぴったりのを取り出してくれた。
 ワンピースとエプロンだけでなく、ヘッドドレスも忘れない。うんうん、セットで身につけてこそメイドだよな。

「よく似合ってるよ!」

 試着コーナーでメイド服(ミニ)に着替えたエリーゼは、照れくさそうだ。
 でも奴隷としてひどい扱いを受けてきたせいで、痩せ過ぎだし肌にも髪にもツヤがない。
 これからしっかり栄養を取って、健康的なメイドさんになってもらおう。

 実務のために奴隷を買ったが、心のうるおいまで手に入れてしまった。
 エリーゼに感謝だな。

 その後エリーゼをクマ吾郎に紹介したら、お互いすぐに打ち解けていた。

「わたしは昔、開拓村で狩人見習いをやっていました。だから森の動物の扱いは慣れているんです。この子はいい熊ですね」

「ガウ~」

 あごの下をくすぐるように撫でられて、クマ吾郎も満足そうだ。
 さあ、俺たち二人と一匹で新しいスタートを切ろう!






 カルマをゼロに戻し、奴隷のエリーゼを仲間に加えたがやることは変わらない。
 盗賊ギルドを拠点にダンジョン巡りを続けている。

 エリーゼはしっかり者で、引き受けた依頼の日程や税金の締切日などをきっちり管理している。
 おかげで前のようなうっかりミスはなくなった。

 戦闘面ではちょっと頼りない。
 弓の腕前は未熟で、サポート以上の働きは今のところできていない。
 エリーゼはそれを気にしていて、

「もっと強くならないと……。ご主人様のお役に立てないなんて、奴隷失格です」

 と落ち込んでいる。

「そんなことないって! 弓の腕もこれから磨いていけばいいんだよ。俺だって最初はひどいもんだったから」

「そうでしょうか……」

 俺が励ましても彼女は浮かない顔のままだ。
 エリーゼはクマ吾郎の首に抱きついて、首筋に顔を埋めている。
 しばらくすると、気分を切り替えて顔を上げた。
 俺の言葉よりクマ吾郎のモフモフのほうが励ましになるらしい。
 俺としても彼女たちが仲良くしているのを見ると癒やされるので、これでいいと思っている。

 そうして戦いに明け暮れながら、冬が過ぎていった。






 いつしか季節は春になっていた。
 俺が難破船から放り投げられたのが、やはり春。もう一年が経過してしまった。
 海で死にかけていた俺を助けてくれた森の民の二人、ニアとルードはあれ以来会っていない。
 少し強くなった今、ルードにお礼参りをしてやりたいところだが、居場所が分からないんじゃ仕方がない。

「ご主人様。税金の請求書が来ていますが、納税に行きますか?」

 春のある日、盗賊ギルドで次の冒険の準備をしているとエリーゼが言った。

「冬に納税したばかりですので、締切に余裕はあります。まとめ払いも可能です。どうしましょう?」

「うーん」

 俺はちょっと考えた。
 盗賊ギルドのある町から王都までは片道五日。
 すぐ近くというわけでもない。正直、わざわざ行くのはちょっとめんどくさい。
 だがまとめ払いで締切ギリギリまで粘ると、前のように思わぬ事態で脱税犯罪者になってしまうかもしれない。

 考えた結果、俺は答えた。

「配達の依頼がてら、納税に行こうか」

「分かりました。旅の準備をしますね」

 以前は俺一人でやっていた準備作業も、今ではほとんど彼女がやってくれる。
 俺もいい身分になったものだ。

 というわけで、俺たちは王都へと旅立った。

 旅の途中、野宿の際の食料は現地調達もする。
 獣や鳥を狩ったり、川や湖があれば釣りもする。
 この前、新しく料理スキルを習得した。
 おかげで狩った肉や釣った魚もその場でおいしく調理できて、とても助かっている。

「料理スキル、もっと早くに取ればよかったよ」

 焚き火で魚を焼きながら、俺はしみじみと言った。
 料理スキルを覚える前は、ただ肉や魚を焼くだけでも失敗ばかりだった。黒焦げだったり生焼けだったりで食べられたものじゃないのだ。
 料理をもっと練習していけば、さらにおいしい一品を作れるかもしれない。

「わたしも料理を覚えたいです」

 焼いた山鳥をもぐもぐ食べて、エリーゼが言う。
 この山鳥は彼女とクマ吾郎が共同作業で捕まえたものだ。
 最近のエリーゼはしっかりと食事をとるおかげで、ガリガリだったのが少しふっくらとしてきた。いい感じだ。

「そういや、冒険者じゃない人はどうやってスキルを覚えるんだろうな。メダルで習えるかな?」

 俺は首をかしげた。
 スキルは基本、メダルを払ってギルドで習うが、関連する動作を繰り返していたら勝手に覚えるときもある。
 俺も木登りや投擲は練習していたらいつの間にかスキルになっていた。
 この世界は本当に訳が分からん。

