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第二章 生き残りの日々
17:魔法マホー
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ふさふさして温かい感触が頬に触る。
目を開けてみると、茶色い毛皮が目の前にあった。
「ハフゥ?」
俺が身動きすると、クマ吾郎が心配そうにのぞき込んできた。
茶色い毛皮は彼女の腹毛。
背中のほうの毛は硬くてゴワゴワしているけれど、腹毛は柔らかくて気持ちがいい。
「ありがとう、クマ吾郎。もう大丈夫だよ」
魔法書の解読に失敗した俺は、魔力を根こそぎ吸い取られて気を失ってしまった。
意識がない間、クマ吾郎が守ってくれていたようだ。
こいつは本当にいい熊だな。町に帰ったら肉を買ってあげよう。
それなりに長い間意識を失っていたようで、辺りは夕焼けに染まり始めている。
「しかし、初歩の魔法がこんなに難しいとは。魔法書、銀貨五枚もしたのに」
俺はため息をついて手元の魔法書を見た。
何度も読んだせいか、魔力がだいぶ薄くなっている。
もう一度読めば崩れてしまいそうだった。
俺自身のMPはもう回復している。
じゃあ最後にもう一度魔法書を読んで、今日は終わりにしよう。
クマ吾郎から少し離れて魔法書を開く。
よく集中して読めば、今度はきちんと読み終えることができた。
マジックアローの魔力が体に入ってくるのが分かる。
「よし」
今後はこうして簡単な魔法書を読みながら読書スキルを上げていくしかないだろう。
お金稼ぎも戦闘も、とにかく労力がかかるな。
「町に帰ろうか、クマ吾郎」
「ガウ」
それからの俺は、いっそうお金稼ぎに励むようになった。
装備もまだ揃っていないのに、魔法を覚えるという目標ができてしまったからだ。
魔法書は魔法屋で買う以外にも、ダンジョンでときどき落ちている。
マジックアローの魔法書は初心者向けだけあって、ダンジョンで拾える確率も高い。
その他の魔法書はとても読める気がしなかったので、売り払っている。
手元に取っておいても邪魔になるだけだ。将来を見越して物資を蓄えておくほどの余裕は今の俺にはない。
お金の節約のためにもダンジョンに積極的に行って、アイテムを拾ってくる。
ダンジョン探しとメダルの確保をするために、町から町へと渡り歩く配達の仕事をする。
最近の俺の生活は、こんなサイクルで回っている。
そんなある日、ダンジョンに入ったときの話だ。
俺が入るダンジョンは初心者向けで、魔物よりも野生動物などが数多く生息している。
今回も何匹かの洞窟コウモリに出くわした。
こいつらは体が小さい上に空を飛ぶので、攻撃がなかなか当たらない。
いつまでもまとわりついてきて、うっとうしい相手だ。
そこで俺は思いついた。
こういうときこそ魔法だ、と。
マジックアローの魔法はそれなりにストックがある。
コウモリに手をかざして、俺は叫んだ。
「マジックありょー!」
噛んだ!!!
当然のごとく魔法は発動せず、しかし、MPはしっかりと消費されやがった。
俺の貧弱なMPでは、マジックアロー一発で半分は持っていかれるというのに。
コウモリどもはバカにした様子でキーキー鳴いている。
クマ吾郎もこころなしかちょっと呆れた顔をしている、気がする。
くそ。名誉挽回だ、もう一度!
「まじゅっくありょー!」
事態は悪化した。
MPがカラになり、体が倦怠感に包まれる。心もダメージを負っている。
コウモリはクマ吾郎が始末してくれた。
俺はがっくりと地面に膝をついた。
その後、ダンジョンの野生動物相手に試してみた結果。
マジックアローの成功率は、およそ五分の一。
逆に言えば、五回に四回は失敗する計算だった。
成功率が低すぎる。
最初にネズミ相手に使ったときは、運良く低確率の成功を引いただけだったようだ。
これじゃあとても実戦では使えない。
苦労して得た魔法がこれとか、どうなってんだ。
「いや、待てよ……?」
俺はふと思った。
魔法書を読むには読書スキルが必要。
では、魔法を使うにも何かのスキルが必要なのでは?