「では、ダメ元で練習してみます」

 エリーゼが言って、食べ残しの骨を炙っている。あちち! とか言ってる。

「やけどしないようにね」

「はい……」

 その後は片付けをして、みんなで歌を歌って過ごした。
 エリーゼは歌がうまい。

「ららら~♪」

「ガウガウ~♪」

「ボエェ~~~♪」

 最後のは俺である。
 エリーゼは遠慮がちに困った目で俺を見て、クマ吾郎は鼻にシワを寄せていた。
 悪かったな、音痴で。

 そんなわけで、王都への旅は楽しく進んでいった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

異世界でハズレスキル【安全地帯】を得た俺が最強になるまで〜俺だけにしか出来ない体重操作でモテ期が来た件〜

KeyBow
ファンタジー
突然の異世界召喚。 クラス全体が異世界に召喚されたことにより、平凡な日常を失った山田三郎。召喚直後、いち早く立ち直った山田は、悟られることなく異常状態耐性を取得した。それにより、本来召喚者が備わっている体重操作の能力を封印されずに済んだ。しかし、他のクラスメイトたちは違った。召喚の混乱から立ち直るのに時間がかかり、その間に封印と精神侵略を受けた。いち早く立ち直れたか否かが運命を分け、山田だけが間に合った。 山田が得たのはハズレギフトの【安全地帯】。メイドを強姦しようとしたことにされ、冤罪により放逐される山田。本当の理由は無能と精神支配の失敗だった。その後、2人のクラスメイトと共に過酷な運命に立ち向かうことになる。クラスメイトのカナエとミカは、それぞれの心に深い傷を抱えながらも、生き残るためにこの新たな世界で強くなろうと誓う。 魔物が潜む危険な森の中で、山田たちは力を合わせて戦い抜くが、彼らを待ち受けるのは仲間と思っていたクラスメイトたちの裏切りだった。彼らはミカとカナエを捕らえ、自分たちの支配下に置こうと狙っていたのだ。 山田は2人を守るため、そして自分自身の信念を貫くために逃避行を決意する。カナエの魔法、ミカの空手とトンファー、そして山田の冷静な判断が試される中、彼らは次第にチームとしての強さを見つけ出していく。 しかし、過去の恐怖が彼らを追い詰め、さらに大きな脅威が迫る。この異世界で生き延びるためには、ただ力を振るうだけではなく、信じ合い、支え合う心が必要だった。果たして彼らは、この異世界で真の強さを手に入れることができるのか――。 友情、裏切り、そしてサバイバルを描いた、異世界ファンタジーの新たな物語が幕を開ける。

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

このステータスプレート壊れてないですか?~壊れ数値の万能スキルで自由気ままな異世界生活~

夢幻の翼
ファンタジー
 典型的な社畜・ブラックバイトに翻弄される人生を送っていたラノベ好きの男が銀行強盗から女性行員を庇って撃たれた。  男は夢にまで見た異世界転生を果たしたが、ラノベのテンプレである神様からのお告げも貰えない状態に戸惑う。  それでも気を取り直して強く生きようと決めた矢先の事、国の方針により『ステータスプレート』を作成した際に数値異常となり改ざん容疑で捕縛され奴隷へ落とされる事になる。運の悪い男だったがチート能力により移送中に脱走し隣国へと逃れた。  一時は途方にくれた少年だったが神父に言われた『冒険者はステータスに関係なく出来る唯一の職業である』を胸に冒険者を目指す事にした。  持ち前の運の悪さもチート能力で回避し、自分の思う生き方を実現させる社畜転生者と自らも助けられ、少年に思いを寄せる美少女との恋愛、襲い来る盗賊の殲滅、新たな商売の開拓と現実では出来なかった夢を異世界で実現させる自由気ままな異世界生活が始まります。

金貨1,000万枚貯まったので勇者辞めてハーレム作ってスローライフ送ります!!

夕凪五月雨影法師
ファンタジー
AIイラストあり! 追放された世界最強の勇者が、ハーレムの女の子たちと自由気ままなスローライフを送る、ちょっとエッチでハートフルな異世界ラブコメディ!! 国内最強の勇者パーティを率いる勇者ユーリが、突然の引退を宣言した。 幼い頃に神託を受けて勇者に選ばれて以来、寝る間も惜しんで人々を助け続けてきたユーリ。 彼はもう限界だったのだ。 「これからは好きな時に寝て、好きな時に食べて、好きな時に好きな子とエッチしてやる!! ハーレム作ってやるーーーー!!」 そんな発言に愛想を尽かし、パーティメンバーは彼の元から去っていくが……。 その引退の裏には、世界をも巻き込む大規模な陰謀が隠されていた。 その陰謀によって、ユーリは勇者引退を余儀なくされ、全てを失った……。 かのように思われた。 「はい、じゃあ僕もう勇者じゃないから、こっからは好きにやらせて貰うね」 勇者としての条約や規約に縛られていた彼は、力をセーブしたまま活動を強いられていたのだ。 本来の力を取り戻した彼は、その強大な魔力と、金貨1,000万枚にものを言わせ、好き勝手に人々を救い、気ままに高難度ダンジョンを攻略し、そして自身をざまぁした巨大な陰謀に立ち向かっていく!! 基本的には、金持ちで最強の勇者が、ハーレムの女の子たちとまったりするだけのスローライフコメディです。 異世界版の光源氏のようなストーリーです! ……やっぱりちょっと違います笑 また、AIイラストは初心者ですので、あくまでも小説のおまけ程度に考えていただければ……(震え声)

処理中です...