「でも、魔法用のスキルとか見たことないぞ」
配達で新しい町に行ったら、冒険者ギルドのスキル習得コーナーも必ず見るようにしている。町によって習えるスキルが違うからだ。
「……そろそろ、もっと足を伸ばして遠い町に行ってみるべきかも」
今までは港町カーティスを拠点にして、片道三~四日程度の町へ行ったり来たりしていた。
その辺の道は今ではもうすっかり慣れた。
弱い魔物や野生動物程度なら、俺とクマ吾郎で撃退できるようにもなった。
ならばいつまでも同じ場所にいないで、冒険してみてもいいじゃないか。
新しい町、新しいスキル。新しい出会いもあるかもしれない。
俺は一つうなずいて、決心を固める。
俺の決意を応援してくれるかのごとく、このダンジョンのボスはブーツを落とした。
爬虫類モンスターの鱗を張り合わせた素材だ。
今までのボロブーツよりよほど歩きやすい、いい品物だった。
名前:ユウ
種族:森の民
性別:男性
年齢:15歳
カルマ:30
レベル:9
腕力:11
耐久力:5
敏捷:9
器用:9
知恵:5
魔力:8
魅力:1
スキル
剣術:2.6
盾術:0.5
瞑想:1.2
投擲:1.9
木登り:1.8
釣り:1.5
魔道具:2.1
読書:1.5
装備:
鉄の剣(剣術ボーナス付き)
皮の盾
ボロ布のマント
ボロ布の服
鱗のブーツ(敏捷ボーナス付き)
頑張って魔法書の読書を続けていたおかげで、知恵が上がった。
失敗ばかりだが魔法に挑戦することで、魔力も上がっている。
目を開けてみると、茶色い毛皮が目の前にあった。
「ハフゥ?」
俺が身動きすると、クマ吾郎が心配そうにのぞき込んできた。
茶色い毛皮は彼女の腹毛。
背中のほうの毛は硬くてゴワゴワしているけれど、腹毛は柔らかくて気持ちがいい。
「ありがとう、クマ吾郎。もう大丈夫だよ」
魔法書の解読に失敗した俺は、魔力を根こそぎ吸い取られて気を失ってしまった。
意識がない間、クマ吾郎が守ってくれていたようだ。
こいつは本当にいい熊だな。町に帰ったら肉を買ってあげよう。
それなりに長い間意識を失っていたようで、辺りは夕焼けに染まり始めている。
「しかし、初歩の魔法がこんなに難しいとは。魔法書、銀貨五枚もしたのに」
俺はため息をついて手元の魔法書を見た。
何度も読んだせいか、魔力がだいぶ薄くなっている。
もう一度読めば崩れてしまいそうだった。
俺自身のMPはもう回復している。
じゃあ最後にもう一度魔法書を読んで、今日は終わりにしよう。
クマ吾郎から少し離れて魔法書を開く。
よく集中して読めば、今度はきちんと読み終えることができた。
マジックアローの魔力が体に入ってくるのが分かる。
「よし」
今後はこうして簡単な魔法書を読みながら読書スキルを上げていくしかないだろう。
お金稼ぎも戦闘も、とにかく労力がかかるな。
「町に帰ろうか、クマ吾郎」
「ガウ」
それからの俺は、いっそうお金稼ぎに励むようになった。
装備もまだ揃っていないのに、魔法を覚えるという目標ができてしまったからだ。
魔法書は魔法屋で買う以外にも、ダンジョンでときどき落ちている。
マジックアローの魔法書は初心者向けだけあって、ダンジョンで拾える確率も高い。
その他の魔法書はとても読める気がしなかったので、売り払っている。
手元に取っておいても邪魔になるだけだ。将来を見越して物資を蓄えておくほどの余裕は今の俺にはない。
お金の節約のためにもダンジョンに積極的に行って、アイテムを拾ってくる。
ダンジョン探しとメダルの確保をするために、町から町へと渡り歩く配達の仕事をする。
最近の俺の生活は、こんなサイクルで回っている。
そんなある日、ダンジョンに入ったときの話だ。
俺が入るダンジョンは初心者向けで、魔物よりも野生動物などが数多く生息している。
今回も何匹かの洞窟コウモリに出くわした。
こいつらは体が小さい上に空を飛ぶので、攻撃がなかなか当たらない。
いつまでもまとわりついてきて、うっとうしい相手だ。
そこで俺は思いついた。
こういうときこそ魔法だ、と。
マジックアローの魔法はそれなりにストックがある。
コウモリに手をかざして、俺は叫んだ。
「マジックありょー!」
噛んだ!!!
当然のごとく魔法は発動せず、しかし、MPはしっかりと消費されやがった。
俺の貧弱なMPでは、マジックアロー一発で半分は持っていかれるというのに。
コウモリどもはバカにした様子でキーキー鳴いている。
クマ吾郎もこころなしかちょっと呆れた顔をしている、気がする。
くそ。名誉挽回だ、もう一度!
「まじゅっくありょー!」
事態は悪化した。
MPがカラになり、体が倦怠感に包まれる。心もダメージを負っている。
コウモリはクマ吾郎が始末してくれた。
俺はがっくりと地面に膝をついた。
その後、ダンジョンの野生動物相手に試してみた結果。
マジックアローの成功率は、およそ五分の一。
逆に言えば、五回に四回は失敗する計算だった。
成功率が低すぎる。
最初にネズミ相手に使ったときは、運良く低確率の成功を引いただけだったようだ。
これじゃあとても実戦では使えない。
苦労して得た魔法がこれとか、どうなってんだ。
「いや、待てよ……?」
俺はふと思った。
魔法書を読むには読書スキルが必要。
では、魔法を使うにも何かのスキルが必要なのでは?
「でも、魔法用のスキルとか見たことないぞ」
配達で新しい町に行ったら、冒険者ギルドのスキル習得コーナーも必ず見るようにしている。町によって習えるスキルが違うからだ。
「……そろそろ、もっと足を伸ばして遠い町に行ってみるべきかも」
今までは港町カーティスを拠点にして、片道三~四日程度の町へ行ったり来たりしていた。
その辺の道は今ではもうすっかり慣れた。
弱い魔物や野生動物程度なら、俺とクマ吾郎で撃退できるようにもなった。
ならばいつまでも同じ場所にいないで、冒険してみてもいいじゃないか。
新しい町、新しいスキル。新しい出会いもあるかもしれない。
俺は一つうなずいて、決心を固める。
俺の決意を応援してくれるかのごとく、このダンジョンのボスはブーツを落とした。
爬虫類モンスターの鱗を張り合わせた素材だ。
今までのボロブーツよりよほど歩きやすい、いい品物だった。
名前:ユウ
種族:森の民
性別:男性
年齢:15歳
カルマ:30
レベル:9
腕力:11
耐久力:5
敏捷:9
器用:9
知恵:5
魔力:8
魅力:1
スキル
剣術:2.6
盾術:0.5
瞑想:1.2
投擲:1.9
木登り:1.8
釣り:1.5
魔道具:2.1
読書:1.5
装備:
鉄の剣(剣術ボーナス付き)
皮の盾
ボロ布のマント
ボロ布の服
鱗のブーツ(敏捷ボーナス付き)
頑張って魔法書の読書を続けていたおかげで、知恵が上がった。
失敗ばかりだが魔法に挑戦することで、魔力も上がっている。
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